リポート

記事一覧

国立公園ステップアッププログラム、先行8公園の取り組み

訪日外国人利用者の拡大に向け、民間事業者との連携も

茂木 俊輔=ライター【2018.1.16】

国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」としてブランド化、2020年までに訪日外国人の国立公園利用者数1000万人を目指して環境省が取り組む「国立公園満喫プロジェクト」。2017年12月4日に都内で開催された同プロジェクトのシンポジウム「日本の国立公園を世界へ ~国立公園満喫プロジェクトが考えるこれからのインバウンド~」では、選定された8カ所の国立公園で進む先行的取り組みの報告が行われた。

 国立公園満喫プロジェクトでは、先行的に取り組みを進める8つの公園を選定し、各公園では2016年12月に「国立公園ステップアッププログラム2020」を策定。2020年を目標にインバウンド対応の取り組を計画的・集中的に実施している。阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島という8つの国立公園の公園管理事務所所長らが、プログラムに基づく取り組みの概要を報告した。


●阿寒摩周国立公園

 北海道の阿寒摩周国立公園では、「火山と森と湖が織りなす原生的な自然を堪能する」をコンセプトに、2015年に6.3万人だった訪日外国人利用者を2020年には15万人まで拡大することを目指す。

 取り組みとして、(1)原生的な自然で過ごす「上質な時間」、(2)原生的な自然の「新たな活用」、(3)「アイヌ文化」の体感という大きく3つがあることを説明したうえで、事業報告では阿寒湖のマリモ観察ガイドツアーと川湯エコミュージアムセンターの民間開放を代表例として紹介した。

 マリモ観察ガイドツアーはまず地元の合意形成を図ろうと、2017年7月に地元関係者らでマリモの保護と活用に関するプロジェクトチームを結成し検討を進めている。検討課題は、保護のための資金確保、ガイド育成、既存の観察施設との役割分担など。2018年夏以降のツアー試行開始を予定している。

[画像のクリックで拡大表示]
マリモ観察ガイドツアーの検討(当日の発表スライドより)

 民間開放を検討する川湯エコミュージアムセンターは、1999年4月に環境省が設置した施設。利用者は年間約1万5000人にのぼる。地域の意見も踏まえて必要な機能を整理したところ、休憩、交流、アクティビティー情報発信、外国人への情報提供といった4つの機能が挙がった。

 2017年12月にはそれを踏まえて施設の一部を改修する工事に着手。休憩や交流の機能を担うカフェスペースを確保し、アクティビティー情報発信の機能を担うツアーデスク用カウンターを設置する。2018年4月にはツアーデスクを開設し、カフェの試験運用を開始する予定。その後、公募条件を整理したうえで2019年1月にはカフェ事業者を公募し、同年4月からの本格運用を目指すという。


●十和田八幡平国立公園

 青森県と岩手県と秋田県にまたがる十和田八幡平国立公園では、十和田湖の湖水、八甲田、八幡平、岩手山の火山、乳頭温泉に代表される奥山の湯治場をテーマに取り組みを進める。訪日外国人利用者を2015年の7000人から2020年には3倍の2.1万人に拡大することを目指す。

 特徴は、奥入瀬渓流での自然散策、八甲田や八幡平でのバックカントリー、乳頭温泉での湯治、というように、アウトドアアクティビティーの拠点と滞在・癒しの拠点が同じエリア内にあること。これらを体験してもらう取り組みを進めている。さらに、十和田湖畔に代表される国立公園一等地の上質な滞在空間への再生を図る狙いから、景観を阻害する廃屋の撤去も進めている。

[画像のクリックで拡大表示]
十和田八幡平国立公園の取り組みの特徴(当日の発表スライドより)

 取り組みの報告には民間の立場から、公園内の乳頭温泉にある7軒の宿で構成する温泉組合の組合長も登壇。これら7軒の宿を巡ってもらう狙いで始めた「湯めぐりスタンプ帖」やその売り上げを元手に運行する無料シャトルバス「湯めぐり号」などを紹介した。

 環境省十和田八幡平国立公園管理事務所所長の森川久氏は「海外からの利用者は湯治場のたたずまいに魅力を感じているのではないか。おもてなし施設の整備と湯治場の情緒という原点が大切。この2つを大事にしながら取り組みを進めていきたい」と結んだ。

日光、伊勢志摩、大山隠岐


●日光国立公園

 栃木県の中禅寺湖・男体山から那須にかけて広がる日光国立公園が掲げるコンセプトは、「自然・歴史・文化 美しい『日本』を感じられる東京圏のプレミアムリゾート」。2015年に19万人だった訪日外国人利用者を2020年には50万人まで拡大することを数値目標として掲げている。

 さまざまな取り組みの中から紹介したのは、ビジターセンターなどへのカフェ導入試行と自然体験ガイドの養成事業の2つだ。

 カフェ導入試行を検討しているのは、那須連山の麓に広がる「那須平成の森」の拠点施設であるフィールドセンター。施設内部にカフェ利用可能なスペースはないうえに、上下水道が整備されておらず、火気使用も禁止されていた。そうした制約のある施設で利用者にくつろいでもらう目的から、カフェ導入試行に向けた検討を始めた。

 事業者の公募前には、自然公園法、国有財産法、食品衛生法という3つの法律上の取り扱いを整理。自然公園法上は公園事業の一環と位置付け、環境省がカフェ事業者との間で協定を交わした。国有財産法上は、使用許可の対象を収益行為として占有するカウンター部分だけに限定することにした。食品衛生法上求められる手続きには、施設全体の管理者である環境省が年間5日以内の「臨時出店届」を提出することで対応することにした。

 一方、地元との連携を図ろうと、コンセプトデザインを地元在住のクリエーターに依頼し、カフェ営業時のみ使用する組み立て式カウンターを作成。カフェに用いるテーブルなども、住民参加のワークショップ形式で制作した。

 試行開始は2017年6月から。同年6月には地元の社会福祉団体が1日間、同年10月には公募で選ばれた地元カフェ事業者が3日間にわたって実施したところ、コーヒー、クッキーなどを来館者の2~3割が購入するという結果だった。収益は那須平成の森基金に募金するように事業者と協定書を交わしている。今後の課題としては、(1)地元貢献と安全確保を実現できる事業者の公平な選定方法、(2)損益分岐点の判断、(3)効率的な運用方法の検討、(4)周辺事業者からの理解という4点を挙げた。

[画像のクリックで拡大表示]
カフェ試験導入の結果(当日の発表スライドより)

 ガイド養成事業は、既存ガイドの能力向上と新規ガイドの育成を目的にしたものだ。2016年度から4年計画で取り組んでいる。ガイドが自ら作成したプログラムで生計を立てていけるようにすることが目標だ。課題の1つは、多言語対応。栃木県が英語での研修を実施しているため、県と連携し育成に取り組む。もう1つは、育成したガイドの組織化だ。この点は、満喫プロジェクトの中で検討していくという。


●伊勢志摩国立公園

 紀伊半島の東部、三重県内の4つの市町にまたがるのが、伊勢志摩国立公園だ。

 特徴は、リアス式海岸や内陸部の常緑広葉樹などの豊かな自然を背景に、真珠養殖、海女漁、伊勢神宮など地域の歴史や文化を持つ点だ。公園面積の96%が私有地で、園内には多くの人が居住する。そのため地域の歴史・文化や生活・風習などにふれることができ、人の営みと自然との関わりを深く感じられるという。コンセプトには、「悠久の歴史を刻む伊勢神宮 人々の営みと自然が織りなす里山里海」を掲げる。

 満喫プロジェクトでは、(1)受け入れ環境の向上、(2)観光コンテンツの向上、(3)景観の保全、(4)情報発信の強化という4つの課題に対し、(1)上質な展望環境と快適な利用環境の整備、(2)観光資源の磨き上げによるストーリー性を持った質の高い自然体験の提供、(3)人々の営みと自然が織りなす優れた景観の保全という3つの視点から、6つの取り組みを定めている。これらの取り組みによって、2015年に3.3万人だった訪日外国人利用者を2020年に10万人に拡大することを目指す。

[画像のクリックで拡大表示]
まちなみの景観改善に取り組む(当日の発表スライドより)

 具体の取り組みに関しては、三重県の担当者が登壇し説明した。例えば「まちなみの景観改善」では、課題共有のため公園内市町で合同勉強会を開催したほか、電線の地中化などにも取り組む。また「インバウンド対応の施設整備」としては、志摩市内にある横山展望台で「天空カフェテラス」を整備中。2018年夏のオープンを目指す。


●大山隠岐国立公園

 鳥取県と島根県にまたがる大山隠岐国立公園は区域が飛び地状に指定されている。面積はそう広くないが、山、草原、島の多様な景観や、日本神話や山岳信仰と自然が融合した人文景観が特徴だ。「日本の大地の成り立ちが刻まれ、神話・信仰が息づく山・島・海」をコンセプトに掲げる。広域周遊ルート「緑の道」のモデルコースにも位置付けられ、広域連携DMO(観光地経営組織)として日本版DMOに登録されている一般社団法人山陰インバウンド機構が国内外の商談でプロモーションを展開しているという。

 事業報告で紹介した取り組みは、(1)保全の仕組みづくり、(2)引き算の景観改善(廃屋や雑多な広告看板など景観を阻害する施設を撤去するなどして再整備すること)、(3)キャンプ場の改革、(4)アクセス環境の改善、(5)プロモーションである。

 保全の仕組みづくりでは、三瓶山の草原景観維持に向けて、伐採した木材をまきにしたものや地元飲食店のハンバーガーの売り上げの一部を維持活動に寄付する循環型プログラムを構築した。

 キャンプ場の改革では、大山蒜山エリアの環境省直轄野営場4カ所を2019年度中までに再整備する予定で基本計画を策定中。新たなキャンプニーズの取り込みや周辺との一体的な利用、民間事業者のノウハウ活用などを踏まえた整備を目指し検討を進めている。また2017年11月にはスノーピークへの委託事業として、蒜山キャンプ場を核にモニタリングキャンプを開催。アウトドア関係の有識者や地域の行政・観光関係者などが、サイクリング、地域の食材を用いた料理を組み合わせたプログラムなどを体験し、蒜山の魅力の発信方法やキャンプ場の活用方法などに関して意見を交わした。

[画像のクリックで拡大表示]
キャンプ場改革の概要(当日の発表スライドより)

 さらにプロモーションでは、日本在住外国人の交流サイト(SNS)を通じた魅力発信を促そうと、国際パークサポータープログラムを立ち上げた。この事業報告の時点では13カ国・19人が登録済みという。

 環境省大山隠岐国立公園管理事務所所長の中山直樹氏は「2018年には、山の日記念全国大会が鳥取で開催され、大山開山1300年祭が予定されている。これらのイベントとも連携し、効果的にプロモーションを進めていきたい」と、今後への意気込みを語った。

阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島


●阿蘇くじゅう国立公園

 阿蘇くじゅう国立公園だけは、環境省阿蘇くじゅう国立公園管理事務所の国立公園利用企画官である森田勇治氏が自らナビゲーター役になってツアー仕立てで同公園の魅力をシンポジウム参加者に紹介していくという、異色のスタイルを取った。

 まず紹介したのは、大分空港から別府を経由し公園に向かうときの入り口にあたる伽藍岳である。その先、由布岳の麓にあるのが由布院温泉。阿蘇の黒川温泉と並ぶ人気上位の温泉である。

 さらに、九重連山の麓に広がるタデ原湿原(ラムサール条約登録地)、阿蘇山などの特徴を紹介。である。阿蘇では、熱気球、ハンググライダー、ヘリコプターでの火山見学など、「ワイルドなアクティビティーが盛ん」と森田氏。1周100㎞の外輪山ではロードレースの開催も検討されているという。

[画像のクリックで拡大表示]
取り組みの概要(当日の発表資料より)

 満喫プロジェクトで定めた公園のコンセプトは「復興の大地~草原のかほり、火山の呼吸。人が継ぎ、風と遊ぶ感動の大地~」。数値目標としては、訪日外国人利用者を2015年68万人から2020年140万人に拡大することを掲げる。


●霧島錦江湾国立公園

 霧島錦江湾国立公園は、霧島、桜島・錦江湾、指宿という大きく3つの地域に分かれる。それぞれ、火山景観を楽しめる。宮崎県と鹿児島県にまたがり、関係市町は8市3町に及ぶ。コンセプトは、「多様な火山とその恵み、壮大な歴史と神話に彩られた霧島・錦江湾」。9割以上を占めるアジアを中心に誘客するとともに欧米豪の市場も開拓し、2015年に7.1万人の訪日外国人利用者を2020年には20万人に拡大することを目指す。

 取り組みの1つは、えびの高原への上質な宿泊施設の誘致と周辺でのアクティビティーの開発だ。施設誘致に関しては、ホテル跡地やピクニック広場に高級ホテルやグランピング施設を誘致することを検討中。周辺アクティビティーと一体的に地域の魅力アップを図る。環境省九州地方環境事務所国立公園保護管理企画官の川瀬翼氏は「公募を前提に、2017年度内をめどに官民対話に入りたい」と明かす。

[画像のクリックで拡大表示]
2次交通の改善を目指す(当日の発表スライドより)

 大きく3つの地域に分かれていることもあって、空港や駅などの拠点から観光地までの2次交通が課題。霧島地域南部や本土最南端の佐多地域では、地元自治体が観光周遊バスを試行的に運行し対応している。


●慶良間諸島国立公園

 沖縄県の慶良間諸島国立公園は本島から高速船で1時間かからない距離。コンセプトには、「美ら海慶良間 リトリート・海と島がつくるケラマブルーの世界」を掲げる。「リトリート」とは隠れ家。良質な旅を提供し、2015年に22.4万人の利用者を2020年に25.3万人に季節間の平準化を図りながら拡大していくことを目標にすえる。

 世界水準の国立公園を目指す中で、慶良間諸島の阿嘉島では2つの施設整備に先行して取り組む。1つは、「さんごゆんたく館」と呼ぶ情報拠点施設の整備。島の玄関口で2018年3月オープンを目指す。さんごを守る体験プログラムの提供も想定している。もう1つは、ケラマブルーを一望できる海沿いにある「ニシバマテラス」の再整備。海に入らない利用者にも、ここでケラマブルーを満喫してもらいたいという。

[画像のクリックで拡大表示]
2つの施設整備に取り組む(当日の発表スライドより)

 さらに地元の座間味村からは村長の宮里哲氏が登壇し、取り組みテーマを挙げた。1つは、消費額の引き上げだ。自然環境を活用した引き上げ策に着目し、具体化を図っている。もう1つは、10月から6月までの利用者を増やすこと。この期間に楽しめるノルディックウオーキングや星空をテーマとするアクティビティーを開発中だ。

 宮里氏は「3次産業の従事者が92.4%を占めるだけに、利用者の確保に向けて村全体で盛り上げることがやりやすい地域だ。中国語やスペイン語を話せる人を観光協会で雇用するなど、村を挙げて取り組んでいる」と強調した。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/report/011500106/