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モノと道具を再構築する

2016.08.05

中小企業経営者のためのワープロ利用術

古瀬 幸広

事業者さん向け、ITとの間違いのない接し方

IT 効率 生産性

「日本語ワードプロセッサ(ワープロ)」というマシンが登場したのは、1978年9月26日のことである。それから約40年が経過しようとしている。もう、ワープロで文書を作るのはアタリマエの世の中だ。

会社を見渡しても、社員はみんなワープロを使っていることだろう。しかし、それで安心していてはいけない。「信じられないほどムダな使い方」をしている可能性もある。減らない残業は、ワープロの使い方のせいかもしれないのだ。

最低限のルール

職場で、「ワープロを使うときの最低限のルール」を話し合ったことはあるだろうか。もし、社内でルールが決められており、それが文書化もされていて、新人にさっと渡せるのであれば、もうこの記事は読まなくてもよい。

最初に決めておくべきことは、ファイル名のルールである。基本中の基本であるが、諸個人の勝手に任せていることが多い。いまや、それではいけない。なぜなら、重複するファイル名が不幸な事故を招くからだ。AさんとBさんが同じファイル名で別々のものを作成していた場合、いつかはファイルの上書きで悲鳴があがることになる。

業務文書は種類がだいたいは決まっている。契約書、企画書、挨拶状、報告書などだ。ファイル名を見るだけで中身の想像がつき、かつ、全社員がつけるファイル名に重複がないようなルールを作っておく。たとえば、

日付_種別_説明文_作成者イニシャル

である。これは、

種別_日付_説明文_作成者イニシャル

でもいい。どちらがいいかは、フォルダのルールにも依存する。「企画書フォルダ」をつくって管理するなら前者がいいし、「個人名フォルダ」で管理するなら後者がいいだろう。

もちろん、日付にもルールがいる。放っておくと、「20160910」「160910」「2016-09-10」などとバリエーションができてしまう。最悪なのが、「0910」を「910」としてしまう場合で、ファイルの並びがおかしくなる。面倒に思うかもしれないが、「20160910」タイプを薦めておく。

ここで社内に徹底しておきたいのは、「ファイルを開いたら、すぐに別名で保存する」というルールである。Aさんが作ったファイルを使って、Bさんが別文書を作るという作業がよくある。このとき、このルールを徹底しておかないと、Aさんのファイルを別文書で上書きしてしまう事故が起きやすい。ワープロの使い始めの儀式として、別名での保存を徹底しておこう。

スタイルシートを使う

これまでいろんな会社のさまざまな方から、いまや事実上の標準となっているMicrosoft Wordで作成された文書が添付で送信されてきたが、スタイルシートを上手に使っている例に出会ったことがない。日本人はスタイルシートをまったく使いこなせていない、と断言してもいいだろう。上手にスタイルシートを使えるかどうかで、とくに会社の文書処理の能率は大きく変わる。

たとえば契約書では、文書のトップに「業務委託契約書」と大きな字で、かつ中央に配置するものだ。なぜ大きな文字にし、センタリングするのだろう。それは大見出しであることを人に伝えたいからである。

そこで、「業務委託契約書」という文字列を「大見出し(見出し1)」と定義してやる。その上で、「見出し1は16ポイントの太字で、センタリング」というスタイルを定義する。こうしたスタイル定義の集まりが、スタイルシートである。

スタイルシートを適切に利用しておくと、修正がものすごくラクになる。企画書やマニュアルなどで、長い文章を書いていたとしよう。「小見出しつけてよ」と上司に言われ、20個の小見出しをつけてみたところで、再び上司が「この小見出し、ゴシック体にして、ちょっと文字も大きくしてくれる?」と言ったら、どうするか、である。

小見出しをつけるたびに「見出し2」と定義していた人は、見出し2のスタイルシートを変更するだけだ。そうでない人は、20箇所の小見出しをいちいち指定し、書体と大きさの変更をしなくてはならない。

スタイルシートは、複数のメンバーで文書を分担するときにも役に立つ。見出しの表現が下線つきだったり、ゴシックだったり、太字だったりとバラバラだったとしても、スタイル指定がされていれば、一瞬で統一できる。

また、とくに契約書では、見出しの書式の中に自動で番号を振るものがあるので、それを利用すると作成がラクになる。「見出し2」を「第n条」と定義しておけば、条文を削除したり、挿入したりしたときに、nの部分が自動的に変わる。番号が振り直されるのだ。定款などは、40条、50条とあることも珍しくはない。スタイルシートを使っておけば、その最初のほうで上司が1条挿入してきても、平然と対処することが可能だ(ただし、本文中で参照しているnは自動変更にならないので要注意)。

これを読んでもピンとこない場合は、プロにスタイルシートを作成してもらうといいだろう。契約書用スタイルシート、報告書用スタイルシートなど、文書の種類別にいくつか揃えてもらうと、あとの作業がぐっとラクになる。

じつは、このスタイルシートの考え方と仕組みは、ウェブページで使われるHTML言語とCSS(Cascading Style Sheet)と同じである。Wordでスタイルシートを使っていると、自然とウェブの記述も理解できるようになるはずだ。

文書校正機能を使う

ワープロが登場した当初にはなかったが、最近は充実している機能がある。それが、複数のメンバーでひとつの文書を仕上げるための機能である。ワープロが登場したときは社内LANなどもなく、ファイルサーバもなく、こうした機能はあまり必要とされていなかった。

その代表が文書校正機能だ。自分で自分の文書を推敲するなら、とくに不要な機能である。しかし、チームで文書を仕上げるとき、とくに部下に書かせたものを上司が修正するときは、文書校正機能が便利だ。どこを削除し、どこに何を挿入したかの記録が残る。その一つひとつを確認しながら、修正を受け入れるときは「承認」していく。「拒否」もできるところがいい(上司が誤解しているときもある)。それをトレースする作業自体が、生きた教育だ。

弁護士などの専門家にコメントをもらうときも、文書校正機能を使ってもらうと便利である。該当個所をそのままに、引き出し線をひいてのコメントができる。LANがアタリマエの時代なのだから、この機能を使わない手はない。

文書の出力のしかたを選ぶ

一昔前までは、印刷することがワープロ作業のゴールだった。いまは違う。印刷せず、ネットで送信すれば済むことも多い。会社の経費節減のためにも、印刷をなるべく回避するべきだろう。上手なワープロの使い方の中に、上手な仕事の終わり方も含めないといけない時代である。

まず考えるべきは、作成したワープロ文書を、そのまま相手に渡すべきか、それともPDFに変換して送るべきか、という選択である。Wordファイルのまま送信するか、PDFにして送信するかである。

社内ならば、迷うことなくWordファイルで共有するべきだ。文書校正機能も含めて、Wordの機能をフルに使えるからである。一方、社外に送信するときは、一歩立ち止まって考えよう。相手が中を確認するだけでよいのであれば、PDFにするほうがよい。Wordにはバージョンの問題もあり、相手の環境だと開けないこともある。

まして、注文書や契約書など書き換えられると困るものは、PDFにした上で、電子署名をしてから送る。PDFには印刷やページの抽出を禁止する機能もあるので(万全なものではないが)、中身と相手によってはこうしたセキュリティ機能も併用するとよい。

ところで、厳密にはクラウド利用の話になるが、契約書につきものの印紙税が、電子契約書には適用されないことはご存じだろうか。200円で済むならそう気にもならないが、高額の取引だと40万円だの60万円だのといった金額になる。Wordで作成した契約書を印刷すれば40万円の印紙が互いに必要になるが、電子契約書のままなら互いに0円だ。なるべく紙文化から脱却したほうがいいに決まっている。

親指シフト配列の検討を

最後に、文字を打つことが多い職場なら、親指シフト配列の導入の検討も薦めておきたい。親指シフトは、直木賞作家の姫野カオルコ氏が絶賛したことから、再び注目を集めている。ともかく打ちやすく、文書作成作業や、名簿入力作業がラクになる。

その昔、伊藤忠商事を創業した伊藤忠兵衛は、事務作業の能率を気にして社内にカナモジタイプライタを導入。同社のテレックスはカナモジ文だった。PCを仕事に導入するのであれば、それくらいの感性をもっていたい。といっても、難しいことはない。ライフラボ(神奈川県相模原市、代表取締役・大田徹)が発売した「親指シフト表記付きUSBライトタッチキーボード」(2,480円税別)を導入するだけでいい。

このキーボードはキーのひらがなの刻印が親指シフトだというだけで、他はふつうのキーボードと同じ。したがって、ローマ字入力の人はこれまで通り、そして違和感なく使える。社員のうち、思いたった者が親指シフト入力を覚えるだけでも、会社全体での業務の効率は変わるだろう。2,480円で文書作成効率が1割でも2割でも向上するなら、安いものである。

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プロフィール

古瀬 幸広 (ふるせ ゆきひろ)

1960年奈良県生まれ。ジャーナリスト、批評家、情報学者、情報アーキテクト。東京大学文学部在学中から、科学技術と社会・文化を対象にしたジャーナリストとして活躍。1980年代は日本語の情報化に、1990年代はインターネットの普及に、2000年代はコミュニティマーケティングの開発に貢献した。『ネットワーカーズハンドブック』(翔泳社、1991)、『ハイテク商品失敗の研究』(実業之日本社、1994)、『インターネットが変える世界』(共著、岩波新書、1996)、新刊に『仕事がはかどるPC入門─サプライズGuideシリーズ』(アントレックス)など著書多数。イワン・イリッチのConvivialityに「共愉」という訳語をあてたことで知られる。『日経トレンディ』の連載「古瀬幸広の実験工房」は24年目に入る長寿連載である。 2004年にはコミュニティマーケティングの嚆矢と評価の高いリエータカフェを開発。タニタと共同し、世界で初めてBluetoothでネットにつながる体組成計も開発した。2006年インフォリーフ株式会社(InfoLeaf Inc.)を設立。同年、新しいブログ&データベースモデルを組み込んだコミュニティサイト・My Cosmosを開発。2010年にはEco Japan Cup 2010の環境ビジネスベンチャー・オープンにて「直販所POS統合型マーケットプレイスの運営」で141応募中の1位を獲得。農産業・水産業・林産業の支援と、それによる里山保全というテーマにも取りくんでいる。 2011年、TwitterやFacebookの最新情報をテレビに自動表示する情報テレビシステムを開発し、特定非営利法人グローバル・コロキウムとともに、東北地方太平洋沖地震・福島第一原発事故の被災者支援に活用した。現在、RDBMSの欠点を克服し、クラウドとビッグデータに対応できる新しいデータベースモデルの開発にも取り組んでいる。