店の客が増えないのに商店街活性化と言えるのか

――「まちあそび人生ゲーム」は、商店街活性化として、前例のないユニークな取り組みです。このイベントを始めようと思ったきっかけは、何だったのですか。

 2011年4月、私は出雲市役所からNPO法人21世紀出雲産業支援センターに出向したのですが、その頃、昔から付き合いがあった商工会議所の友人から「現状の商店街活性化事業のイベントは、まったく商店街のためになっていない」という愚痴を聞かされました。

――どういうところが「ためになっていない」という話だったのでしょうか。

 従来の多くの商店街活性化イベントでは、広場にステージを設けて、その脇に焼きそばやたこ焼きやかき氷などの露天商が店を連ねるというスタイルでした。確かに、広場には人が集まって盛り上がるけれど、それはあくまでも一過性のものですし、商店街の方が自分のお店を閉めて、裏方としてイベントを手伝っているため、商店街のお店に入るお客様は減りこそすれ、増えるわけではありません。『それが本当に商店街の活性化のイベントなのか』って、友人は嘆いていました。

――どの地域でも、どの商店街でも抱えている“ありがちな悩み”といえそうです。

 なんとかしないといけないとは思ったのですが、アイデアがすぐに浮かぶわけもなく、時が過ぎました。そんな状況を打破できるヒントを思いついたのは、2012年の秋、地域おこしに興味のある人たちの飲み会に誘われて参加したときでした。出雲市駅前の商店街の居酒屋に集まっていたのはほとんど私の知らない人で、年齢も20代から50代、職業も役職もバラバラで、共通の話題がありませんでした。それで、雑談するうちに「子どもの頃は何して遊んでいた?」という話になったとき、「人生ゲームやってたね」と言ったら、「俺がやったときはこんなやつだった」「私がやってたのはこんなだった」と、種類はちがえど、年代も男女も関係なく、みんな、人生ゲームを知っていて、話が盛り上がったんです。

――1968年から今も販売されている「人生ゲーム」は、確かに、男女関係なく、世代を超えて話せる貴重な存在です。

 出雲市駅前のアーケード街の居酒屋だったので、酔った勢いで「目の前の道をホコ天にして、アーケードの店舗を人生ゲームのマスに見立てて、プロ野球選手のユニホームとかナースの白衣にコスプレした人が、ゴルフのカートに乗って、ここでリアル人生ゲームをやってみたら、どうだろう?」って言ったら、話がすごく盛り上がったんです。いま思うと、ほとんど悪酔いの世界でしたけど(笑)。

――「人生ゲーム」という名前だけで、男女も世代も問わず、内容がわかって、楽しそうだと思える。参加者は実際に店に足を踏み入れるので、一過性の集まりだけでは終わらない。2つの条件を満たした商店街の活性化イベントとしては、ポテンシャルの高いアイデアです。ただ、前例がないアイデアをどうやって実現していったのでしょうか。

 飲み会からしばらく経ったとき、21世紀出雲産業支援センターに取引業者として出入りしていた高橋和也さんに「こんなことしたらおもしろいと思うんだよね」と話しました。すると、2012年12月、印刷業やイベントプロデュースの仕事で独立した高橋さんから「商店街の活性化の補助金があるから、田中さんが言っていた話、できるんじゃないか」って言われました。

 最初はアイデアが生まれた出雲市駅前の商店街に話を持って行きましたが、前例もないので、受け入れてもらえませんでした。そこで、商工会議所の友人に「おまえが話していた悩みは、これで解決できるかもしれないから、平田町の商店街を紹介してくれ」と頼みました。彼は平田商工会議所の職員で、私が生れ育ったのも平田でした。友人は「そんなことができるのは平田本町商店街しかない」と言って、本町商店街振興組合の平野裕二理事長のところに連れて行ってくれました。

――理事長は、すぐに賛同してくれましたか。

 私が「この商店街でリアル人生ゲームをやりたい」と言ったら、平野理事長は「楽しそうなのは、わかった。ただ、うちの商店街には女性の副理事長が二人いる。彼女たちを説得できたら、やってもいい」と言いました。

――いい意味で、女性の目は非常に厳しいですからね。

 後日、商工会議所の友人と私は、平野理事長と二人の女性副理事長の前でプレゼンしました。私が内容の説明をしている間、二人の副理事長はただ黙って話を聞いていました。『ダメだったかな』と半ば諦めながらも「補助金を使えば、みなさんの負担はありません」と力説すると、副理事長の一人から「では、補助金がとれたら、協力しましょう」と言ってもらえました。そこで、2013年4月、上限400万円の補助金が出る「地域商店街活性化事業」に申請して、事前審査を受けて、10分の10(商店街の負担なし)で、365万円の交付決定がおりました。その時点で、平田本町商店街でリアルな「人生ゲーム」を実施することが決まりました。

――前例がなく、手間ひまもかかりそうなイベントにもかかわらず、平野理事長と二人の女性副理事長を説得できたのは、なぜでしょうか。

 平野理事長が新しい取り組みに非常に理解のある方だったこともありますが、私が「このイベントが実現すれば、多くの人が商店街を歩くし、みなさんは商売しながらイベントに参加できます。絶対、町はよくなります」と真面目に、熱くプレゼンしたことも理由の一つだと思います。