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モノと道具を再構築する

2016.08.24

IT・クラウド時代のIT・クラウドビジネス営業(後編)

伊嶋 謙二

ホンネのITマネジメント

IT 効率 技術

中小企業は一途な顧客、大事にすれば見返りは大きい

中小企業は、統計的に言えば大雑把に300万社くらい、全国の法人企業の99%は中小企業、零細企業である。対中小企業市場は、営業対象として1つの案件は小さくとも、まとまった数としては膨大な規模であり、業種・業態を問わず、全国どこにでも偏在しているという特徴を持つ。

そこで言いたいのが、前回の冒頭で挙げた「地道が一番」というフレーズだ。中小企業のように、数は多いが個々の規模が小さい市場だと、手間をかけずに一気にビジネスができる「一発逆転の特効薬」を考えたくなるのが、IT企業のDNAである。しかし、それで失敗しているコンピューターベンダーが実に多い。私から見ると地道ではなく、トロール方式で一気に上がりを得ようとすることは、極めて売り手目線の思い上がった思考であるように見える。

ITシステムのように、営業マンとも社内とも相談して導入を決め、導入後もいろいろとアフターフォローが必要なビジネスの場合、売り切りで、それでおしまいというやり方では上手くいくはずがない。コンピューターベンダーとしては、中小企業はビジネス案件が小さいから、売るほうは手間も時間も掛けずにやりたい、さっさと売ることを優先して販売施策を立てたいと思うのだが、これが大きな間違いなのだ。

中小企業こそ手間をかけて、知識不足のクライアントにも丁寧に教えながら、じっくり付き合わなければいけない。そこに、逆に手離れの良い販売方法やセルフ購入のような形態を持ち込むという考え方がいかにずれていることか。現在、中小企業のクラウド利用が進まない最大の原因、ベンダーが振るわない最大の原因はここである。

前回も述べたが、中小企業にはそもそもコンピューター専門の部署がないか、あっても兼任で切り盛りしているのが現状である。そのため、社内での実際の情報システムの構築などを自前で行うことが難しい。そして、外部の販売店や専門業者に多くを委ねている。その結果、社内にスキルを持ったスタッフもいなければ、自社にシステム構築のノウハウなども残らない。残念だが、それを前提に企業側はクラウドの導入を、ベンダー側は営業を考えなければならない。

中小企業の4つの特徴

さて、ここで営業先としての中小企業のIT事情を整理し、彼らへの営業方針を考えてみたい。社内態勢や運用管理、開発などの状況について、次の4点が指摘される。

1. 人が少ない
絶対的な人数が足りないために、専門的に担当させるための人が少ない。

2. スキルがない、蓄積されていない
コストがかかるためにITスキルの蓄積が不十分。同時にITに長けた人材を育てていない。

3. 外部に依存している
過去から外部に頼っていたので、それに満足し、自分でやろうという努力が欠如している。

4. 以上を優先課題と思っていないために、その改善策が後回しになっている

この4つの条件からすると、中小企業のコンピューター担当者が、自ら率先して新しいシステム提案を企画、構築していくことが大変だと察せられるであろう。しかも、担当者がクラウドサービスを直接選択して使えるようにするには、担当者としての負担が非常に重い。

少なくとも担当者がクラウドサービスを利用するための、より良いガイドが不可欠だ。そして、周囲でもっとも確実で頼りになるのは、今まで企業にコンピューターなどを提案してくれていた販売店の営業マンやSE(開発)、CE(保守)ということになるだろう。

つまり、クラウドサービスを中小企業に届ける・利用させるためには、販売店などの実際の生身の人間の存在が最適であるというのが結論なのだ。

「あなたに任せます」が極めて重要なビジネス戦略

人間が介在する営業・提案ではなくて、Webの仕組みを使って一気にオートマチックにビジネスを展開しようと考えるベンダーがしばしば失敗しているのは、こうした中小企業へのコンピューター販売のキモを理解していないためだ。つまり、コンピューターやクラウドサービスの販売については、特効薬や一発逆転の妙策はなく、地道に企業の社長や担当に提案することが何より重要であるということなのだ。

さらに言うなら、中小企業はそれぞれ専門の部署があるわけではないために、一人の担当が兼任して、情報システム、人事、総務などを掛け持ちしていることが多い。

パソコンのハードやソフトなどのIT関連。業務系では会計や人事などの業務処理関連。さらにシステムとしては管理部門だけでなく営業や工場などの現場の伝票処理、または現場に関する顧客管理など。総務的な面では電話回線、その他の通信機器、複写機などの事務機器など。

上記のように非常に多くの社内部門業務にかかわっている可能性がある。多くの部門ごとに対応するための外部発注処理や提案などについて、それぞれ別の業者に委託するだけでも相当な負担となる。

つまり、一人で何社もの業者に発注管理するというのは大変なので、外部の発注業者を特定の1社に絞るという可能性が大いにある。いわゆる「ワンストップ営業」の存在だ。一人で企業の様々な処理を受け持つ担当にとって、先に挙げた社内の各種の外部発注作業を特定の1社にお願いできることは相当に助かる。

その前提としては、信頼と、安心・実績が必要になる。特定のベンダー製品に偏るのではなく、特定の販売店=コンサルティング=出入りの業者になってもらう。ここでいろんなベンダーの製品やサービスを選んでもらい、提供してもらう、ワンストップの窓口であることが望ましい形になる。

ワンストップ担当というのは、デジタルな仕組みで実現できるものではない。取り引きを通じての地道な実績の延長線にしかない。目の前の金額が高いか安いかということではなく、真に企業にとって頼れる存在になるかどうかが問われている。選ばれれば、確実なパートナー関係となって安定して長い付き合いとなる。そのような中小企業が多く構築できることは、現在のようなストック型ビジネスの典型となっているクラウドサービスでは何より重要なビジネス基盤といえる。

「地道が一番」の営業──クラウド導入にあたって、中小企業もベンダーも考えてみてはどうだろう?

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IT・クラウド時代のIT・クラウドビジネス営業(前編)

「地道が一番!」というフレーズには聞けば忘れられないインパクトがある。小林薫と玉置浩二が主演していた相当昔のテレビドラマ『キツイ奴ら』で繰り返されるフレーズだ。いまさら昔のドラマの話を持ち出すのは、昨今のB2BビジネスにおけるIT企業の営業姿勢に対し、つながりそうな話だからである。

プロフィール

伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

1956年秋田生まれ。矢野経済研究所でのIT産業の調査・研究業務に従事した後、1998年にIT調査会社ノークリサーチを設立し、代表取締役社長に就任。現在に至る。中堅・中小企業(SMB)市場のIT調査を得意とし、SMBのIT利用実態に詳しい。様々な関連業界誌で積極的な執筆も展開中。