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開館6年目で来館1000万人の武蔵野プレイス、立ち寄りたくなる仕掛けが随所に

「ファシリティマネジメント フォーラム2018」リポート(1)

守山 久子=ライター【2018.4.3】

建築物のライフサイクルコストは、建設コストの数倍ともいわれる。PPP/PFIにおいては、運営、維持管理における民間ノウハウ導入が建物の評価を大きく左右することになる。第12回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)を受賞したPPP/PFIのプロジェクトを見てもそれは明らかだ。2018年2月に都内で開催された「ファシリティマネジメント フォーラム2018」(主催:日本ファシリティマネジメント協会)での受賞者講演をリポートする。

第12回JFMA賞で「最優秀ファシリティマネジメント賞(鵜澤賞)」を受賞したのは、武蔵野市立「ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス」(以下、武蔵野プレイス)だ。図書館を軸に4つの機能を融合させ、開館6年目で累計来館者数が1000万人を超える施設へと成長した。そのハード、ソフト面での来館を促す仕掛けについて、指定管理者である武蔵野生涯学習振興事業団の前田洋一理事長らが発表した。

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武蔵野生涯学習振興事業団理事長の前田洋一氏(写真:守山久子)

 2011年7月、武蔵野プレイスはJR中央線武蔵境駅の南口駅前に開館した。基幹機能となる図書館と生涯学習、市民活動支援、青少年活動支援という4つの機能を集めた施設だ。武蔵野総合体育館などの指定管理を行っている武蔵野生涯学習振興事業団が、指定管理者として運営・維持管理を担う。

 「固定的なサービス機能を館内に並置した寄せ集めの施設ではなく、4つの機能が連携、融合して新しい価値を生み出す複合機能施設を目指した」。開設準備に5年、開館後の館長として2年、同施設に関わった前田洋一・武蔵野生涯学習振興事業団理事長はそう話す。

 武蔵野プレイスは延べ床面積約9800m2、地上4階・地下3階建ての施設だ。開館時に80万人を想定していた年間来館者数は2016年度に195万人へと増加し、累計来館者数も6年目で延べ1000万人を達成した。

 ファシリティマネジメントの観点から見ると、武蔵野プレイスの建築計画には2つの大きなポイントがある。

 1つは「施設の機能を進化させていく建築」とすること。もう1つは「環境負荷を軽減し、世代を超えて受け継ぐため、物理的耐久性を有した100年建築」とすることだ。

 なかでも前者は、4つの機能の有機的な連携と融合を実現するために重要な軸となった。いわゆるハコモノ建設となることを避けるために、ハードとソフトが相乗効果をもたらす施設計画を志向した。個別の目的のために来館する「目的的利用」の施設から脱して、ぶらりと立ち寄っても状況に応じて過ごせる「状況的利用」に対応した施設を目指した。

 そのために、ハード面の整備では「ブラウジング」の考え方を徹底させた。「年齢も目的も異なるさまざまな市民が、この場所に思い思いに集まり館内を巡り歩く。来館目的以外の活動や情報への無意識な接触を促すことで、さまざまな出会い、交流が生まれるような『場』を提供していく」(前田氏)

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館内を巡り歩くことを意識したフロア構成(資料提供:武蔵野生涯学習振興事業団)
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武蔵野プレイスの外観。手前の公園と一体となった賑わい空間を創出している(写真:日経BP総研)

ぶらりと立ち寄れるようなハードとソフトの仕掛け

カフェの音や香りを運ぶが、あえて1階・2階を吹き抜けに(資料提供:武蔵野生涯学習振興事業団)
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夜はアルコールも出す(資料提供:武蔵野生涯学習振興事業団)
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 前田氏は、「自立した地域社会を生み出すためには、十分な情報の提供が不可欠。多くの部分がデジタル化され、個人がコミュニティから遊離しやすい社会になると、これまで以上に公共施設の役割が重要になる」と、図書館を始めとする今後の公共施設の在り方を示唆する。

 館内はできるだけオープンなつくりとし、基幹となる図書館の機能を意図的にばらして各階に分散配置した。上下階を結ぶ縦動線の回遊階段を設け、来館者が行き来しやすいようにした。

 図書館では、静寂な場所を確保しつつ、賑わいを生み出すことを意識した。こうしたつくりに対し、開館当初は賛否両論があった。1階と2階は間仕切りなくつながっているため、1階に設けたカフェの音や香りが2階の子どもライブラリーなどに筒抜けになるからだ。しかし、子どもを連れた親から「自分たちだけが音の原因ではないので、私たちが滞在してもいいと思える」とむしろ前向きな声を得るなど、多くの利用者に評価されることとなった。

 従来は公共施設にあまり縁のなかったビジネスパーソン、青少年などの層にも目を向けた。来館を促すための仕掛けをいくつも盛り込んでいる。

 例えば、1階のカフェは図書館の蔵書の持ち込みを可能とし、夕方の17時以降はアルコールを提供する。また、青少年に利用してもらいやすくするために、飲食やゲームを認める場を用意した。また、地下2階のサウンドスタジオの使用料を2.5時間で200円とするなど、安価に利用できる設定とした。

 2階のテーマライブラリーでは、「生活の知恵」といった身近なテーマで書籍を並べる。従来型の図書館の分類とは異なる発想だ。また、600タイトルの雑誌を集めたりと、独自性のある運営を行っている。その結果、中央図書館を上回る貸し出し数を記録してきた。一方で貸し出しや返却の自動化を導入し、その分の手が空く職員は来館者と密なコミュニケーションを図れるようにした。

 環境負荷の低減や耐久性向上を実現するための建物側の工夫もなされている。輻射型冷暖房や、深夜電力を利用した水蓄熱、タスク照明とアンビエント照明の組み合わせで必要な場所を明るくする照明計画といった要素を盛り込んだ。600トンの蓄熱層用水槽は地域の防火水槽にしている。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/report/033000124/