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住民が提案して「森」を自ら整備

造り方で魅せる、横浜市「わきみずの森」

瀬川 滋=日経コンストラクション【2017.10.4】

『日経コンストラクション』2017年9月25日号「特集 インフラから始める地方創生」より

地域の課題解決に自治体が500万円助成

どのようなインフラを誰が造るのか。従来の公共事業にとらわれない事業方式を導入する自治体が増えている。横浜市の「市民まち普請事業」は、住民が自ら提案して整備を担う。地域の課題や要望を拾い上げるとともに、インフラへの愛着も醸成する。

写真1■ 地域の子供たちが参加した湧き水掘りの様子。地表から80cmほど掘ると水が湧き始める。約30年前の泉区発足時の区名公募の際、この湧水をイメージした近隣の住民が「泉区」と応募して当選した経緯もある(写真:下和泉湧水を守る会)
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 横浜市泉区下和泉の住宅街に程近い雑木林で2017年5月、「わきみずの森」の完成お披露目会が開かれた。住民が気軽に立ち寄れる憩いの場となっているほか、自然学習できる場として「湧き水掘り」のイベントが開かれたりもしている(写真1)。

 わきみずの森の面積は2000m2ほど。傾斜地の一角から水が湧き出し、かつては農業用水などとして使われてきた。ザリガニやドジョウが生息し、子供たちの格好の遊び場にもなっていた。

 しかし、20年ほど前から周辺の宅地開発などによって湧水量が減り、渇水期には水枯れが発生。子供たちの姿が消える一方、ごみの不法投棄や水量の減少に伴う小川の泥沼化、倒木などの問題が持ち上がった。やぶが生い茂って見通しが悪く、防犯上の課題も生じていた。

 そこで立ち上がったのは地元の住民だ。「下和泉湧水を守る会」を結成。15年時点で16人だった会員数は現在、50人超に増えている。

 住民は3人の地権者の承諾を得て、ごみや倒木の撤去、草刈りなどを実施。さらに、16年度の1年間をかけて、本格的な森の整備に着手した。

 まず、渇水期でも湧き水を集めやすくするために、既存の小川を掘削して20mほど上流の湿地帯まで延長。地下には集水管を埋設した。

 次に、子供が安全に遊べるように、小川の土手を改修するとともに安全柵を設置。水遊び場や遊歩道、花壇、ベンチなども設けた(写真2)。

写真2■ 「わきみずの森」の整備前(左)と整備後(右)(写真:下和泉湧水を守る会)
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 遊歩道の整備などは、住民が自らシャベルを手に施工。油圧ショベルなど建機が必要になる作業は、造園会社に依頼した。

2段階の公開コンテストで選抜

 下和泉湧水を守る会の取り組みに対して、横浜市は16年度に約492万円を助成した。住民はビオトープなどの専門家に委託した詳細設計の費用や、造園会社などに支払う工事費に充てた。

 この助成金は、横浜市の「ヨコハマ市民まち普請事業」によるものだ。市民が身近な生活環境の整備を自ら発案して実施することを目的に、市民からハード整備に関する提案を募集。2段階の公開コンテストで選ばれた提案に対して、最高500万円の助成金を交付する。

 同事業は2005年度に創設。毎年平均で10件ほどの応募があり、これまでに50件近い提案が「採択」された。街の防災拠点の整備、地域の住民や子供が集まれる長屋の改修、河川管理用通路に桜並木を植栽した名所づくり、鉄道高架下の階段広場の整備など、内容は多岐にわたる。

 整備しようとする施設の近くに住む市民など3人以上のグループで応募することが条件だ。採択された場合、建設した建物は10年間、それ以外の施設は5年間、住民が自ら維持管理することを求める。

 「事業には3つの狙いがある」と横浜市都市整備局地域まちづくり課の谷田広紀担当係長は説明する。

 1つ目は、地域のコミュニティーの活性化によって街づくりの輪が広がり、市全体の魅力が向上すること。市民が自ら整備したインフラに愛着を持ってもらえれば、優れた維持管理にもつながりやすい。

 2つ目は、道路や公園、建築など多くの部局に分かれた行政組織のはざまにある地域の課題や要望を、住民の発案によって拾い上げること。3つ目は、行政が従来型の公共工事などとして実施するほどではない小規模な整備を柔軟に進めることだ。

創意工夫や実現性を評価

 「どのような体制で整備するのですか」、「地権者や近隣住民の理解や協力は得られていますか」。

 公開コンテストでは、模造紙などを広げて提案内容を説明する市民に、審査員の厳しい質問が飛ぶ(写真3、4)。創意工夫や実現性、公共性、費用対効果、街づくりへの発展性などが審査の基準となる。

写真3■ 公開コンテストの様子。毎年7月の1次コンテストと翌年1月の2次コンテストの2段階で実施する(写真:横浜市)
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写真4■ 審査の過程は全て公開している。充実した提案ができるように、各市民グループに市の職員や街づくりの専門家などが付いてサポートする仕組みもある(写真:横浜市)
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 「福祉や防災など地域の潜在的な課題はもっとあるはず。これからも市民発の提案を発掘していきたい」と谷田担当係長は意気込む。

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