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下水処理場が「太陽光+バイオマス発電所」に

「下水汚泥+し尿+生ごみ」を発酵させガスエンジン燃料を製造、豊橋市PFI

金子憲治=日経BPクリーンテック研究所【2017.12.28】

「メガソーラービジネス」2017年10月31日付の記事より

 JR豊橋駅から南西に約4km、豊橋市上下水道局の「中島処理場」は、柳生川の河口に面し、すぐ先に三河湾が広がる。約29haの広大な敷地を持つ同市最大の下水処理場だ。

メガソーラーの横に巨大な発酵槽

 市街化区域の約7割から出る下水を処理するとともに、実は、最大出力約3MWもの再生可能エネルギー発電施設でもある。敷地内の北側には、出力約2MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)、そして約1MWのバイオマス発電設備が今秋までに稼働した(図1)。

図1●中島処理場内に稼働したメガソーラーとバイオマス発電設備
(出所:JFEエンジニアリング)
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 メガソーラーエリアには、多結晶シリコン製の太陽光パネル(265W/枚)を9328枚並べた。太陽光パネルの設置容量は約2.472MW、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力は1.995MWで、6.6kVに昇圧し、中部電力の高圧配電線に連系している。固定価格買取制度(FIT)を利用し、32円/kWhで売電する。

 一方、バイオマス発電所のエリアには、高さ約20m・直径21mもの巨大な円筒形をした発酵槽2棟などがそびえる(図2)。発酵槽の容量は各5000m2に達し、中では3種類の有機系廃棄物を嫌気発酵させてメタンを取り出し、ガスエンジン発電機の燃料にしている。

図2●高さ20mもの発酵槽が2棟並ぶ
(出所:JFEエンジニアリング)
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3種類のバイオマスからメタンガス

 3種類の有機系廃棄物とは、「下水汚泥」と「し尿・浄化槽汚泥」、そして「生ごみ」だ。下水汚泥は、水処理施設から配管を通じて送られてきたものを濃縮して投入する。し尿・浄化槽汚泥と生ごみは、専用の収集車が集め、運び込まれる。

 処理量は、下水汚泥は351m3/日、し尿・浄化槽汚泥は121m3/日、生ごみは59t/日を見込んでおり、これらから得たメタンガスで1日に最大2万4000kWhを発電できる。こちらもFITを活用して、39円/kWhで売電する。

 加えて、発酵後に残った残渣は、キルン式の炭化設備で蒸し焼きにして炭化燃料を製造する。これは、石炭代替のバイオマス燃料として活用できる。計画では、6t/日を製造でき、石炭の需要家などに販売する(図3)。

図3●キルン式の炭化設備
(出所:JFEエンジニアリング)
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 水分の多い有機系廃棄物を嫌気発酵させて可燃ガスを取り出し、ガス発電を行う手法は、畜産業や自治体などでこれまでにも導入例がある。ただ、従来は下水汚泥や生ごみなど単一の有機系廃棄物を対象にした設備が一般的で、今回のように複数の有機系廃棄物をまとめて発酵させ、これだけの規模でガス発電を行うのは国内で初めてとなる。

 豊橋市上下水道局・下水道施設課の七原秀典主幹は、「未利用エネルギーの有効活用を目指し、まず下水汚泥のメタン発酵を検討した。だが、バイオマス量が少ないため事業性に課題があった。そこで、家庭や事業所から出る生ごみも対象にすることを検討した。その結果、下水汚泥と一緒に発酵することで投資効率が高まるなど、利点が多いことが分かり、それを前提にバイオマス活用事業を進めた」と言う。

PFIで3つの業務を民間が建設・運営

 今回のプロジェクトは、豊橋市が民間企業に発注した「豊橋市バイオマス資源利活用施設整備・運営事業」によるものだ。同事業は、3つの業務から構成される。(1)下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥、生ごみを発酵させて得たメタンガスを有効活用する業務、(2)発酵後の残渣(汚泥)を有効に活用する業務、(3)両業務で使用しなかった場内の未利用地を有効活用する業務―――。

 そして、事業形態として、PFI(Private Finance Initiative)のうち、BTO(Build Transfer Operate)方式を採用した。建設資金を民間企業が調達し、完成後に所有権を豊橋市に移転、運営を同一の民間が担う形になる。(1)と(2)は豊橋市が民間からサービスを購入する形になる。(3)は独立採算で、市は民間に未利用地を賃貸しすることになる。

 こうした事業内容を公表して、市が民間に提案を募り、JFEエンジニアリングと鹿島建設、鹿島環境エンジニアリング、オーテックの出資するSPC(特定目的会社)豊橋バイオウィルが137億円で受注した。市の予定価格は232億円だった。

 その提案内容が、(1)に関してはメタンガスを燃料にしたバイオマス発電・売電事業、(2)に関しては、発酵残渣から炭化燃料を製造・販売する事業(図4)。そして(3)に関しては、太陽光発電所を建設して売電する、というものだった。バイオマス発電とメガソーラー発電による電力は、固定価格買取制度(FIT)を利用して売電する。

図4●3種のバイオマスから電気と炭化燃料を生み出す
(出所:JFEエンジニアリング)
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セメントミルクで地盤改良

 メガソーラー事業については、バイオマス発電事業に先行し、今年2月に完工し、売電を開始した。バイオマス発電とは独立採算となるため、別のSPCを設立した。JFEテクノスと東京センチュリーの出資したT&Jパワープラントで、同SPCが中部電力に売電する。

 EPC(設計・調達・施工)とO&MサービスはJFEテクノスが担っている。太陽光パネルはハンファQセルズ製、PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した(図5)(図6)。

図5●太陽光パネルはハンファQセルズ製を採用
(出所:日経BP)
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図6●PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用
(出所:日経BP)
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 バイオマス活用に関連する設備を配置し、残った未利用地・約3万800m2に太陽光パネルとPCS、連系設備を設置した。パネルの設置枚数を増やすため、設置角を10度まで寝かして影の影響を減らし、9328枚を並べた。結果的に、連系出力1.995MWに対し、パネル容量2.472MWとなり、過積載率を1.2倍に高め、独立したメガソーラー事業としても適正な投資収益性を確保できた。

 ただ、地震の多い東海地方にあり、河口に面した沿岸域に位置するため、塩害に加え、大地震に伴う津波のリスクがあった。

 メガソーラーのあるエリアは、20年以上前、養鰻池があり、建設・土木残土などで埋め立て、盛り土したため、周囲よりやや高くなっている。加えて、アレイ(パネル設置単位)最低部と地面との設置高は1.5mを確保して、津波による浸水に備えた。

 架台を支える基礎は杭方式だが、単なる打ち込み工法でなく、杭の周囲を中堀してセメントミルクを注入して地盤改良し、地耐力を高めた。加えて、杭先端に拡翼部のあるタイプを採用することで、強風による引張り荷重への強度を高めた(図7)。

図7●杭基礎の周囲をセメントミルクで土壌改良した
(出所:日経BP)
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 今年2月の運転開始から、10月まで順調に稼働しており、発電量は1年目の想定値に比べ、10%以上、上振れしているという。

発電効率38.9%の「V16」ガスエンジン

 一方、バイオマス活用事業に関しては、今春から試運転を開始し、今年10月から本格稼働したばかりだ。これらの設備は、JFEエンジニアリングが設計・施工した。

 JFEは、メタン発酵による発電事業に必要な主要設備を自社で開発・販売しており、すでに多くの実績がある。発酵を促す貯水槽は、玉子型をしたコンクリート製もよく見られるが、同社は円筒形の鋼板製発酵槽を開発し、すでに100件以上の納入実績がある。コンクリート製に比べ、工期を短縮できるなどの利点がある。

 貯水槽内部で発酵を促すためには、バイオマスを攪拌する必要がある。JFEは、槽内に装着する攪拌機でも100台以上の実績があり、国内シェアトップという。

 発生したメタンガスを燃料に稼働する原動機には、今回、V型16気筒のガスエンジンを採用した。発電効率38.9%で国内最高水準という。これもJFE製で国内18カ所の下水処理場に30基(合計約20MW)を納入した実績があるという(図8)。

図8●JFE製のV型16気筒ガスエンジン
(出所:日経BP)
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 このほか、発酵したバイオガスをガスエンジンに投入するためには、硫化水素とシロキサン(有機ケイ素)を取り除く必要があり、脱硫装置とシロキサン除去装置を装備する。JFEは生物脱硫設備で実績があり、今回も自社製品を導入した。

 シロキサンとはシャンプーなどに含まれる人工的な合成物質で、燃焼すると配管などに蓄積し、不具合の原因になる。下水汚泥に含まれるため、事前に除く必要がある。

「発酵不適物」の除去が課題に

 豊橋市のバイオマス利用プロジェクトで特徴である「生ごみ」の活用については、発酵を阻害する「発酵不適物」の混入が課題となる。この場合の「不適物」とは、微生物が分解できないプラスチック類、骨や貝殻などの無機物だ。

 ただ、市民が生ごみを分別して週2回、収集場所に出す際、プラスチック製の袋に入れることになる(図9)。また、市民に対し、生ごみから魚の骨や貝殻を取り除くことまで求めるのは、分別作業の負荷が大きく、現実的でない。

図9●ホッパーからプラスチック袋に入った生ごみを投入。監視カメラの映像
(出所:日経BP)
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 そこで、ホッパーから生ごみを受け入れ、発酵槽に投入するまでの間に前処理工程を設け、プラスチック袋を破砕・分別する装置と、比重によって骨や貝殻など重い固形分を除去する沈殿槽を導入した。

 ただ、それでも紙が混入したような場合、前処理工程で分別し切れないこともあるという。紙は有機物だが、嫌気発酵によって分解されにくく、装置に張り付くなど、設備の運用上、支障となる可能性もあるという。

 豊橋市では、今回のバイオマス活用事業に合わせ、各家庭・週2回、生ごみの分別収集を始めた。これまでのところ、不適物の混入率は10~15%となっているという。 今後も継続的に生ごみの分別収集を市民に呼びかけ、「不適物」の混入を減らしていきたいとしている。

2万2000kWh/日を発電し9割を売電

 本格稼働して、まだひと月足らずだが、1日当たり発電量の目標である2万4000kWh(出力1000kW×24時間)に対し、すでに平均2万2000kWh/日まで達しているという。このうち10~15%を設備稼働に必要な電力に自家消費し、残りを売電している。

 発酵により発生したバイオガスは、脱硫装置とシロキサン除去装置を経て、メタン60%、二酸化炭素40%の混合ガスになる。メタン発酵によるバイオマス発電では、可燃ガスの割合が少ないと、ガスエンジンの回転が不安定になる場合もあるが、想定したガス成分のため、稼働は安定しているという。

 ただ、現時点で、目標の2万4000kWh/日に達していないのは、日によってガスの発生量が少なく、ガスエンジンを数時間、止めることがあるためという。

 生ごみの分別収集は、2エリアに分けて各家庭に週2回収集している。このため生ごみが処理場に搬入されるのは週4日。逆に言うと週3日は生ごみを投入できない。下水汚泥に比べてカロリーの多い生ごみはメタンガスの発生量も多く、燃料ガスの半分近くは生ごみ由来になる。このため、「生ごみなし」がガス発生量に与える影響は大きい。

 そこで、JFEエンジニアリングでは、2000m3のガスホルダのほかにも、各工程で生ごみの投入変動を吸収できるバッファーを設けることなどで、ガスの発生量を平準化し、ガスエンジンがフル稼働できるように処理フローの変更を検討しているという。

●太陽光発電設備の概要
発電所名豊橋太陽光発電所
住所 愛知県豊橋市神野新田町字中島75番の2(豊橋市中島処理場内)
発電事業者T&Jパワープラント(東京センチュリーとJFEテクノスの出資)
リース会社東京センチュリー
土地所有者豊橋市
設置面積約3万800m2
出力太陽光パネル・約2.472MW、パワーコンディショナー(PCS)・1.995MW
EPC(設計・調達・施工)サービスJFEテクノス
O&M(運用・保守)JFEテクノス
太陽光パネルハンファQセルズ(265W/枚×9328枚)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
売電開始日2017年2月
売電単価32円/kWh

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