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託児スペース付きオフィスで行政と連携し、母親たちの雇用を生み出す

人口3万人規模の自治体でも需要は十分――ママスクエア代表取締役 藤代聡氏に聞く

聞き手:麓幸子(日経BP総研マーケティング戦略研究所長・執行役員)、構成=西尾英子【2017.8.9】

日本初の託児スペース型オフィス「ママスクエア」を全国で展開しているママスクエア。ここでは、母親が子連れで出勤し、ワーキングスペースで働く間、子どもたちを専任のスタッフが見てくれる。この新たなビジネスモデルが、待機児童対策や雇用創出、空き家対策など、地方の抱える課題解決に効果的ということで行政からも注目が集まっている。2015年に1号店を出し、現在17店舗と「ママスクエア」を急ピッチに拡大する代表取締役の藤代聡氏に聞いた。


ママスクエア代表取締役の藤代聡氏(写真:竹井俊晴)
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――日本初の託児スペース併設型オフィス「ママスクエア」を全国で展開されています。こちらは、どういった業態のオフィスになるのでしょうか?

 すべてのお母さんが子どものそばで働ける世の中を実現したい」という思いから、このビジネスを始めました。

 「ママスクエア」は、ワーキングスペース、カフェスペース、キッズスペースがひとつになった新しい業態のオフィスです。お母さんたちが子連れで出勤し、ワーキングスペースで働く間、隣のキッズスペースでは専任スタッフが子どもの面倒を見てくれる。ガラス張りになっているため、子どもの様子も分かり、お母さんたちは安心して仕事に集中できます。

――そもそもこの事業を始めたきっかけを教えてください。

 原点は、お母さんたちが子どもを遊ばせながら食事をしたり、おしゃべりを楽しめたりするスペースとして2004年に立ち上げた全国初の業態「親子カフェ」になります。

 そもそも平成元年に新卒でリクルートに入社した時から、将来は事業を立ち上げたいと考えていました。そんな中、妻が3人の育児に追われてストレスを抱える姿に、「世の中のお母さんたちにとって息抜きできる場所が必要だ」と強く思うようになりました。ですが、休日に子どもをボールプールなどに連れていっても、大人が寛いで待っていられる場所がない。お茶でも飲んでゆっくりできるスペースがあればいいのに、と考えたのが、「親子カフェ」の原型です。

 当初、少子化時代にこうしたビジネスを立ち上げることに、周りからは不安の声が挙がりましたが、予想に反して大盛況。その後、約10年間で20店舗まで増えました。

託児でもない保育でもない、新たな業態を創出

――「親子カフェ」から、どういう経緯で「ママスクエア」へと移行していったのでしょうか?

 1号店をスタートした時、スタッフとして働くお母さんたちが非常にまじめで優秀だと気付きました。そこで2号店のスタッフを半分主婦にし、5号店までの店長はシングルマザーを採用しました。

 その後も大量に主婦を採用しましたが、大手企業出身者など、優秀なキャリアを持つ人も少なくない。もったいないなと感じていたんです。そこで、「ここにオフィスをつければ、お母さんたちがスキルを生かして働けるのでは?」と考えました。ちょうどリクルートから協業のオファーがあったので、お母さんたちに発注する仕事を回してもらい、全国初の託児機能付きキッズスペース併設型オフィス「ママスクエア」を2015年4月にオープンしました。

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「ママスクエア」はワーキングスペースとキッズスペースに分かれている。ママは子どもをキッズスタッフに預けて隣のワーキングスペースで働く。写真上は葛城店、写真中は天神イズム店、パースはイオンモール船橋店(写真・パース提供:ママスクエア)

――それまで親子カフェに併設されていたキッズスペースとカフェスペースに、新たにオフィススペースを加えたものが「ママスクエア」となるわけですね。このキッズ(託児)スペースについて伺いたいのですが、これはいわゆる「保育託児」とどう違うのでしょうか。

 起ち上げの際に行政に確認したところ、前例のないビジネスだから児童福祉法に立ち返って判断するしかないといわれました。それによると、お母さんが子どもを連れてきて第三者に預け、その施設から出ると保育託児になるけれど、お母さんがその場にいれば保育業には該当しない。ママスクエアの場合、お母さんは施設から出ませんから、託児保育にはあたらず、行政への届け出も必要ないんです。要は、カーディーラーのキッズスペースのようなもの。子どもたちのオムツ替えや食事は、保護者にお願いしています。

――託児でも保育でもない新しい業態をつくったことが、このビジネスのポイントのひとつですね。

 例えば、保育施設の場合、避難路が2つないといけない、採光が床面積の1/5以上など、さまざまな制約がありますが、我々はその影響を受けないため、ショッピングモールやオフィス内に出すことが可能です。とはいえ、一番大切にしてきたのは「子どもの安全」。ハードとソフトの両面を組み合わせることで、子どもの安全を確保しています。

 法令上は必要なくても、万全を期すために保育士資格があるスタッフを採用し、認可外保育園並みの広さを確保するなど、独自の安全基準を設けています。設計面でも、キッズスペース入り口と店舗入り口の扉にはカギをかけ、子どもが自分ででられないようにするなど安全面には工夫を凝らしています。

保育園に落ちた待機児童の母親が求人募集に殺到した

――店舗の主なモデルケースを教えてください。

 現在、17店舗を展開しており(2017年7月現在)、施設の多くは広さ40坪ほど、オフィスの席数30ブース。103万円の扶養範囲内で働きたいママたちが多く、出勤は週3回程度で、シフト制で入れ替り働くスタイルです。スタート時には研修含め、30人ぐらいのお母さんたちをパート・アルバイトとして雇用し、最終的にはその3倍の100人くらいまで保持していくのがベストバターン。ママスクエア1号店の川口店や大宮店では、30人の枠に対し、300人の応募がありました。

――募集の10倍の人数が殺到したのですね。

 今、待機児童問題では保育園に落ちた方が対象になっていますが、実はそれ以外に最初から保育園に応募すること自体を諦めている層がたくさんいるということだと思います。私の感覚では、保育園に入れたママたち、次に待機児童組がいて、その裾野に「あきらめている」層 が4倍ぐらいいるのではないかと。

――保育スタッフの数はどのように調整するのでしょうか?

 まずはママたちから希望票を出してもらい、子どもの保育予想人数を出してキッズスタッフのシフトを作るという流れです。出勤に対して「毎回子連れ」は61.5%、「幼稚園など長期休みに子連れ」が22.7%と、子連れの割合は84%ほどです。ママたちの出勤がピークになる昼前後の時間帯は、認可外保育園並みにキッズスタッフを4~5人揃え、お母さんが帰宅するごとにスタッフの数を減らしていきます。

――自治体と連携した店舗もいくつかありますね。どういうモデルになるのですか?

 現在、オープン予定店舗を含めると4店舗あります。また10カ所以上の自治体からお声がけをいただいております。1号店は、昨年9月にオープンした奈良県葛城市です。市から「ぜひ一緒にやりましょう」と声がかかったのがきっかけ。「子育て×テレワークのICT×空き家対策」を軸に、働きたい市内在住のママたちを応援するプロジェクトになります。

 葛城市の場合、カフェスペースは無料のコミュニティカフェスペースとし、お年寄りが写真や俳句などを展示して井戸端会議ができるような場所にしているんです。当初、古民家でやりたかったのですが、条件が合わず、最終的にはロードサイトの仏壇店を改装しました。

 我々がお母さんたちに提供する仕事はアウトソーシングビジネスですから、ネット回線と電話さえつながっていれば、どこでも展開できる。ただ懸念していたのは、都心部と違って地方は待機児童が少ないこと。特に葛城市は、人口3万人で待機児童ゼロでしたからママたちが集まるのかが不安でしたが、蓋を開けてみたら100人以上の応募があり、面接会ではその意欲に圧倒されたほどでした。

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子連れで出勤。子どもの様子が仕事の合間に見られるので安心して働ける。写真上がBRANCH茅ヶ崎2店、写真下が天神イズム店(写真提供:ママスクエア)
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――先ほどの「本当は働きたいけれどあきらめている層」が、やはりたくさんいることが実証されわけですね。

 葛城市で成功したことで、3万人以上の市であれば十分やっていけると確信しました。一番良いのは、行政と組んで、地元の企業と地元のお母さん達を支援する形だと思います。現在、お母さんたちに提供している仕事は、主に東京の案件になりますが、例えば、神戸市のママスクエアでは、市から地元の有力企業の仕事を紹介してもらっています。そうした流れは、今後増えてくるでしょうね。

日本初の「子育て支援型物流センター」も

――進出する地域は、どのようにして決めているのでしょうか?

 当初は3年計画を練っていました。1年目は首都圏と関東、2年目は東名阪、福岡、広島、仙台、札幌といった太平洋ベルト地帯で新幹線が通る地域。3年目は、福井や鳥取といったそこから少し離れた地域に進出し、自治体と一緒に地方のママたちを支援する構想でした。ですが、1年目で日本中の自治体から声がかかったので、スピードを速めました。

 行政は、最初のハードルこそ高いものの、一度お付き合いが始まると他からもどんどん声がかかる。「日本中のお母さんたちが子どものそばで働ける世の中を作りたい」というのが我々の願いですが、自力だけで達成するのは時間がかかる。そのためにも、行政と連携して進めていくことがポイントになります。

――費用面では、どのような割合で負担するのでしょうか。

 事業モデルによって費用負担はいくつかのパターンがあります。都市部の場合は、出店場所であるショッピングモールや遊休施設にご負担いただくこともあります。毎日お母さんと子どもたちが通うことで、モール側の経済効果にも結び付くため、互いにメリットがあります。行政の場合、地方創生の交付金などの公金で内装費用などを出していただいています。

 そういう意味では地方でも都市部でもママスクエアが入ることで、人の流れができ、消費を呼び込める。街の活性化にも役立てるのではないかと思っています。今後、地方の商店街にも出店し地方で問題になっている「シャッター商店街対策」にもなれば、社会的にも意義があると考えています。

――ほかには、どのような行政連携モデルがありますか?

 2018年春に大和ハウス工業、流山市と3者で連携し、「日本初の子育て支援型物流センター」を作ります。ここは、「ママスクエア」ではなく、「事業内託児」として関わる形です。通常、物流センターは不便な場所にあるため、入居企業としては働き手が集めにくい。しかし、事業内託児所があることで人が採りやすくなります。これを機にこの企業で作る物流センターには、すべて託児所を入れて行こうという流れになっています。

――現在、働き方改革が急速に進んでいます。このビジネスにとってプラスでしょうか、マイナスでしょうか。

 むしろ働き方改革が進むほど、我々にとって追い風だと考えています。残業禁止の会社が増えていますが、会社の事業目標が下がっているわけではない。そうなると、企業としては、よりコアな部分の仕事を社員に任せ、そのほかの仕事はアウトソーシングする流れになるでしょう。その受け皿になれるのではと思っています。

 ママスクエアのモデルのひとつに、「託児付きサテライトオフィス」があり、周辺企業の社員向けのワークスペースや育休復帰社員支援として活用されています。六本木ヒルズにあるサテライトオフィスでは、六本木ヒルズ周辺の企業や個人事業主の方と契約し、保育園が見つからずに産休・育休から戻れない社員が働ける仕組みです。

 来年度からは、丸の内のビルに、「託児付きサテライトオフィス」を順次入れていく予定です。人材不足のなか、企業にとってもビルにとっても、こうした要素が他との差別化に繋がります。

 お母さんたちが、生き生きと働ける世の中にするために、我々も全力でサポートできればと思っています。

「お母さんがいきいき働ける世の中にするために貢献したい」と藤代氏(写真:竹井俊晴)
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藤代 聡(ふじしろ・さとし)
ママスクエア代表取締役
1966年生まれ。1989年リクルートフロムエー入社。2000年リクルート社出向・転籍。03年同社退社。04年株式会社スキップキッズ設立。代表取締役に就任。全国初となる「親子カフェ」オープン。17店舗展開。2014年ママスクエア設立。代表取締役に就任。15年ママスクエア1号店をララガーデン川口にオープン。現在17店舗を展開。17年4月には一般社団法人シングルママこども支援会を設立、代表理事を務める。

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