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規則で縛らない「図書館」に人が集まる――大和市の複合施設「シリウス」

オープン5カ月弱で100万人、“市民の居場所”目指す

茂木 俊輔=ライター【2017.4.26】

神奈川県大和市が2016年11月に開設した施設「シリウス」は、図書館、芸術文化ホール、生涯学習センター、屋内こども広場などの複合体だ。各施設の融合・連携を図ろうと、運営には指定管理者制度を取り入れた。施設全体を一つの図書館空間とみなし、誰もが居場所を見つけられるようにした運営が好評だ。2017年3月半ばには、オープン135日で早くも来館者100万人を突破した。

「シリウス」の外観(写真:茂木俊輔)
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 大和市文化創造拠点「シリウス」は、小田急線と相鉄本線の大和駅近くの再開発ビル「YAMATO文化森」の大部分を占める神奈川県大和市の複合施設だ。市の図書館、芸術文化ホール、生涯学習センター、屋内こども広場などを施設内に集めた。

 様々な機能が集まっている施設ではあるが、第一印象は「図書館」だ。館内に入ると、3層吹き抜けのエントランスホールが広がり、新刊本の展示台を兼ねたワゴン式の書架や座面が広くゆったり座れるいすなどが点在する。一角にはスターバックスコーヒー(以降、スタバ)の店舗。利用者はここで購入したコーヒーや持ち込んだ飲料を飲みながら、館内どこででも図書館の本を読むことができる。

1階から3階まで吹き抜けになったエントランスホール(写真:茂木俊輔)
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エントランスホールとスターバックスコーヒー。空間的に連続している(写真:茂木俊輔)
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 2階に上がると、2時間ごとに100円を払って利用できる有料の座席「市民交流ラウンジ」もある。窓際にはコンセント付きのカウンター席がずらり。吹き抜けとの間にカラフルなソファ席も置かれている。スタバのコーヒー1杯分の値段で6時間、落ち着いて学習できる環境のためか、平日の夕方は多くの席が高校生や大学生らしき若者で埋まる。利用者数は2017年3月末現在、累計1万5590人にのぼる。この「市民交流ラウンジ」と、無料で利用できる6階の「市民交流スペース ぷらっと大和」は、飲料だけでなく食べ物も持ち込み可となっている。

新しい図書館のスタイルを追求

 「シリウス」の運営は、市が選定した指定管理者「やまとみらい」が担う。図書館流通センター、サントリーパブリシティサービス、小学館集英社プロダクション、明日香、ボーネルンド、横浜ビルシステムの6社で構成する企業グループだ。各社は、図書館、芸術文化ホール、生涯学習センター、屋内こども広場(げんきっこ広場、ちびっこ広場、保育士が常駐する保育室、育児相談室など)の運営、ビルの維持管理を専門領域としている。

 なお、1階エントランスと連続した空間に入居するスタバは、指定管理者「やまとみらい」が選定し、市と協議のうえで誘致を決めたもの。床の権利を持つ市からスターバックス コーヒー ジャパンがスペースを借りて営業している。大和市文化創造拠点「シリウス」とは別に外から出入りできる1・2階のスペースには、飲食店舗(酒類も提供するカフェ)やコンビニエンスストア、歯科、以前からあった神社などが入居している。ここは市以外の地権者から床を借りている形だ。

シリウスに入っている各施設の業務分担(資料:大和市)
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建物西側に沿った1・2階部分に、民間地権者のテナントが入っている(写真:茂木俊輔)
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コンビニエンスストアは建物内から図書館と行き来もできる(写真:編集部)
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 施設の魅力は、誰もが居場所を見つけて気軽に利用できる点だ。

 フロア構成上、図書館の主機能は3階の一部(こども図書館など)と4・5階に配置されているが、1・2階にも書架や閲覧席を並べ、図書館の本は施設内ならどこででも、貸し出し手続きを経ずに閲覧できる。

 「図書館がまちづくりの核として機能するようになってきた中で、市民に求められる新しい図書館のスタイルを検討した結果、複合施設の全体を図書館と捉え、市民の居場所にしようという発想が生まれた。それを、フロアの造りや図書館の運営に反映させた」。大和市文化スポーツ部文化創造拠点開設準備室係長(取材当時、現・文化スポーツ部図書・学び交流課)の柴田豊氏は説明する。

2階の通路に設けた書架と閲覧席(写真:茂木俊輔)
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 2階に置かれている有料の座席「市民交流ラウンジ」は、図書館として運営しているのではなく、6階に主要施設が配置されている生涯学習センターの一部だ。会議室などを有料で貸し出す6階の共同学習用のスペースに対して、個人学習用のスペースと位置付けられる。利用者は自動販売機で購入したチケットのQRコードをゲートにかざし、出入りする。「電源コンセント付きの、しつらえのよい席であることから、受益者負担の考え方に基づき、利用料を徴収している」(柴田氏)。

2階の有料スペース「市民交流ラウンジ」(写真:茂木俊輔)
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 シリウスでは、利用者は公共施設にありがちな細かなルールで縛られることがない。「館内での飲み物、おしゃべり、写真撮影、これらは一部のエリアを除き、強く注意していない。施設を管理する側としてこれまでは細かなルールを課してきたが、ここを“居場所”とするなら、利用者の視点でそれらのルールがどうあるべきかを考える必要がある」。指定管理者の代表企業、図書館流通センターで神奈川営業部部長を務める今村啓吾氏は話す。

無料で利用できる6階の「市民交流スペース」(写真:茂木俊輔)
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 読書も学習も、飲み物片手にどこででも――。利用者にとっては使い勝手のいい、運営者にとってはリスクも伴う施設は、どのように誕生したのか。建設プロジェクトの経緯から振り返っていこう。

保留床に文化ホールで2つの課題に対応

 大和市文化創造拠点「シリウス」の整備経緯には、2つの流れがある。

 一つは、「大和駅東側第4地区」と呼ばれていたこの地区の再開発だ。地元では1990年代から再開発に向けた検討が進み、2006年2月に都市計画決定、翌07年3月に再開発組合の設立認可に至った。地区内には市も土地の権利を所有していたことから、再開発事業に地権者として参画。「分譲マンションを中心とする当初の計画では、市が再開発ビルの1フロアを取得し、市民交流センターに充てる予定だった。ところがその後、建設資材費の高騰やリーマンショックを引き金とする不動産市場の低迷から、再開発組合は事業計画の見直しを迫られることになった」と、柴田氏は振り返る。

シリウスが整備された「大和駅東側第4街区」の位置(資料:大和市)
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 もう一つは、芸術文化ホールの整備という行政課題である。「大和は文化施設の整備水準が低く、(人口20万人以上の自治体が指定を受けられたかつての制度である)特例市の中では、市民1人当たりの面積や客席数は最低ランクだった。定員600人規模のホールを備えた旧生涯学習センターはあったが、開設が1972年と古く、老朽化が著しかった」(柴田氏)。こうした事情を背景に、市は2007年11月に「(仮称)やまと芸術文化ホール基本構想検討委員会」を設置。同委員会は翌08年10月、「大和市に望まれる芸術文化ホールについて」と題する提言書を市長に提出していた。

 これらの流れの中で、再開発事業で新たに生み出される保留床を市が購入し、そこを公益施設に充てるスキームが提案された。再開発事業の成立と芸術文化ホールの整備という2つの課題を同時にクリアする提案だ。市がもともと持っていた土地の権利を変換して取得できる権利床と合わせれば、市で保有する床面積は再開発ビル全体のおよそ9割に達する。その提案を再開発組合が09年11月に正式に受け入れ、再開発計画は再び動き出し、再開発ビル「YAMATO文化森」が建設された。

 一方、市は再開発ビル内に整備する公益施設の内容を検討し、12年2月に「大和駅東側第4地区公益施設基本計画」をまとめ、芸術文化ホールのほか、生涯学習センター、図書館、子育て支援施設の3施設も盛り込む考え方を打ち出した。柴田氏は「文化施設の充実が課題になっていたことから、駅から離れた場所に立地していた生涯学習センターや図書館をここに移転させ、子育て支援施設を新設することで、駅周辺に新たな文化創造の拠点を創出し、集客性や利便性の向上と質の高いサービスの提供を目指した」と話す。

再開発ビル「YAMATO文化森」に入っている施設の詳細。赤枠内が「シリウス」の施設(資料:大和市)
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 基本計画ではこれら4施設の考え方のほか、公益施設全体としての考え方を整理し、施設間の事業連携や機能・ノウハウ融合の可能性を訴えた。公益施設の複合化による相乗効果を狙ったものだ。例えば、芸術文化ホールと図書館の間では図書展示コーナーの事業とホールでの催しとの連携が、芸術文化ホールと子育て支援施設の間では一時預かり事業を活用した文化芸術事業の実施が、それぞれ想定されていた。

1階メインホールのホワイエ(写真:茂木俊輔)
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1階サブホールの出入り口。エントランスホールと直結している(写真:茂木俊輔)
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 こうした「連携」や「融合」を求める考え方は、公益施設全体を指定管理者による一体管理・運営という運営形態を選んだ理由の1つにもなっている。

一体運営と民間活用を狙い指定管理者に

 市は05年度以降、施設の管理・運営に指定管理者制度を積極的に活用してきた。そうした流れの中で、再開発ビル内に整備する公益施設全体に関しては13年1月、「大和駅東側第4地区公益施設管理運営基本計画」をまとめ、指定管理者制度の導入を改めて打ち出した。

 そこではまず、文化創造への投資と持続可能な財政運営の両立を図るため、運営体制に関して、施設全体の一体的な運営と民間活力の積極活用という2つの方針を打ち立てた。そのうえで、これら2つの方針を満たすために指定管理者制度の導入を基本とするという考え方を明らかにしている。

 「施設の設置目的を効果的に実現するという点に加え、文化創造拠点と位置付けた大型の複合施設を一体的に管理しなくてはならないこと、市民サービス向上のため開館日や開館時間を大幅に拡大することを考えても、指定管理者制度の導入が妥当であると判断した」。柴田氏はそう補足する。

エントランスまわりの夜景。芸術文化ホールは午後10時まで、生涯学習センターは午後9時30分まで、図書館は午後9時(日・祝は8時)まで開いている(写真:茂木俊輔)
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 市は14年10~11月に指定管理者を公募し、新しく立ち上げた文化創造拠点運営審議会での審査を経て、翌15年1月に指定管理者の候補を選定した。審査では運営審議会の委員6人があらかじめ示された評価基準に従って応募者の提案を600点満点で評価、その合計点を比較している。評価基準は、運営組織、各施設の利用者サービス、維持管理、管理経費などの9項目。このうち芸術文化ホールと図書館の利用者サービスという2つの項目は、配点がほかの項目に比べ際立って高く、各140点に設定されていた。

 公募に応じた3つの企業グループの中から選ばれたのが「やまとみらい」だ。代表企業である図書館流通センターの今村氏は、公募に応じた理由をこう説明する。

 「図書館専門企業として、指定管理者の公募には積極的に応じている。ただ、経費削減が目的で指定管理料が極端に安かったり、業務仕様書の内容が厳密で民間ノウハウを生かせなかったりする場合は、公募に応じないことがある。大和市の案件はこれらのマイナス要素がないうえ、新たな提案を求める公募でもあった」

4階の健康コーナー(写真:茂木俊輔)
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 「やまとみらい」の提案で高く評価されたのは、図書館の利用者サービスである。公募に応じたほかの2企業グループの評価点が840点満点中598点と672点だったのに対し、「やまとみらい」は739点。「健康都市」を掲げる市は、仕様書の中で「健康都市」を支える施設運営を求めていた。審査では、特に図書館での健康に関する具体的な提案が高く評価されたという。

 選定された「やまとみらい」は15年3月、市議会での議決を経て正式に指定管理者に決まる。指定期間は16年11月から21年3月まで。指定管理料は開館初年度が3億6000万円、17年度以降が年額7億9800万円。市が公募時に示した指定管理料の上限いっぱいの金額である。

細かなルールなしでも利用者は良識をわきまえる

 指定管理者が決まり、市との間で協議を進めていく中で、冒頭に紹介したような利用者を細かなルールで縛らない運営が固まっていった。話の発端は、図書館で計画されていた学習席の少なさにあったという。

 図書館流通センターの今村氏はこう振り返る。「新しい図書館は旧図書館に比べ、学習席の割合が少なかった。学習席以外の場所で学習する利用者を注意すべきかという課題を検討する中で、むしろ館内どこででも学習できる運営にできないかと市に提案したところ、旧図書館での実態を踏まえて受け入れられた」。それをきっかけに指定管理者側では飲み物の持ち込みを可能にする運営も市に提案。それもまた受け入れられた。

館内の各所に多様な座席を設けている(写真:茂木俊輔)
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 開館後、それらの運営によるトラブルは生じていないのか――。

 指定管理者「やまとみらい」の統括責任者を務める金守孝次氏によると、「(取材時点の)1月は受験シーズンということもあって平日の夕方や土日は学習利用者が多い。読書利用者から苦情を受けることはあるが、800席近い規模の大きさから対応できている」という。

 今村氏も現在の運営に一定のリスクがある点は意識しながらも、「館内を巡回して注意を繰り返すというイタチごっこをせずに済む。どうしてもルールを厳しくする必要が生じたら、後からでも対処は可能」と構える。「館内どこででも読書を可能にしていることから、書架とは別の階に本が持ち出されたままになることを心配していたが、多くの利用者は元の書架に本を戻しているため、後片付けに手間がかかるという問題はほとんどない。飲み物による本の汚損事故もみられない。良識をわきまえて利用してもらっている」

 目指すのは、細かなルールを課さなくてもそう散らからないショッピングモールだという。「例えば館内に紙コップが放置されていたら、清掃担当者に限らず、職員がそれをすぐに片付ける。そうした行動を徹底することによって、館内の環境が悪化していくことがないように努めていく」。今村氏は力強く言う。

 「読書も学習も、飲み物片手にどこででも」という居心地の良さが評価されているためか、開館後の評判は上々だ。大和市の柴田氏は「年間利用者100万人を目指していたところ、3月17日にその目標を突破した。このペースでいくと、年間利用者200万人は確実だ」と喜ぶ。

一体運営へ、融合事業などを話し合い

 指定管理者制度の導入は市にとって、どのような意味を持つのか。

 財政上の比較は容易でない。旧図書館と旧生涯学習センターの直営コスト計約3億5000万円に対し、大和市文化創造拠点「シリウス」の指定管理料はその倍以上に相当する。しかしそこには、図書館や生涯学習センターのほか、芸術文化ホールと屋内こども広場が置かれ、施設全体の規模もはるかに大きい。開館時間は最長で午後10時までと大幅に延長されているため、同じ土俵の上では比較できない。

3階の屋内こども広場(写真:茂木俊輔)
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 ただそれを踏まえたうえで、柴田氏はこう言い切る。「運営コストが増えても構わないということでは決してないが、指定管理者制度を導入し始めた当初と違って、いまはコスト削減を必ずしも第一に期待しているケースばかりではない」。

 市にとって、指定管理者の導入目的として重要なのはむしろ、「大和駅東側第4地区公益施設管理運営基本計画」で掲げていた施設全体の一体運営と民間活力の積極活用という2つの狙いの実現だ。細かなルールで利用者を縛らない、開館時間を大幅に延長する、という利用者の視点に立った開館時の運営はまさに、民間活力の積極活用の成果といえる。今後は施設全体の一体運営をどこまで実現できるかという点が、一段と問われていく。

 施設全体の一体運営は、指定管理者側も十分に意識している点だ。統括責任者の金守氏は、こう強調する。「縦割り意識を生まない一体運営は管理運営上の重要な柱。統一のテーマに基づく融合事業の企画や広報など具体の取り組みを通じてそうした運営を心掛けるとともに、各施設を運営する個別事業者間では館長会議や共同事業体(JV)会議などを定例で開き、日常的な情報共有や課題解決を図っている」。

 図書館流通センターの今村氏も、「例えば芸術文化ホールで文楽の催しがあれば、こども図書館で落語講座を、生涯学習センターで歴史講座を開くなど、各施設の連動性を高めたい。事業面ではそうした融合事業を展開しながら、より多くの利用者に来てもらうことを一番に目指している」と意気込む。

 指定管理者制度の導入を背景に、いまでは年間200万人もの利用者を見込む大和市文化創造拠点「シリウス」。これだけの集客力を持った施設の生み出す価値は周辺一帯にとっても極めて大きい。再開発事業や保留床取得への公共投資を踏まえれば、それを地域の活性化に生かさない手はない。市の「次の一手」が待たれる。

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