事例研究

記事一覧

直営図書館と地元スーパーを一体整備、安城市

中心市街地拠点施設「アンフォーレ」をPFIと定借で

茂木俊輔=ライター【2017.12.22】

地方都市で図書館の集客力は侮れない。愛知県安城市は築30年を超えて間もない中央図書館を郊外部から中心部に移し、民間の力を生かしながら図書館とスーパーマーケットなどの複合施設を整備。中心市街地のにぎわい創出を図っている。施設の整備はPFI(民間資金を活用した社会資本整備)と定期借地という2つの方式を組み合わせ、市が直営で運営する図書館では会話や軽食を認めるなど、新しい運営に挑んでいる。

安城市中心市街地拠点施設「アンフォーレ」の公共施設。図書情報館は2階から4階まで。開館時間は、月曜・水曜から金曜までが朝9時から夜8時まで。土曜・日曜・祝日が朝9時から夜6時まで。閲覧席は870席(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]

 区画が整然とした市街地の角地に建つガラス張りの建物だけに、ひと際目立つ。ガラス越しには、いすに腰掛け、図書館の本を読む利用者の姿が見える。愛知県安城市が2017年6月に開設した中心市街地拠点施設「アンフォーレ」である。

 敷地は、JR安城駅から歩いて5分ほどの中心部。旧更生病院(現安城更生病院)の郊外移転に伴い生まれた跡地約1.2haがタネ地だ。市は土地開発公社を通じて跡地を2003年12月に取得し、2004年1月から中心市街地交流広場として暫定利用してきた。並行して、跡地を含む一帯約3.3haで土地区画整理事業を実施し、基盤整備を進めていた。

 約1.2haの敷地には、大きく3つの施設が公民連携で整備されている。

安城市中心市街地拠点施設整備事業の概要。総事業費は税込み金額(資料:安城市)
[画像のクリックで拡大表示]

 角地に建つガラス張りの地上5階建ての建物は、1階をホールや多目的室など、2階から4階までを図書情報館、5階を事務室で構成する公共施設だ。その隣には、地上2階建ての商業施設と地上4階建ての立体駐車場が民間施設として並ぶ。商業施設には愛知県三河地域を地盤とするスーパーマーケットの「ドミー」と地元のカルチャーセンターである「暮らしの学校」がテナントとして入居する。残る5000m2弱の区域には、広場(願いごと広場)と公園(御幸公園)が広がる。

図書館の集客力をにぎわい創出に生かす

 整備事業としては一体のものだが、事業方式は公共施設や広場・公園と民間施設で異なる。

 公共施設や広場・公園の整備にはPFI(民間資金を活用した社会資本整備)を活用(BTO方式)。清水建設、スターツCAM、三上建築事務所の3社が設立した特別目的会社(SPC)の安城情報拠点施設サービスが施設を建設し、事業期間である15年間にわたって維持管理業務を行う。施設整備費と維持管理費を合わせた総事業費は62億5320万円に上る。

安城市中心市街地拠点施設整備事業のスキーム。「施設整備費」と「維持管理費」は税抜き金額(資料:国土交通省「民間収益施設の併設・活用に係る官民連携事業事例集」)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方、民間施設の整備には、定期借地方式を活用した。スターツアメニティーと清水建設が設立したSPCの安城民間収益サービスが市から用地約4400m2を平方メートル・月当たり300円で借りて施設を建設し、テナントに賃貸する。273台分整備した立体駐車場のうち200台分は、市が公共施設利用者用として確保し、年間約4500万円の使用料を民間事業者に支払う。事業期間は20年間だ。

 施設整備の狙いは、市街地中心部でのにぎわい創出だ。図書館、商業施設、ホールや広場で開催するイベント、それぞれが集客力を発揮し、互いに相乗効果を上げながらにぎわいを創出することが期待されている。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
左は公共施設の吹き抜け。設計を担当した三上建築事務所代表取締役の益子一彦氏は「建物がフロアで分断されることなく、どのフロアにいても全体を見渡せるように設けた」と、設計意図を説明する。図書情報館の利用者も1階エントランスで開催されているイベントの様子を感じ取ることができる。右は「でん」と呼ばれる広さ8畳(約13m2)ほどの空間。「にぎわい創出という大きな命題に応えようと、図書情報館の利用者の姿をまち中にも表出させることを考えた」と益子氏は話す。賑わいを促す空間的な仕掛けが施設各所で見て取れる(写真:2点とも茂木俊輔)

 背景には、商業地としての市街地中心部の落ち込みがある。1990年代後半には大型店が郊外に相次いで開業する一方、中心部に近いトポス安城店(旧ダイエー安城店)が閉店した。旧更生病院が2002年4月に郊外部に移転すると、来街者の減少に拍車が掛かり、2003年10月にはユニー安城駅前店も閉店に至った。

 こうした中で市が計画したのが、拠点施設の整備だ。現在、「アンフォーレ」の核とも言える、図書館、民間施設、広場の3つは、市が2008年3月に策定した中心市街地拠点整備基本構想の段階から、「整備する施設」として想定されていた。

 この当時から図書館が挙がっていたのには、理由がある。

 人口約18万8000人の安城市内の公共施設を見渡すと、中央図書館の入場者数は、安城産業文化公園「デンパーク」に次いで多い。2010年度の統計によれば、「デンパーク」は年間47万2000人、中央図書館は同44万2000人。それに続く体育館や文化センターが年間23万人台にすぎないことを踏まえると、公共施設として圧倒的な集客力を持つことが分かる。

 「その集客力を、にぎわい創出に生かそうという発想だ」。市市民生活部アンフォーレ課課長兼図書情報館長の岡田知之氏は説明する。

 中央図書館は当時、JR安城駅から車で10分ほどの郊外部に立地していた。開館したのは、1985年。市が2010年3月に策定した中心市街地拠点整備基本計画によれば、築25年ほど経過し、(1)市民ニーズに対応した新たなサービス展開が必要(2)蔵書収容能力の限界(3)閲覧席や書架の不足(4)受付カウンターの慢性的な混雑――など課題への対応も求められていたという。中心部への移転は、これらの課題に応える好機でもあった。

分棟方式の採用で事業リスク切り離し

 民間施設への期待もまた、集客力の発揮によるにぎわい創出にほかならない。中心市街地拠点整備基本計画では、「公共施設と相乗効果の発揮できる施設や生活利便性の向上が期待できる施設」を想定していた。

 中心部では、生活利便性の向上を望める施設としてスーパーマーケットへの期待がみられたという。先ほど触れたように、中心部ではトポスとユニーという2つの大型店が閉店し、日常の買い物は郊外型の大型店に頼らざるを得なかった。「ところが、中心部では高齢化が進んでいるため、徒歩や自転車で利用できるスーパーマーケットが求められていた」(岡田氏)。

民間施設。1階にスーパーマーケット「ドミー」、2階にカルチャーセンター「暮らしの学校」がテナントして入居する。スーパーマーケットの提案が事業者選定の大きなポイントとなった。右手は公共施設。2つの建物は2階の連絡通路で結ばれている。その間には立体駐車場がある(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]

 図書館や民間施設とともに想定されていた広場は、暫定利用だった中心市街地交流広場の機能を引き継ぐものだ。そこでイベントが開催されれば、にぎわい創出に役立つ。

 これらの施設を整備するにあたって市は、民間事業者との連携を前提に、分棟方式と合築方式の2通りの方式を検討してきた。

 分棟方式は、公共施設と民間施設を建築構造上切り分け、敷地もそれぞれ区分するものだ。これに対して合築方式は、公共施設と民間施設が建築構造上一体で、一つの敷地に建つ1棟の建物の中に同居させるものだ。

 検討を重ねる中で行き着いたのが、採用した分棟方式である。民間施設の整備に伴う事業リスクを公共施設の整備から切り離せる点が、決め手になった。

 合築方式では、下に民間施設、上に公共施設を配置するという構成を想定していた。ただ民間施設は公共施設と違って、撤退や経営破たんのリスクが伴う。岡田氏は「合築方式では、場合によっては1階部分に空きが生じ、その上に配置される公共施設の利用にも支障を来しかねない。分棟方式は、そのリスクを回避できる」と指摘する。

 分棟方式の場合、公共施設に関しては公設公営とPFIという2つの方式が考えられるが、財政負担の縮減などの観点から、市はPFIを採用した。民間施設に関しては、用地を売却する意向はなかったことから、自ずと定期借地の採用に至った。

 こうした事業方式を前提に、市は2013年5月に民間事業者の募集要項を公表し、事業者の募集・選定段階に入った。目を引くのは、公共施設と民間施設の整備を一体のものと位置付け、それらを手掛ける民間事業者の募集・選定を一括して実施することを打ち出した点だ。市としてはこうすることで、事業リスクの見込まれる民間施設の整備も公共施設の整備と併せて進められる。

 ただ募集要項では、民間事業者に対する配慮も見せている。民間施設の整備事業に関しては、PFI事業よりも5年長い20年間という事業期間も選択できるようにしている。岡田氏は「事業リスクの見込み方によっては、投資回収までの期間をもう少し長くみられるように配慮した」と説明する。

 市の募集に応じて提案書類を提出した民間事業者は4グループ。その中から選ばれたのが、清水建設名古屋支店を代表企業とするグループだ。

 グループのメンバーは7社。PFI事業や民間施設の整備事業を手掛けるSPCの出資企業である清水建設、スターツCAM、三上建築事務所、スターツアメニティーの4社と、丸山組、シミズ・ビルライフケア、スターツファシリティーサービスの3社である。設計業務は清水建設と三上建築事務所の2社が、施工業務は清水建設とスターツCAMと丸山組の3社が、維持管理業務はシミズ・ビルライフケアとスターツファシリティーサービスの2社が担当するという役割分担である。

 市が2014年1月に公表した審査講評によれば、清水建設グループの提案がほかのグループの提案に比べとりわけ高く評価されたのは、民間施設にスーパーマーケットの導入を計画していた点だ。地元の期待に応える提案が、選定につながったと言える。

サービス提供の継続性から、図書館は市が直営

安城市市民生活部アンフォーレ課課長兼図書情報館長の岡田知之氏。長年にわたって図書館行政を担当してきた(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]

 公共施設の整備ではPFIを採用しながら、民間事業者の業務範囲を設計・施工から維持管理までにとどめ、中心となる図書情報館の運営は市の直営とした。市は2017年度予算で運営費約2億8680万円を計上している。

 直営を採用したのは、サービス提供の継続性を確保する狙いからだ。岡田氏は「強化したいと考えていたレファレンスサービスには、一定のスキルが不可欠だ。期間が限られる指定管理と違って、直営ならサービス提供の継続性を担保できる」と強調する。

 レファレンスサービスの強化に向けては、人員態勢も見直した。

 市では中央図書館時代から、蔵書にICタグを張り付け、貸出には自動貸出機で対応する取り組みを進めてきた。当時、自動貸出機は2台だけだったが、図書情報館ではそれを12台に増やすことで貸出業務を一段と効率化し、人員をレファレンスサービスの提供に振り向けられる態勢を整えた。

 そのうえで、施設規模を延べ床面積で約1.7倍、開架冊数で約1.9倍にまで拡大し、開館時間を1時間延長したこともあって、現場スタッフを30人規模から70人規模にまで増員した。それによって、レファレンスの強化はもちろん、フロア案内などのサービス拡充も図った。現場スタッフのうち約半数は司書の資格取得者という。

 運営面ではもう一つ、利用ルールを大きく見直した。中央図書館時代と打って変わって、館内での会話や軽食を認めたのである。

 岡田氏は「にぎわい創出の拠点である以上、認めていこうと判断した。当初は3階のワンフロアだけをそういう扱いにしようと考えていたが、市長から旧来のイメージを打ち破れという指示もあって、館内全体で認めていくことに改めた」と振り返る。

図書情報館の4階は「学問と芸術のフロア」。左奥には、平日は最大3時間半まで無償で利用できる予約制の個人学習室32席を備える。利用者が必要な本を探しやすいようにとの配慮から、開架図書はジャンル別に排架されている(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]
図書情報館の3階は「暮らしのフロア」。一角に設けたビジネス支援センターには、創業・起業支援などを担当する「安城ビジネスコンシェルジュ(ABC)」を置く。運営は市産業振興部商工課。市がJR安城駅の1階部分に観光案内所とともに整備・開設したコワーキングスペース「キーポート」の利用者とは、今後連携を図っていく方針だ(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]
ビジネス支援センターの近くには、有料の「ディスカッションルーム」を置く。電子データを用いた会議に、ディスプレー上にそれを表示できるボードやテーブルで対応する(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]
公共施設の1階でPFI事業者が自由提案施設として開業するカフェ。市から床を賃借し、それをカフェ事業者に転貸して運営する。カフェ事業者は、安城産業文化公園「デンパーク」内でレストランを運営する安城デンビールだ(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]

ホールや広場はPFI事業者とは別の指定管理者が運営

 公共施設1階のホール、願いごと広場などの貸スペース部分は、PFI事業者とは別に指定管理者を公募・採用した。PFI事業とは切り分けた理由を、市市民生活部アンフォーレ課まちなか連携係の水上貴夫氏はこう説明する。「施設の中心となる図書情報館は市の直営。1階部分と広場の運営業務だけをPFI事業に含めるとなると、その業務仕様を事業期間である15年間にわたって固めておく必要がある。しかし、ここで想定される運営業務を考えると、それ(長期にわたって仕様を固めてしまうこと)は適切ではない」。

 とはいえ、民間のノウハウは活用したい。「にぎわい創出に向けた市の思いが伝わるように、運営者との間にPFI事業者をはさむことなく、直接やり取りできる態勢が望ましかった」(水上氏)。

 市は公募に応じた4団体の中から安城プロモーションズを指定管理者として選定した。安城プロモーションズはJTBプロモーションを代表者とする団体で、地元のまちづくり会社である安城スタイルとの2社で構成する。指定管理期間である2022年3月までの4年10カ月の間、公共施設1階のホールや多目的室などの利用受付業務のほか、拠点施設や中心市街地のにぎわい創出のための事業実施やコーディネート業務などを行う。指定管理料は総額約1億9340万円だ。

願いごと広場。2017年7月には、青春時代を安城で過ごした童話作家の新美南吉の生誕を祝う「新美南吉生誕祭」が、同年8月には、開催期間中の3日間で計100万人を集めるという毎年恒例の「安城七夕まつり」が、この広場を会場の一つに開かれた(画像提供:安城市)
[画像のクリックで拡大表示]
公共施設1階のホール。客席数は255席。地下に埋め込むような造りにしたため、天井の位置は周りとそろえることができた。願いごと広場と一体的に利用することも可能(画像提供:安城市)
[画像のクリックで拡大表示]

 中心市街地拠点施設「アンフォーレ」のオープンから約半年。にぎわい創出への第一歩として、公共施設や民間施設はどの程度利用されているのか――。

 図書館情報館の出足は好調だ。貸出利用者数は、開館月である2017年6月で前年同月比約8割増し、翌7月で同じく6割強増しという。強化を目指したレファレンスサービスの提供件数も、中央図書館時代は1日平均20件に満たなかったが、2017年度は急増し9月時点ですでに同35件に迫る勢いだ。

 会話や軽食を認める運営に関しては、「大きな問題は生じていないが、開館当初は利用者が多く、館内が騒がしかったこともあって、『これでは図書館とは言えない』という苦情も受けた」と岡田氏。半面、静かな図書館だと行くのに気を使わざるを得ない乳幼児連れの女性の姿も以前より目につくようになるなど、高校生と高齢者が中心だった利用者層に広がりが出てきたという。

 図書情報館にホールを加えた公共施設全体の来場者数は、開館5カ月で約60万人。年度内には目標の80万人を超える100万人にまで達する見通しだ。図書情報館は確かな集客力を見せている。一方、民間施設のスーパーはこれからに期待をかけるという。清水建設名古屋支店三河営業所営業部長の並木孝氏は、「売り上げはまだ目標に達していない」と明かす。

 図書情報館の集客力を民間収益に結びつけるには、民間事業者、民間施設のテナント、指定管理者といった関係者間の連携が欠かせない。そのことは、計画当初から想定されていた通りだ。「図書情報館や開催されるイベントと連携をうまく図って買い物客を呼び込むことが、目下の課題」と並木氏は語る。相乗効果の発揮が、今後いっそう望まれる。

■訂正履歴
初出時、5ページ目写真キャプションに「新美南吉誕生祭」とありましたが、正しくは「新美南吉生誕祭」でした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。 [2017/12/27 10:10]

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/434167/112700044/