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「健康経営都市」でコミュニティの持続図る

岩見沢市、産官学金の連携で幅広い事業を推進

井上俊明【2017.9.21】

北海道岩見沢市は、昨年6月「健康経営都市」を宣言した。従業員を健康にすることで生産性の向上を図るという企業の健康経営の考え方を、自治体経営に持ち込んだ目新しいケースだ。市の総合戦略ともリンクさせ、企業や大学とも連携しながら、市民の健康づくりのための様々な取り組みを進めている。

岩見沢市長の松野哲氏(右)。全国で初めて「健康経営都市」を宣言した(写真:日経BP総研)
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 2016年6月27日、岩見沢市は全国で初めて「健康経営都市」宣言をした自治体として、NPO法人健康経営研究会の認定を受けた。同会は健康経営の登録商標を持ち、最近産業界で広まっている健康経営の普及・推進の中心的役割を担っている。

 岩見沢市長の松野哲氏は、「2025年に向けて地域包括ケア体制を構築するには、医療・介護連携による『あんしん基盤』と、自立していきいき暮らしていけるための『いきいき基盤』が必要だ。健康経営都市をうたい、人々の暮らしの充実をどのように図るかを考えながらまちづくりを行っていく」と語る。

 具体的には、市民の健康管理を経営的視点に立って戦略的に実践することで、地域の生産性・創造性の向上やイメージアップ、さらには医療費削減など、多岐にわたる効果を狙っている。「2016年1月に策定した岩見沢市総合戦略の重点施策の柱は、いずれも健康経営都市に関連したもの」と松野氏は話す。

 松野氏は、「岩見沢市は東京23区の8割の面積を持ちながら、人口は8万4000人程度。ピーク時より1万人の減少で、さらに減ることが予想されている。それに対抗するため、市町村として初めて自前の光ファイバー網を整備するなど、例えばICT(情報技術)の活用に力を入れてきた」と話す。加えて健康経営を市政の軸に据えることで、「持続可能な地域コミュニティ形成を目指す」(松野氏)という。

 岩見沢市では、重点施策として以下の4本柱のテーマを設定している。松野氏らが目指す「健康経営都市」は、いわゆる「市民の健康づくり」を超えた幅広い概念だということが分かるだろう。

テーマ1  岩見沢市の「農」と「食」を世界の消費者に届ける活力ある産業を育むまち
テーマ2  若者から高齢者まで誰もが住みやすいまち
テーマ3  女性と子育てに日本で一番快適なまち
テーマ4  市民ひとり一人が健康で生きがいを持ってくらせる健康経営を実践するまち

産業育成や子育ても健康経営の視点で

 岩見沢市では、産業育成や子育ても健康経営の視点で取り組んでいる。重点施策の4本柱それぞれの特徴的な取り組みとしては、例えば次のようなものがある

テーマ1  岩見沢市の「農」と「食」を世界の消費者に届ける活力ある産業を育むまち

 北海道大学農学部の研究者と共同で、ロボット技術やAI(人工知能)を活用し、低コストで生産性・品質の高い農業の基盤づくりを進めている。

テーマ2  若者から高齢者まで誰もが住みやすいまち

 北大に拠点を置く「食と健康の達人」事業に、自治体として唯一参加。この事業は上場企業30社ほどが参加した「革新的イノベーション創出プログラム」(COI)で、一人ひとりの健康に合わせた食や運動の提供により、子供や女性、高齢者に優しい社会づくりを目指していくもの。森永乳業や日立製作所などが参加している。

岩見沢市が参加する北海道大学COIプログラム「食と健康の達人」拠点のウェブサイト
テーマ3  女性と子育てに日本で一番快適なまち

 今年3月、屋内型の遊びの広場や子育て支援センターなどを集めた「えみふる」という愛称の子供・子育て広場を開設した。

テーマ4  市民ひとり一人が健康で生きがいを持ってくらせる健康経営を実践するまち

 市民の健康診断データなどをもとにまち全体の健康状態を分析して生活習慣病のリスクマネジメントにつなげる「健康予報システム」を開発中だ。地元産の米やフルーツなどを使用した低カロリーの「カボチャクッキー」や、飲み込みやすい「メロンゼリー」などの健康スイーツも開発。岩見沢市立総合病院などで行事食として患者に提供したり、店舗で販売したりしている。農業の活性化や女性・高齢者の就業機会の創出もにらんでの取り組みだという。

独自の健康ポイントに1万人以上が参加

 テーマ4の特徴的な取り組みとしては、独自の健康ポイント事業もある。保健センターや市役所などでポイントカードを入手すれば、18歳以上の市民はだれでも参加できる。人間ドックや健康相談、ウオーキング大会などの健康づくりに役立つ催しに出て、スタンプを押してもらう。そして50ポイントたまると1000円分の商品券と交換できる。自分の健康目標を宣言し、市役所などに届け出ること、それを達成することでもそれぞれ1ポイントが獲得できる。

 「健康ポイントの導入により、今まであまり関心のなかった市民の間にも健康づくりの取り組みが広がってきている」と松野氏はみる。実際、ポイントカードの発行を受けている市民の数は、1万1000人。人口の約13%を数えている。

健康づくりの拠点として岩見沢市が新たに開設した「いわみざわ健康ひろば」(写真:日経BP総研)
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 さらに、テーマ4の一環として岩見沢市は、今年4月、JR岩見沢駅近くに「いわみざわ健康ひろば」をオープンした。「人もまちも元気で健康」をスローガンに、がん検診など疾病の予防・早期発見といった「まもる健康」、健康状態をチェックしたり食に関する情報提供が受けられる「つくる健康」、市民、保健師、企業などが一カ所に集まる「つなぐ健康」の拠点となる施設だ。

「いわみざわ健康ひろば」には体組成計など様々な機器が置かれ、気軽に健康チェックができる(写真:日経BP総研)
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 具体的には、健診スペース、健康コミュニティスペース、相談スペースなどからなっている。成人向け・女性向けなど市が行う全ての健康診断が受けられるほか、健康コミュニティスペースには体組成計や骨密度測定装置などが設置されている。利用者は気軽にこれらの機器を利用して自分の健康状態を知ることができる。

 ここでの催しに参加した市民は、先に述べた健康ポイントを獲得できるようになっている。例えば、毎週火曜日は「健康チェックの日」とされ、測定結果をもとに専門家のアドバイスを受けることが可能だ。一方、毎週木曜日は、「北大COIの日」。子育て世代や女性向けに乳幼児の身体測定、介護予防体操など様々な催しが行われている。別の日には、地元産の野菜を使った減塩・低カロリーの料理を管理栄養士が紹介したりする「フードデイ」も開催されている。

商工会議所や信用金庫とも協議

 松野氏は、「岩見沢商工会議所などの『産』に、北海道大学などの『学』、空知信用金庫などの『金』を加えた“オール岩見沢”で健康経営都市づくりを力強く推進していく。ベースはもう出来上がっており、具体的な事業メニューの協議に入っている」と話す。商工会議所には、スマートフォンのアプリの活用による社員の健康状態の把握や管理など、会員企業の健康経営を推進してもらう。一方信用金庫には、優遇金利など健康づくりに取り組む企業・市民向けのインセンティブについて検討してもらうという。

産官学に地元の金融機関も加えて、「オール岩見沢」で健康経営都市を目指す。写真は空知信用金庫の本店(写真:日経BP総研)
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 岩見沢市では、将来的に健康経営の取り組みを、IoTやAIを活用したオープンプラットホーム形成につなげることを目指している。企業、大学、地域などが参加した地域事業体が、健康で快適な在宅生活や地域内の新しいサービスの創出を担うというものだ。

 「2018年度からの新しい総合計画づくりでは、『健康経営都市』を中核に据える」と話す松野氏。全国で初めて健康経営都市を宣言して認定を受けた岩見沢市の今後の取り組みが注目される。

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