リポート

記事一覧

国内最大級の病院PFI「多摩医療PFI」、協力企業の統括で業務改善

「ファシリティマネジメント フォーラム2018」リポート(2)

守山 久子=ライター【2018.4.10】

建築物のライフサイクルコストは、建設コストの数倍ともいわれる。PPP/PFIにおいては、運営、維持管理における民間ノウハウ導入が建物の評価を大きく左右することになる。第12回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)を受賞したPPP/PFIのプロジェクトを見てもそれは明らかだ。2018年2月に都内で開催された「ファシリティマネジメント フォーラム2018」(主催:日本ファシリティマネジメント協会)での受賞者講演をリポートする。

第12回JFMA賞で「優秀ファシリティマネジメト賞」を受賞した「多摩医療PFI」は、特別目的会社として、2つの病院を複合した医療施設のファシリティマネジメントを担う。資本金は5億円で、清水建設が95%、パナソニックが5%出資している。同社社長の五代正哉氏は、「サービスプロバイダー」として病院の日常の業務改善を支える取り組みを説明する。

[画像のクリックで拡大表示]
多摩医療PFI代表取締役執行役員社長の五代正哉氏(写真:守山久子)

 「提供するサービスが幅広く、業務をどのようにマネジメントするかが大きなテーマとなった」。東京都立多摩総合医療センターと東京都立小児総合医療センターという2つの病院で構成される医療施設を維持管理するSPC(特別目的会社)、多摩医療PFI(東京都中央区)の五代正哉代表は、この施設でのファシリティ・マネジメント事業をそう総括する。

 2つの医療施設は、それぞれ789床、561床の病床を有し、多い日には合わせて3000人近い外来患者が訪れる。年に1万2000台の救急車を受け入れるなど救急医療に力を入れ、がんなどの先進医療、小児精神医療、周産期医療などに特徴を持つ。

 施設は、2024年度の完成を目指す多摩メディカル・キャンパス(東京都府中市)の再整備計画に基づいて、50ヘクタールの敷地内に建設され、2010年に開業した。

 建物の上層階は多摩総合医療センターの病棟と小児総合医療センターの病棟に分かれ、低層階が一体化した構成を取る。高層階の病棟のうち、小児総合医療センターの病棟は、5階のルーフコートに設けた丘の広場を囲むように配置している。

 また、PFI方式のプロジェクトでは簡素な内装が基本となる。多摩総合医療センターの病室内の床にはワックスなしでメンテナンス可能な天然リノリウムを用いるなど維持管理費の削減に配慮した。 

運営、維持管理を担当する2病院。一体的な建物となっている(資料提供:多摩医療PFI)
[画像のクリックで拡大表示]

 施設のエントランスに設けたホスピタルモールには、カフェやレストラン、コンビニエンスストア、講堂を設置。その先に、多摩総合医療センターと小児総合医療センターの外来ホールが続く。3階はICU、4階は病院の管理部門などが並ぶ。

協力企業の業務を再構築した「サービスプロバイダー」

 2500億円弱の大規模なPFI事業は、2006年に都と多摩医療PFIが契約を締結した。事業期間は、事業契約を締結した2006年8月30日から25年3月31日までとなる。

 多摩医療PFIが担うのは、2つの施設における統括マネジメント業務だ。委託業務統括、経営支援、情報システム統括という3分野を通して、病院の日常業務にかかわる26社1300人の企業体による業務の改善を図り、提供するサービスの質を上げていく。

 具体的な業務は、設計・監理、建設、開設準備といった「施設の整備」、医療機器の管理・保守点検、患者等の搬送、減菌消毒、医療事務、施設メンテナンス、保安警備など診療以外のほとんどすべてにまつわる「運営業務委託」、医療機器、薬品、診療材料、エネルギーなどの「調達」、売店、カフェなど「利便施設」の運営に分類される。このうち調達に関する業務が全体の半分近くの事業規模を占めているという。

 多摩医療センターのPFIは、病院PFIの第2世代のプロジェクトと位置付けられる。

 第一世代のSPCは、設計建設、医療事務、調達などの業務を担う会社と病院の間に入り、両者の橋渡しをしながらそれぞれの企業に業務依頼する形態をとっていたという。その場合、病院側から業務を担う企業側への要望の伝わり方が不十分な状況も生じやすかった。

 それに対して多摩医療PFIが東京都から求められたのは、サービスプロバイダー(SP)の役割だった。「協力企業を統括管理し、各社が担う業務の内容を病院が求める形に再構築したうえでサービス提供する。さらに、継続的な業務改善(BPR:Business Process Re-engineering)を行う。こうした役割を果たすために、私たちは創造的FMの構築と運営を模索してきた」(五代氏)。

サービスプロバイダー(SP)による継続的な業務改善(BPR)を行う仕組みを導入(資料提供:多摩医療PFI)
[画像のクリックで拡大表示]

 多摩医療PFIはマネジメント領域として、施設、情報環境、病院運営、診療医器材、経営環境の5領域を設定している。これらの領域のファシリティマネジメントを通して「属人的なスキルに頼らず、問題点がすり抜けていかない仕組みを構築することが大切」と考えた。例えば、情報システムも多摩医療PFIが統括し、共通の管理帳票を共用サーバーに保存し、1300人に及ぶスタッフが共有できるようにした。データベースに蓄積した知恵を活用して隙間業務の解消や業務の再編を行い、効率化を図る。

職員向けコールセンターを開設し、常に業務改善

 現場の情報を拾う仕組みとしては、職員のためのコールセンター「サービスデスク」を設けた。医師、看護師、コメディカル、事務部門、協力企業の職員が、365日24時間を通して気軽に問い合わせや不具合情報を連絡できるようにしたものだ。

職員向けコールセンターで情報を拾う(資料提供:多摩医療PFI)
[画像のクリックで拡大表示]

 サービスデスクに届いた話は影響範囲と影響度に応じてレベル2からレベル10まで分類し、重要度4以上の事案は病院に報告して情報共有する。開業以来、10万件の問い合わせがあるという。「失敗が発生した場合に注意を喚起して再発を防止し、改善に結びつけることが重要だ」(五代氏)。

 五代氏は、こうした仕組みを生かしたBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の事例もいくつか紹介した。

 病室まわりでは、リネンの取り替えや身の回りの整理、清掃などを多能工医療作業者が担当するように組み替え、これらの業務を一人で対応できるようにした。手術に関連した取り組みとしては、完全個人用の手術セットを用意。従来は看護師が必要な器材を自らピックアップしていた作業を省力化した。

具体的な業務改善の例。病室内の清掃、ベッドメークなどを同一の作業員が担当(資料提供:多摩医療PFI)
[画像のクリックで拡大表示]

 ファシリティマネジメントにおけるさまざまな支援は、根拠に基づいた提案が必須となる。手術室の改修計画では、各科の利用時間を計測したうえで低い利用率だった科の部屋を縮小した。専用手術室の固定壁をスライディングウオールで仕切ってフレキシブルに利用できるようにし、効率を向上させた。その他、多数の経営支援業務のソリューションメニューを用意して2つの病院の収益力を高めた。

 こうした経験を踏まえ、五代氏は病院PFI事業の将来性を有望視する。「病院の統合型事業はニーズがある。自らが現場密着することで病院運営業務のマネジメント技術は定着していくと考えている」

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/report/033000125/