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川崎市などで実証、「超短時間雇用」という新しい働き方

「先端研×地方創生セミナー」リポート(1)

柏崎 吉一=エクリュ【2017.7.20】

「東京大学駒場リサーチキャンパス公開2017」(2017年6月3日、東京大学先端科学技術研究センター)において、「先端研×地方創生セミナー」が開催された。主なテーマは障害者や高齢者の社会参加を促す雇用のあり方だ。東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野准教授の近藤武夫氏は「超短時間雇用」をテーマに講演した(関連記事)。

15分ほどの短時間労働とワーカーシェアリングを組み合わせる

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「超短時間雇用という新しい働き方のデザイン」と題した講演を行った近藤武夫氏(写真:柏崎 吉一)

 東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野准教授の近藤武夫氏は、障害などにより通常の雇用システムでは就労機会を得られない人々を排除しない新しい社会参加システム構築研究プロジェクト「IDEA(Inclusive and Diverse Employment with Accommodation)」を進めている。IDEAモデルは、超短時間労働とワーカーシェアリングを組み合わせる新たな雇用形態で、障害者を雇用に接続するための手法だ。

 超短時間労働とは、15分ほどの短い時間帯からでも就労することで報酬や社会参加の機会を獲得できる働き方のこと。親族などによる援助や、障害者年金などのセーフティーネットといった、従来の障害者の収入を経済的に補完する側面がある。ワーカーシェアリングとは超短時間労働者が複数の組織で就労する働き方のことを指す。

 近藤氏は、IDEAプロジェクトの必要性の背景として、障害者雇用施策の実情との乖離(かいり)を指摘する。

 近藤氏が指摘したのが、障害者雇用促進法が「週30時間以上」という比較的な長時間の雇用が原則となっている点だ(週30時間未満20時間以上の場合は「短時間労働」として0.5人分用と換算)。企業は週30時間(あるいは20時間)の雇用を検討することになるため、結果として、働きたいのに長時間働けない障害者にとっての機会格差となってしまっている面がある。

 そのほか、障害者へ支払われる賃金の規定が健常者と比べると格差は大きいこと、特例子会社制度*を導入することにより障害者が結果的にグループ会社や職場のメインストリームから排除されていく傾向もみられることなどを、近藤氏は現状の問題点として指摘した。

*事業主が障害者の雇用に配慮をした一定要件を満たす子会社を設立した場合、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして実雇用率を算定できる特例。

  一方、「IDEAモデル」では、「職場の業務分析を行い、15分以上からの超短時間で業務内容を切り出し、就労の機会を生み出す。業務内容は、例えばデータ入力、清掃や印刷補助などのオフィス保守業務、農作業、翻訳、プログラミングなどだ。

  賃金は定義された職務に基づいて算出される。30時間分に匹敵する雇用を1人ではなく、時間帯ごとに希望者を割り当てて、複数メンバーのチームで成り立たせていく」(近藤氏)。こうすれば、長時間就労ができない障害を抱えているかどうかにかかわらず、誰でも同じ職務定義に基づく賃金体系で、同じオフィスで仕事ができる。

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IDEA型モデル雇用のイメージ(資料:近藤武夫)

障害の有無にかかわらず同じ職場で働ける

 近藤氏の研究室では、IDEAモデルでの雇用を実践している。研究室におけるデジタルコンテンツの制作やデータベースへのデータ入力、印刷補助、翻訳や電子化・アーカイブ、さらに開発・プログラミングなど専門性の高い業務など、研究補助業務の全般に携わっているという。

 「これまで研究室で働いた方々が抱える障害は、発達障害、精神障害、認知面の障害、肢体不自由、感覚器障害など様々。年齢も18〜56歳と幅広い。呼吸器を常時着用し、指先しか動かない方もいるが、コンテンツの業務管理を担当している。障害の有無に関わらず、同じ研究室で働いているのが特徴だ」(近藤氏)。

  職務定義に基づく賃金体系に基づくIDEAモデルを実践することで、長時間・長期間を前提とする伝統的な日本型雇用を見直すことができたという。

 「障害者を雇用して職場に問題は起きないか、としばしば尋ねられるが、実際にIDEAモデルを導入してみると、業務に問題はなく、障害者というカテゴリーをほとんど意識することはない。適応できないなどの理由で辞める人も少ない。ただ、大事なことはジョブを明確化することだ。仕事をやらせてみてうまくやれるからと言って、切り出した以外の業務をあれもこれもと依頼すると、本人が苦痛を感じてうまくいかない例が多い。業務の分析と切り出し、個々のタスクの依頼や説明の仕方などに留意することが前提だ」と近藤氏は説明した。

企業や自治体との共同研究で知見を蓄積

 近藤氏をはじめとする東大先端研では、企業や自治体との共同研究も始めている。企業ではソフトバンクが、近藤氏の研究活動の場である東京大学先端研 人間支援工学分野と連携し、障害により長時間勤務が困難な人が週20時間未満で就業できるようにする「ショートタイムワーク制度」を2016年5月から導入した。

 自治体との間では、川崎市と研究を進めている。同市では、2016年2月に市役所内にプロジェクトチームを発足、市内の企業とともにプロジェクトを進めている。神戸市とも2016年11月に共同研究事業を開始した。

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自治体と連携したIDEA型モデル雇用の実装イメージ(資料:近藤武夫)

 IDEAモデルがもたらす社会的インパクトも小さくない。近藤氏の試算によると、仮に障害・傷病者11万人(障害・傷病者全体の12%)が、週5時間の超短時間勤務で職場から給与を得られた場合、国庫負担の面では、従来支給されていた生活保護費の減額分が約48億円となる。これを給与所得に対する所得税の増加(約25億円)と合わせると、約73億円の社会的インパクトがあるという。

 「社会保障制度を補完する点では、IDEAモデルは働く意欲のある高齢者にも応用できるのではないかと考えている。障害の有無にかかわらず、同じ職場でそれぞれの得意なスキル、やりたいことを活かせれば個人の充足感とやりがいも高まる。経営者にとっては生産性向上や人手不足の解消にもつながる」(近藤氏)

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IDEAモデルがもたらす社会的インパクトの例(資料:近藤武夫)

 今後はIDEAをツールキット化し、全国で展開する考えだ。人材の斡旋・紹介・職場適応支援など、研究で蓄積した知見を活用してほしいと近藤氏は述べた。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/ppp/atcl/tk/PPP/report/070900058/