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「地方創生」の順番は、まず個人、家族、コミュニティ、そして地方

アウトドアを軸に地方創生に挑む――スノーピーク山井太社長に聞く

渡辺 博則=日経BP総研 ビジョナリー経営研究所【2017.9.4】

自治体と連携したキャンプ場事業などを推進し、さらに地方創生に関するコンサルティング子会社の「スノーピーク地方創生コンサルディング」を設立した、アウトドア用品メーカーのスノーピーク。この4月には北海道帯広市が出資するDMO「デスティネーション十勝」にも出資をして、山井太社長が自ら新会社社長に就任した。自治体との連携を深める山井社長に、アウトドアビジネスをベースにしたこれからの地方創生、公民連携のあり方などについて聞いた。

(写真=清水真帆呂)
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――今年に入って、地方創生に関するコンサルティング業務を手掛ける子会社を設立したり、キャンプ場事業でも大阪府箕面市、大分県日田市に続いて、北海道・十勝(帯広市)でもキャンプ場の指定管理者となったりと、アウトドアを軸にした自治体との連携の動きを加速しています。

 元々、私自身は新潟県三条市が故郷で、若い頃から地元・燕三条の商工会議所やJC(青年会議所)などで街づくりに関わっていて、一方で、スノーピークという会社も経営しています。そうした中で、アウトドア・パーソンとして自分が訪れたことがある地域、ここは非常に素敵だなと思った地域で、お役に立てないかなと、ずっと思っていました。

 一方で自治体としても、地方は自然が豊かなところが多いので、その資源を地方創生に活用したい。それで、これまでの箕面や日田の事例などをどこかでお聞きになって、私たちにお声掛けいただくというパターンが増えているのだと思います。

真夏でも風が涼しい標高950mに位置する「スノーピーク奥日田」キャンプ場(写真:スノーピーク)
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大阪の中心部から車で40分で行ける「スノーピーク箕面」キャンプ場(写真:スノーピーク)
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「スノーピーク」ブランドの送客力でキャンプ場を黒字転換

――声が掛かることが多くなったのは、いつごろからでしょう。スノーピークが2015年に指定管理者になった日田(スノーピーク奥日田)あたりからでしょうか。

 そうですね。日田は典型的な例で、私たちがコンサルティングをして、日田市側で我々の提案通りにいろいろなことを実行していきました。3年ぐらい経った時に「あなたの言う通りやってここまできたのだから、やってくれるよね」といった感じでキャンプ場の運営管理を打診された、という経緯があります。日田のキャンプ場は赤字だったのですが、私たちがお受けして初年度で黒字になりました。

――なぜ、すぐに黒字転換できたのでしょうか。

 理由は2つあって、1つはスノーピークというブランドが持っている顧客資産。今、スノーピークはポイントカードを発行していて、30万世帯の会員さんがいらっしゃいます。キャンプ場にうちの看板を掲げると、スノーピークのクオリティを期待してその方々が行ってくださるようになる。

 日田にしても、その前の箕面にしてもそうですが、両方ともネーミングライツを当社がいただいていて、キャンプ場の名前が「スノーピーク箕面」や「スノーピーク奥日田」であったりします。ですので、関西のスノーピーク会員は箕面に行かれますし、九州では九州全域から日田に行かれるんですね。

 このように、スノーピークは送客力がある、顧客と非常に近いブランドですので、これは非常に大きなことなのだと思います。

 もう1つは、うちがそのキャンプ場を管理する時に、キャンプ用品の販売、小売りも一緒にできることです。商品を持っているメーカーならではの、収益の上げ方です。こうした他社にはできないことを、私たちはできますから。

十勝をアウトドアの聖地に――世界中から人を呼ぶ

――なるほど。そうして新たな北海道・十勝のプロジェクトなどへ進んでいった。十勝では、帯広市なども出資するDMO(デスティネーション・マネージメント・オーガニゼーション)の新会社も設立しました。

 そうですね。今、当社の中でも大きなプロジェクトの1つが十勝です。十勝については、(指定管理者として4月から運営に携わっている)「スノーピーク十勝ポロシリキャンプフィールド」の1施設だけにとどまらず、アウトドアを軸に十勝19市町村の全体的な観光戦略を手掛けるDMO「デスティネーション十勝」を設立しました。この新会社には帯広市も出資をしていて、当社が49.2%。あとは北海道銀行、北洋銀行、帯広信用金庫、JTB北海道、電通が出資をしています。社長は、私です。

 このDMOは自治体も出資しており、公的な面もある組織です。ここで十勝のアウトドア観光戦略を練って、十勝をアウトドアの聖地にしていく。世界中からアウトドア・パーソンが十勝に来るようにすることを実際に狙っています。

 ここでは、着地型コンテンツを20〜30ぐらいつくるつもりです。十勝地方には19の自治体があるので、少なくとも1自治体1つ以上はつくろうと思っています。

2017年4月からスノーピークが運営管理を開始した「スノーピーク十勝ポロシリキャンプフィールド」(写真:スノーピーク)
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――既に動いているプロジェクトはありますか?

 具体的な名前はまだ言えないのですが、あまり活用されていない、非常にもったいないことになっている既存の施設を、私たちの知見とノウハウで、アウトドア・パーソンにとって魅力的な施設につくり換えるという作業をしています。

――十勝では、これからどんな可能性があるんでしょうか。

 前段階として、十勝で2月に実施したグランピング(グランピング=グラマラス+キャンプの合成語)のモニタリングプログラムの様子などを見ていただけると、スノーピークがどのようなプラットフォームになれるかというのがお分かりいただけると思います。

 十勝には、様々なアウトドアのアクティビティがあります。熱気球の会社もあるし、幻の魚・イトウ釣りをやっている会社もあるし、フライフィッシング、トレッキングのガイドもいます。でも、全部バラバラなんです。

 それを私たちのグランピングの仕組みを使って、組み合わせて提供してみたのがモニタリングプログラムです。グレードの高いフレンチの料理を出して、あとはもともと十勝にある自然資産や、アウトドアのツアーをパッケージにして提供しました。

 夜の気温はマイナス15度だったんですが、こうした厳しい環境下でのグランピングは、ほかではできないと思います。これができる技術、しつらえなどを提供できる――。それがスノーピークの強みなんです。

 モニタリングプログラムでは、世界を見てきたりラグジュアリーに詳しかったりする著名な方々や、雑誌メディアを招いて、これらのツアーの価値がいくらあるかということをモニターしてもらったんです。一番安く値付けした人が20万円、一番高い人が50万円の値付けをしてくれました。

 地元にいると、なかなかその土地の魅力について気づいていなかったりします。例えば、犬ゾリのアクティビティを1万円で提供しているとします。それだけでなく、宿泊や熱気球など他のコンテンツを組み合わせることでバリューアップし、20万円や50万円のツアーをつくることが可能になります。これは、全国でイベント開催し自然を知り尽くし、商品、サービスを持っている企業ならではの強みだと思います。

スノーピークが2月に開催した「十勝グランピングモニタリングプログラム」(写真:スノーピーク)
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既存の指定管理者へのトレーニングも実施

(写真=清水真帆呂)
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――2月には、自治体向けのコンサルティング会社「スノーピーク地方創生コンサルディング」も設立しています。どのようなビジネスモデルになっているんでしょうか。

 典型的な例でいうと、まず自治体と包括連携協定を結んで、その後のディスカッションで、どの領域でどこまでのコンサルティングをするかを定義して、その定義に応じて見積もりを出します。それで自治体の承諾をいただければ、仕事を請け負って、アウトドアをベースにした地方創生の報告書を出すといった流れです。

 基本的にはそこまでがコンサルティング会社の仕事です。その後は実行力がある首長、優れた担当者がいる自治体であれば、ある程度は提案通りにことが進みますので、その中でご要望があれば、私たちが指定管理者になるとか、あるいは既存の指定管理者へのトレーニングをして施設やサービスをリファインするとか、私たちとの提携キャンプ場になるとか、いろいろな連携のやり方があると思っています。

――実際に既存の運営事業者へのトレーニングも行っているのですか。

 はい。例えば、新潟県十日町市の大厳寺高原キャンプ場というところで実施しました。十日町は雪が多いので、今までだと6月から営業していたんですが、4月末から営業してもらうようにしました。十日町の環境に合わせたカスタマイズをして、残雪キャンプといった企画を立ててスノーピークの会員にご案内して集客し、雪が溶けた後には山菜採りキャンプを企画したりしました。

 私たちの目から見れば、3月末は残雪から新緑が出てくるぐらいのところで、雪中キャンプというのはとても素敵だと思っていますから。それに、営業期間も延びますよね。

 ほかにも福島県の只見町でも仕事をさせていただいています。只見と十日町はとてもキャラクターが似ている地域なので、今、2つの地域間の交流も進めています。ゆくゆくは、私たちが関わっている自治体に集まってもらって、それぞれの切り口のプレゼンをしていただくといった情報交流もしてみたいと思っています。

全都道府県に最低1つは、高品質のキャンプ場をつくりたい

――ところで、十勝と結びつくきっかけは、どういったことだったのですか?

 十勝の場合は、ファーストネームで呼んでいる友達、いわゆる「まぶだち」というのが30人ぐらいいます(笑)。いろいろなご縁があった。帯広市の米沢則寿市長が、私のことをご存じで、講演に呼んでいただいたりもした。私は燕三条の人間なのですが、十勝には元々仲間がいて、最終的に市長に呼ばれて、「米沢さんにも呼ばれたから、みんなでやらかしましょう」といったことになったわけです。

 そして、十勝にはワールドクラスの自然があります。私の目で見ると、「日本語が通じるカナダ」「日本語が通じる米国のオレゴン」みたい感じ(笑)。風景とか自然のスケール感とか、カナダやオレゴンとあまり変わらない。

――なるほど、そうした地元とのつながりがあってDMOもできた。DMOという形態は、山井社長から見て、観光開発事業を進めやすいものだったのでしょうか。

 スノーピークが十勝にしっかり根を下ろしても、1社だけだと、十勝全域の観光戦略、資金をつくれるかといったら難しい。ですから、公のオフィシャルな戦略をそこで立てていけるというところが、DMOの大きなメリットなのかなと思っています。

――地元の人たちとの関係は、どのように考えていますか。

 十勝のような、恵まれた自然があって、しかも市長に熱意があり地元にやる気のある若者もいるところに、どうして私たちが入っていかなければいけないか。それは、地元の人は生まれた時から十勝の自然の中で育っているので、そこがよそと比べて非常に恵まれた資産を持っていることに気づいていないんです。なので、私たちが行って「ここはワールドクラスの自然があって、本当に日本語が通じるオレゴンです」と言う必要がある。そうすると初めて、「そうなの?」って気づくんです。

 DMOについては、基本的には私たちがずっと十勝にいるわけにはいかないので、最終的には地元の人たちが自分たちで動けるような体制づくりをお手伝いする、ということだと思っています。

 私たちはもちろんそのきっかけは作りますし、お手伝いは一生懸命やりますが、地元の人たちが全く何もやらないとなると、地方創生にはならないですよね。ですので、我々が地域に行って仕事をやるかやらないかを決める時には、基本的に条件が2つあって、1つは首長に熱意があるということ。熱意だけではダメで、実行力があるかどうかということを含めてですけれど。それともう1つは、地域の若い人たちと我々がちゃんと連携してやっていけるかということですね。こうした条件をクリアしているところでないと、うまくいかないと思っています。

――十勝ほど自然資産が豊かな地域はそう多くはないと思います。熱意があれば他の地域でもどうにかなるものでしょうか。

 日本の地方というのは、たいてい美しい自然があります。十勝のようなスケールではないかもしれませんが、どこでもきれいな自然はあります。私のアウトドア・パーソンとしての望みとしては、全都道府県にそれぞれ、「ここはいいキャンプ場だな」と思うものを最低1つはつくりたいと思っています。

 キャンプ場自体は、日本国内に2000~3000カ所ぐらい現存しているのですが、スノーピークの目で見て、今のキャンパーたちが望んでいるクオリティに達しているキャンプ場は、たぶん30カ所ぐらいでしょう。数はあるけれど、いいキャンプ場がまだまだ少ないんです。

 ですから例えば、日田という恵まれた自然があるところに、実際にいいキャンプができる優良キャンプ場をつくることが、そのままキャンプの振興につながります。地域にとってもいいことだし、アウトドア・パーソンにとってもいい。結果的に、製品・サービスを売る私たちにとってもいい、と(笑)。

――それは、スノーピーク主導で新たに開発していくというイメージですか?

 自治体が持ってらっしゃるところを含めて、どちらかというと今すでにあるところをリファインするほうに加担したいなと思っています。私どもが新たに土地を取得して、木を伐採してつくるのは、自然破壊になる恐れもあってナンセンスなのかなと考えています。

キャンプがもたらす人間性の回復、その延長線上に「地方創生」が

――事業範囲も広がっていますが、スノーピークとしては、どのようなビジネスを目指しているのでしょうか。

 スノーピークがやっていることは、「人間性の回復」なんです。例えばファミリーキャンプをやって、そこにお父さん、お母さん、お子さん2人がいたとすると、4人とも人間性が回復される。

 まず自然の中で、一人ひとりのユニットで人間性が回復されるんです。さらに、家族の絆も深まります。普段の生活ではそんなに緊密なふれあいとか共同作業をすることはないんですが、家族でキャンプに行けば1日中ほぼずっと一緒にいます。テントを立てるところから、テーブル、椅子を並べてお料理を作るところまでをみんなでシェアする。原始的な人間としての行為を家族で共有して、原始的な交流、ふれあいができるので、ご家族の絆は非常に深まるわけです。

 さらに、そのキャンプでたまたまお隣になったご家族同志も、まず子ども同士が一緒に遊ぶようになって、夜になるとご飯おかずを作り過ぎたので差し入れしたりする。そうすると次の朝、むこうのご家族から差し入れ返しが来たりとか。キャンプ場では2泊3日、1泊2日のコミュニティができるわけです。

 家族の絆やコミュニティといった、現代の生活、高度な文明社会の中で失われてきたものが戻ってくる。そうしたことの延長線上に、地方創生もあると思っています。つまり、一人ひとり、家族、コミュニティ、そして地方という創生の順番です。

 スノーピークはキャンプ用品をつくって売っているメーカーなわけですけれど、本当は「人間性の回復」や「家族の幸せ」「コミュニティの復活」をつくっているわけです。ただ課金の仕方が、製品の販売という形になっているということなんです。

 先ほど申し上げましたように、スノーピークには30万世帯ぐらいの会員がいらっしゃるのですが、その半分ぐらいはコミュニティになっている。スノーピークはもちろん製品のブランドではあるのですが、コミュニティブランドともいわれています。東京、大阪など全然別のところに住んでいる会員同士が一緒にキャンプをしているようなこともあったりします。

 ブランドコミュニティの形成で有名なハーレーダビットソンは、ユーザーのコミュニティがあって、そこにリーダーがいて、土日に一緒にツーリングに行って、ハーレー乗り同志が仲よくなる。それと同じようなことが、スノーピークのユーザーの中でも起こっています。

スノーピーク自慢のキャンプ場「スノーピーク Headquartersキャンプフィールド」。新潟県三条市にある本社敷地内に整備した。「ここが理想的なキャンプ場」と山井社長。草地をそのまま買い取って社長自らがデザインした(写真:スノーピーク)
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――送客できる会員組織は自治体にとって魅力的です。自治体からの引き合いはさらに増えそうですね。

 今、私たちに声を掛けていただいている自治体は30ぐらいあって、今のところ、15くらいは連携できそうかなと考えています。ほかからもお声掛けがあれば、まずはお会いします。

 私は、地域の魅力に一番気づいてないのは、その地域の人間だといつも思っています。なので、私たちが仕事をお受けできるかどうかは別として、自然豊かなところは、一回呼んでいただければと思っています。アウトドア・パーソンから見た、その地域の魅力というのは、私たちの方がよく分かる。一度行けば「こんな感じかな」というコメントはできますし、実際行かないと分からないですから。

山井太(やまい・とおる)
スノーピーク 社長
山井太(やまい・とおる) 1959年新潟県三条市生まれ。明治大学を卒業後、外資系商社勤務を経て86年、父が創業したヤマコウ(現在のスノーピーク)に入社。アウトドア用品の開発に着手し、オートキャンプのブランドを築く。96年の社長就任と同時に社名をスノーピークに変更。自身が熱狂的なアウトドア愛好家で毎年30~60泊をキャンプで過ごす。著書に『スノーピーク 「好きなことだけ! 」を仕事にする経営』(日経BP、2014)。(写真=清水真帆呂)


■訂正履歴
初出時の3ページ目、新潟県十日町市の「大源寺キャンプ場」としていたのは、正しくは「大厳寺高原キャンプ場」。また、「3月末から営業してもらうように」は、正しくは「4月末から営業してもらうように」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2017/9/5/10:00]

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