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リポート(寄稿)

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設立相次ぐ「自治体新電力」、本当に地域にお金が回るのか

資本と雇用の地元比率によって「地域の稼ぎ」に10倍の開き

稲垣 憲治=京都大学 プロジェクト研究員【2018.3.23】

 自治体が出資し、地域の再生可能エネルギーなどを電源として電気販売を行う「自治体新電力」の設立が全国で相次いでいる。一橋大学・朝日新聞などが実施した全国自治体再エネ調査(2017年7月末時点回答分)では、31自治体が設立済み、86自治体が検討中とされており、将来100を超える自治体新電力が全国で電気販売を行う可能性がある状況だ。

 この自治体新電力を設立する自治体の多くは、エネルギーの地産地消により地域でお金を回すこと(地域の稼ぎ)を目的に掲げている。そこで、本稿では自治体新電力でどれだけ地域にお金が回るのか、京都大学などの研究チームで行った定量的分析の結果を紹介したい。

自治体新電力の「地域の稼ぎ」を算出――「経済効果」では読み切れない

 これら自治体新電力を設立する自治体の多くは、エネルギーの地産地消により地域でお金を回すこと(地域の稼ぎ)を目的に掲げている。そこで、自治体新電力によってどの程度地域の稼ぎが出るのかを定量的に分析を行った。指標としては、「地域の稼ぎ(地域経済付加価値)」=「地域内企業の純利益」+「地域内居住従業員の可処分所得」+「地方税」を用いている。この考え方は、ドイツの研究所が開発した手法を日本に応用したもので、ドイツではこの指標を用いて、自治体による事業の効果測定などが行われている。

 なお、よく耳にする「経済効果(経済波及効果)」は、新規需要を満たすために連鎖的に誘発される生産額の合計を、産業連関表を用いて算出するものであり本分析での指標とは別物だ。「経済効果」は国などの広域的な範囲に派生する「生産額」に視点をあてているため、とても大きな数字が出るが、事業ごとの「地域の稼ぎ」を正確に算出することは難しいとされている。

「地産地消」だけでは不十分ーー事業形態で「稼ぎ」に10倍の差

 事例分析として、実際に小売電気事業を行っている自治体新電力「みやまスマートエネルギー」における「地域の稼ぎ」を算出した。みやまスマートエネルギーは、福岡県みやま市と地域企業の出資により設立された株式会社だ。市内の家庭用太陽光発電の余剰電力や、市内のメガソーラーを電源として、みやま市を中心に公共施設や家庭向けに電気を販売している。また、電気供給に加え、家電の使用状況が分かるHEMS(Home Energy Management System)を活用した高齢者の見守りや、水道料金とのセット割引、街の商店街活性化のためのワンストップ通販事業など地域の課題解決のための取組を多角的に実施している。地域主体の出資構成で約50人の従業員はほぼ全員が市内在住だ。

 「地域の稼ぎ」の算出にあたっては、同社の2017年度事業計画をもとに、

  1. 売上(約14億円)における経常利益(約2100万円)・純利益(約1400万円)
  2. 支出項目ごとに支出先をヒアリングし、支払先が地域内事業者の場合にはその支出分に応じた支払先事業者の純利益と従業員可処分所得増加(法人企業統計を活用して推計)(約200万円)
  3. 住宅用太陽光発電の余剰電力を通常より高く買い取っていることによる市民の利益(約500万円)
  4. 推定される地元従業員可処分所得(約7500万円)
  5. 推定される市税(約700万円)
などを基に算出した。

 分析の結果、みやまスマートエネルギーの事業に係る年間の「地域の稼ぎ」は約1億円となった。また、事業形態による地域経済付加価値の影響を比較するため、仮に地域資本が10%のみで従業員が全て地域外に在住する場合を計算したところ、株主利益や従業員給与といった形でお金が地域外に出てしまい、「地域の稼ぎ」は実際の値の約10分の1である900万円となってしまうことが分かった。

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みやまスマートエネルギーの2017年度事業計画などを基に「地域の稼ぎ」を計算すると約1億円となった。左図はその内訳。右図のように、地域資本10%・従業員が地域外と想定すると、「地域の稼ぎ」は大きく減ってしまう(資料:稲垣憲治)

 このように、自治体新電力における「地域の稼ぎ」は、その事業形態によって約10倍もの大きな差が生じる結果となった。このことから、単に自治体新電力を設立すれば「地域の稼ぎ」が増すわけではなく、事業形態をどうするかが重要であることが分かる。

 具体的には、「地域による出資」「業務の内製化による地域在住従業員の雇用」が地域の稼ぎのためには大切だ、ということができる。

 なお、エネルギー業界でよく耳にする「エネルギーの地産地消」というフレーズが、自治体新電力の目的に掲げられることも多々あるが、上記結果からも「エネルギーの地産地消」=「地域の稼ぎ」とはならないと言える。いくら地元の再エネ電源を用いて地域に供給しても、自治体新電力の資本や従業員が全て地域外であれば、事業者利益や従業員の給与の形で、お金は地域外に出てしまうためだ。

 電気事業は、立ち上げ期だけでなく、電気の需給管理、顧客管理、一般送配電事業者への計画提出、官公庁への報告など、運営期にも一定のノウハウの必要な業務がある。だからといって、これらを専門的だからと地域外事業者に委託し続けてしまうと、多くの場合、地域の稼ぎを少なくしてしまう可能性がある。自治体新電力同士でのノウハウ共有や、ノウハウ提供を行う自治体新電力設立支援団体(※)を活用するなどにより、地域内での業務実施を拡大する方向で検討することも重要だ。

※自治体新電力の設立支援団体として、事業計画策定やノウハウ・情報提供などを行う一般社団法人日本シュタットベルケネットワークや、事業計画策定、業務システムのシェアや需給管理を含むノウハウ提供などを行う一般社団法人ローカルグッド創成支援機構がある。
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