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高校生がダムカレーで地域おこし

官・学連携プロジェクト 「人気のなさ」逆手にクラウドファンディングで資金調達

三上 美絵=フリーライター【2018.1.4】

『日経コンストラクション』2017年12月11日号「インフラづくりの未来」より

魅力度ランキング最下位の茨城県の中で、最も知名度の低い町──。そんな城里町で、高校生が地域おこしに奮闘。町の地域おこし協力隊や近隣の大学のサポートを受けながらクラウドファンディングで資金を集め、町内のダムをモチーフにした「ダムカレー」を開発している(図1、2)。

図1■茨城県立水戸桜ノ牧高校常北校、常磐大学、城里町の三者による高・大・官連携プロジェクトが支援を呼びかけたクラウドファンディングのサイト。最終的に、120万円の目標金額を上回る138万円が集まった(資料:READYFOR)
図2■プロジェクトのスキーム
城里町の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 ブランド総合研究所(東京都港区)の実施する地域ブランド調査・魅力度都道府県ランキングで、5年連続最下位となった茨城県。城里町は、その茨城県の市町村知名度ランキングで、2015年に3年連続最下位を記録した。

 「日本一魅力度の低い県の、最も知名度の低い町」──。この事実を逆手に取って町のPRに活用しようと立ち上がったのが、町内唯一の県立高校である水戸桜ノ牧高校常北校の生徒たちだ。

高・大・官の連携プロジェクト

 2015年度に2年生の「総合的な学習の時間」で、町を盛り上げる政策を考える課題に取り組んだ。役場職員のサポートを受けながらまとめ上げた政策提案は、上遠野(かとうの)修町長の前でプレゼンテーションした。

 翌年度には、高校側からの呼びかけに応じた水戸市の常磐大学と城里町も加わり、三者による高・大・官連携プロジェクト「めざせスターダム!~Make up 城里~」が発足。単に高校の授業の一環として企画を考えるだけでなく、「地域資源を活用したビジネスプロジェクトの実現と人材の育成」という明確な目的を掲げることになった。インターネットを通じて複数の人から資金を調達する「クラウドファンディング」も盛り込まれた。

 大学からは、総合政策学部総合政策学科の砂金(いさご)祐年准教授が率いるゼミの学生が参加。高校生と大学生が企画考案と資金獲得を手掛け、城里町の地域おこし協力隊がそれを支援する体制だ。さらに、旅行会社JTB関東(さいたま市)もアドバイザーとして協力することになった。

地元ダムの特徴に注目

 プロジェクトが「地域資源」として着目したのが、県営の藤井川ダムだ。ダム周辺には町営のキャンプ場や温泉施設などがあり、かねて町民にとって身近な場所だった(写真1)。

主堤体
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副堤体
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写真1■主堤体と副堤体から成る全国でも珍しいスタイルの藤井川ダム(写真:城里町)

 同ダムは本堤体から少し離れた位置に副堤体を持つのが特徴。全国的にも珍しく、町のシンボルとして売り出すにはぴったりだ。

 実は1956年の竣工当時には、堤体は1つしかなかった。治水専用に計画されたことから、当初の姿は堤体下部に吐水用の穴が開いた、いわゆる“穴開きダム”。

 その後、人口増加による水需要増大に対応するため、穴の部分に高圧ラジアルゲートを備えて貯水機能を付加する工事を実施。このとき、洪水調節機能の強化を図るために上流部に設置したのが、ゲート3門の洪水吐きからなる副堤体だ。

 この再開発が1976年に完成した後、さらに治水と利水のバランスを取るためにダム湖を掘削し、2005年に現在の形になった。

カレー案にラブコール

 プロジェクト初年度の2016年度はまず、6チームに分かれてそれぞれが企画案を作成。成果発表会では、藤井川ダムを擬人化したキャラクター「ダ娘(だむすめ)」を活用するPR事業やダム周辺を町の特産品である提灯でライトアップする事業、ダム周辺を舞台にした体験型の脱出ゲーム風イベントなど、ユニークなアイデアが飛び出した。

 ただし、持続的なビジネスとして成立させるためには、「何をどう売るか」の出口戦略が欠かせない。企画案の中からこの視点で選ばれたのが、藤井川ダムとダム湖をライスとルーで表現する「ダムカレー」だった。ダム湖に囲まれた場所に位置する健康増進施設「ホロルの湯」から、「ぜひレストランで販売したい」とラブコールが寄せられたからだ。

 カレーなら、特徴あるダムをモチーフにしつつ、町で生産する米や豚肉、トマトなどの農産物を生かすこともできる。

 こうして2017年度には「藤井川ダムカレー」に焦点を定め、メンバー全員で商品開発とクラウドファンディングによる資金獲得に全力を挙げることになった。

“物語”で既視感を払拭

 プロジェクトではまず、ダムカレーの生みの親である宮島咲氏を講師に招くなどして、藤井川ダムの特徴やダムカレーの作り方を学び、試作を重ねた(写真2~4)。

写真2■2016年4月に実施した第1回のグループワークの様子(写真:常磐大学)
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写真3■日本ダムカレー協会を主宰する宮島咲氏による特別講義では、藤井川ダムの特徴やダムカレーづくりのイロハを学んだ(写真:常磐大学)
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写真4■ダムカレーの試作状況。ポイントは藤井川ダムの主・副2つの堤体をどう表現するか。材料には地元産の農産物を取り入れた(写真:常磐大学)
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 だが、メンバーには心配もあった。ダムカレーはすでに、全国で130種以上が提供されている。新たに考案しても既視感を持たれるのではないか──。大学生は「物珍しさがなく、注目してもらえないのではと不安だった」と打ち明ける。

 インターネット上で不特定多数の人から資金を募るクラウドファンディングでは、プロジェクトへの共感を得られなければ、成立は難しい。学生たちは知恵を絞った(図3)。

図3■クラウドファンディングで資金を募集していることをPRするチラシでは、あえて「日本一人気のない町」を前面に打ち出した(資料:常磐大学)
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 思いついたのは、“物語”を設定すること。高校生たちを主人公に、おなじみの童話「シンデレラ」をモチーフとし、クラウドファンディングで得るお金を魔法の杖に見立てる。日本一魅力のない県の最も知名度の低い町の高校生が、魔法の力を借りてダムカレーで地域を盛り上げ、輝いていくストーリーだ。

 大学生が物語を創作し、高校生がイラストを描いて、少しずつクラウドファンディングの募集サイトに連載していった。ファンディングの返礼品にも、これを1冊にまとめた絵本を組み入れた(図4)。

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図4■クラウドファンディングの返礼品。ダムカレーカードや高校生のイラストによる絵本など、工夫を凝らした(資料:常磐大学)

資金集めはまさかの苦戦

 クラウドファンディングの目標金額は、専用のカレー皿の製作費などを含めた商品開発費40万円、PR費20万円など合計120万円。しかし、7月31日の募集開始から1カ月たった段階で、まだ15万5000円と伸び悩んでいた。

 9月29日午後11時の刻限までに目標を達成しなければ不成立となり、支援金は得られない。メンバーはPR活動に奔走。県内はもちろん、東京まで足を延ばし国土交通省や日本ダム協会を訪ねて協力を訴えた(写真5)。募集サイトには、メンバーの顔写真入りのメッセージを掲載。期日間際には、高校生が町内のスーパーで横断幕を掲げてアピールした。

写真5■当初は思うように支援金が集まらなかったことから、大学生と高校生が日本ダム協会を訪れ、協力を要請した(写真:三上 美絵)
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 怒涛の追い込みが功を奏し、28日の夕方、ついに目標を達成。最終的に締め切り時点では支援者数が143人に上り、138万円が集まった。

 「学生が自分で立てた企画だからこそ、自主的に行動した。地域活性化を実地に学ぶ貴重な機会になった」と砂金准教授(写真6)。高校生たちは「生まれ育った町なので、人気が出れば嬉しい」、「これからは『ダムカレーで有名な町』と呼ばれたい」と微笑む。藤井川ダムカレーは、年内に販売を開始する予定だ(写真7、8)。

写真6■常磐大学総合政策学部総合政策学科の砂金祐年准教授(写真:三上 美絵)
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写真7■常磐大学の学園祭で試作品のダムカレーを販売。1杯500円で2日間に限定200食を完売した(写真:城里町地域おこし協力隊)
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写真8■吐水口を再開発で塞いだ様子を再現。底穴に差し込んだウインナーを抜くと、ルーが放流される(写真:城里町地域おこし協力隊)
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「プロジェクト エコー・シティ」とは、日経BP社の建設関連媒体が新しい街づくりを提唱していくプ ロジェクト。ECHO CITYはEco Conscious and Human Oriented City(環境と人が響き合う街)の略で あり、地球環境問題に配慮しつつ、人々の息遣いまで感じ取れるような新しい街づくりについて 情報発信する。「インフラづくりの未来」は、その取り組みの一つ

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