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サ高住に大学生が同居、北九州市“生涯活躍のまち”

6つのモデルエリアを設定、大都市型モデル構築へ

萩原 詩子=ライター【2017.12.27】

北九州市は、全国に先駆けて「日本版CCRC(生涯活躍のまち)」に取り組んできた自治体の1つだ。CCRCとはContinuing Care Retirement Communityの略称で、高齢者がリタイア後に、継続的なケアや生活支援サービスを受けながら生活するコミュニティを指す。同市は12月16日、報道関係者を対象に「北九州市版生涯活躍のまち」説明会を開催。市が設定した6つのモデルエリアの中で、他エリアに先駆けてまちづくりのコンセプトがまとまった洞南地区の取り組みを紹介した。会場となったのは、地域の拠点施設「銀杏庵穴生倶楽部」だ。

洞南地区の取り組みを紹介する一般社団法人北九州おたがいさま推進事業協会代表理事・権頭喜美惠氏(写真:萩原 詩子)
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 北九州市西部に位置する洞南地区は、人口約2万人。もともと新日鐵八幡製鐵所の社宅が建ち並んでいたエリアで、近年その建て替えによって新しい住人が流入し、市全体に比べれば高齢化率は低い(15年時点で25.8%)。既存の公的施設として、60歳以上を対象とした生涯学習拠点や3つの市民センター、公民館などがあるほか、民間の医療機関や特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅も所在する。地元の祭りである山笠の競演会などを通じて住民の地域活動も活発だ。

 地域包括ケアへの取り組みも早く、6年前から医療・介護の専門職による地域ケア会議を始めていた。その3年後には地域住民や地元企業も加えた地域包括ケア推進会議が発足、2016年12月に一般社団法人北九州おたがいさま推進事業協会(以下、協会)を設立した。協会は北九州市と協議し、洞南地区の“生涯活躍のまち”づくりにおいて中心的な役割を果たしていくことに合意している。

 説明会には協会代表理事の権頭喜美惠氏が登壇。洞南地区の“ど〜なん縁が輪コミュニティ”の理念と取り組みを紹介した。

 理念の特徴は「赤ちゃんから高齢者まで」すべての地域住民を対象としていること。それぞれが自分にできることをしながら「おたがいさま」の気持ちで助け合い、その精神を次の世代に繋ぐことを目指す。子どもたちや学生に対しても、公園清掃や茶話会など、地域活動への参加を促している。

 ユニークな試みのひとつに、今年4月から始めた「ひとつ屋根プロジェクト」がある。これは、サービス付き高齢者向け住宅の空き部屋に北九州市立大学地域創生学群の学生を住まわせ、家賃を免除する代わりに週3回、高齢者と食事をともにしてもらうものだ。「地域のボランティア活動にも参加してくれている。サ高住の入居者も、学生と暮らすことで若返ったようだ」と権頭氏は言う。

 特別養護老人ホーム「銀杏庵穴生倶楽部」は、1階にカフェやコミュニティFMのスタジオを併設し、地域住民に開放している。5階建ての建物の最上階のスタジオは、ヨガやリトミックなどの教室に貸し出す。ホームに直接関係のない人々たちが訪れる仕掛けによって、入所者も自然に外部との接触が持てる。

 説明会当日は、月に1度の「もやいマルシェ」の開催日でもあった。野菜や鉢植え、パンなどの販売や、お菓子づくりワークショップのほか、地域の医師による健康チェック、ドラッグストアから派遣されたインストラクターによる体操教室と、盛りだくさんの内容だ。権頭氏は「始めた頃は参加者もお客さんもまばらだったが、31回めを迎え、地域の催しとしてすっかり定着した」と語る。

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特別養護老人ホーム「銀杏庵穴生倶楽部」で開催された「もやいマルシェ」(写真:3点とも萩原 詩子)
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「穴生倶楽部」の外観(左)。地域のドラッグストアから派遣されたインストラクターによる体操教室も開催(右)(写真:2点とも萩原 詩子)

ALSOKとの協働で認知症行方不明者捜索の模擬訓練

 2017年は協会と警備会社ALSOKの協働で、認知症行方不明者捜索の模擬訓練を2回実施。子どもから高齢者まで、幅広い年齢層が参加した。「地域内の顔の見える関係づくり」を目指し、通りすがりの人にも声を掛け、協力を呼びかけた点に特色がある。

 ほか、1年に1度、市長も招待して「繋がるまちづくり大発会」を開催する。地元企業やボランティア団体、社会福祉協議会などがそれぞれの活動を発表し、情報の共有、活用に役立てる狙いだ。

 「この発表は結果ではなく、目標に向かう途中の経過報告にすぎない」と権頭氏は言う。「洞南地区の取り組みが、他の地域にも当てはまるとは思わない。それぞれの地域が、特性に応じた取り組みを考えていく必要があるだろう」

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 政令市で最も高齢化が進む北九州市(2016年3月31日時点で高齢化率29.0%)は、いわば課題先進都市だ。その一方で、医療や介護には比較的余力があるとされている。また、多様な住宅ストックや雇用機会があるなど、大都市ならではの強みを持つ。

説明会風景。壇上は北九州市企画調整局地方創生推進室の岩田健地方創生担当課長(写真:萩原 詩子)
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モデルエリアの位置(資料:北九州市)
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 市地方創生担当課長の岩田健氏は「既存の地域資源を有効活用しながら、官民連携による“生涯活躍のまち”大都市型モデルを構築したい」と語る。市域全体で50歳以上のいわゆる“アクティブシニア”の定住・移住策を推進するほか、有望な地域資源を持つ6つの「モデルエリア」を指定し、地域の民間事業者と協力して取り組みを先行する計画だ。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/report/122500104/