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デジタルでアートと土木の共存を

チームラボ 猪子寿之代表インタビュー

大井 智子=フリーライター【2017.6.7】

 昨年の「徳島LEDアートフェスティバル2016」(12月16日~25日)では、世界を舞台に活躍するアート集団「チームラボ」の猪子寿之代表が芸術監督を務めた。猪子代表は徳島出身で、フェスティバル会場ともなった新町川や城山の近くで生まれ育ったという。

チームラボの猪子寿之(いのこ・としゆき)代表。1977年、徳島市生まれ。2001年、東京大学工学部計数工学科卒業と同時に同級生らとチームラボを設立した(写真:生田 将人)
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 チームラボは、東京大学工学部を卒業した猪子代表が同級生らと創業したアート集団だ。プログラマーやエンジニア、数学者、建築家、デザイナーなどの様々な専門家で構成され、メンバー数は約400人。約47万人が訪れた「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!末来の遊園地」(2014年~15年、日本未来科学館)など、国内・海外で数々のアート展を開催してきた。

 昨年の徳島LEDアートフェスティバルでは、川や緑地帯などの自然を舞台にした壮大な作品を展示。猪子代表に、それらの作品の意図のほか、土木構造物を装飾する意味などについて聞いた。

 なお、アートフェスティバルのレポート記事については、「日経コンストラクション・ウェブサイト」掲載記事(前編:「光の球体」で夜の街が一変、後編:幻想的な空間へいざなう周遊船)をご覧いただきたい。

徳島だからこそ実現できた幻想的な空間

――「徳島LEDアートフェスティバル2016」で展示されたチームラボの作品は、川や森をそのまま包み込んでしまうような壮大なスケールでした。特に新町川に132個の光る球体を浮かべた作品「呼応する球体のゆらめく川」は、川の夜間景観を一変させ、訪れた人たちを圧倒していました。

 もともと新町川の水際公園は、川と公園の境界が曖昧で、川の水がそのまま公園内部へと引き込まれたつくりになっています。この親水空間から川の中まで「球体」を配置しました。訪れた人が球体に触れるとLEDの光の色が変化し、その色特有の音色が響くという作品です。さらにこれに呼応して、川の中の球体の色や音色が同じように変化していきます。

チームラボの作品「呼応する球体のゆらめく川」。護岸の公園に設置された球体を叩くと、球体の光の色が変化し、周りの球体も同じ色へと変わっていった(写真:大井 智子)
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徳島市が開催した「徳島LEDアートフェスティバル2016」の様子。LEDの球体の色が次々と変化している(動画:大井 智子)

――アートフェスティバルの期間に新町川を運航する夜間周遊船に乗りました。人の鼓動のように光の色が強くなったり弱くなったり、その色が次々に変化したりするさまを間近に見て、まるで異次元に来たような気持ちになりました。

 もしも同じような作品を大阪などの都心部の川に浮かべたとしても、周りのネオンやビルの明かりで、ここまで幻想的な空間にはならなかったでしょう。

 徳島の人口減少傾向は顕著で、都会に比べると近代的なビルや巨大な商業施設などは少なく、訪れた人は寂しいと思うかもしれません。けれども、そのおかげで街の中心部に、市民にとって近い存在である新町川のような川や、城山のような巨大な「原生林」が残ったわけです。

 東京は近代化に伴い、川が次々に地下化されてしまいました。しかし徳島には、まるで公園から水辺にそのまま入っていけるようにデザインされた川がある。徳島の中心部に存在するこれらの自然は、実はものすごく価値があると思っています。

様々な色に変化していく球体。アートフェスティバルの期間中、新町川では夜間周遊船が運航され、船から作品鑑賞することもできた(写真:生田 将人)
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他者の存在がポジティブなものになる

――アートフェスティバルは、「新町川エリア」と「城山エリア」の2会場で開催されました。城山エリアにはチームラボの作品「城跡の山の呼応する森」が展示され、様々な光で木々が照らし出されていました。どのような意図でつくられたのですか。

 「城跡の山の呼応する森」では、一般的なアート作品のように訪れた人が展示されたものを単に見るのではなく、展示空間にそのまま入って体験できるような、デジタルアート空間を創出しました。

 城山には今も原生林が残っています。僕らの作品は、これら原生林の木々をLEDの光で浮かび上がらせ、人や動物が木々に近づくことによって光の色が変化し、その色独特の音色を響かせるというものです。この変化に併せて、近くの木も同じ光の色へと変化していくのです。

チームラボの作品「城跡の山の呼応する森」。木々の光はゆっくり呼吸するかのように強く輝いたり消えたりする。人や動物が近くを通ると光の色が変化し、色特有の音を響かせる(写真:生田 将人)
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 例えば、公園でくつろいでいるときに、他者の存在を意識する人はあまりいないと思います。逆に、人であふれた都会では、他者の存在が邪魔になり、ストレスを感じることがあるかもしれません。

 この作品では、センサーが人の存在や動作を感知して、光の色や音が変化していくわけです。向こうから光が押し寄せてくることによって、誰かがそこにいることを緩やかに認識する。誰かが歩いてくることでデジタルアート空間が美しく変化していけば、他者の存在を邪魔に感じるのではなく、ポジティブなものとして捉えることができるのではないか――。そんなことを期待しながら、この作品をつくりました。

ど真ん中に原生林や川が残る世界でも珍しい都市

――アートフェスティバルで芸術監督を務めた今回のイベントを通して、徳島で実現したいと思われたことがありましたら、教えてください。

 僕は新町川の近くで生まれ、城山の麓の小学校に通い、大学進学のために18歳で東京に出るまでは、徳島で過ごしました。その後、世界の様々な街でアートプロジェクトを実践してきたのですが、改めて感じるのは、徳島のように県庁所在地のど真ん中に原生林が残っていて、多くの川が流れている都市は、世界でも珍しいということです。

 例えば、地域を代表するような大きな美術館がある街では、美術館の中で展覧会をすればいいし、そうした条件下であればもちろん僕らもそうします。けれども徳島には、美しい川や森が、市民に近い存在として街の中心部に広がっている。そうであれば、この自然をそのまま生かすという概念で、アートフェスティバルを実現したいと思ったのです。

 今回のイベントでは、光と音とテクノロジーを使って、これらの森や川、街を丸ごとアート空間に変化させました。そうした空間を体験してもらうことで、県外の人たちが「わざわざ徳島に来て良かった」と思い、あるいは住民が「ここに住んでいて良かった」と思えるようなものをつくりたいと思ったのです。

城山の徳島城跡のお堀に、LEDの光に照らし出された城山の木々の色が映り込んでいた(写真: 生田 将人)
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新町川の護岸沿いに広がる「新町川水際公園」。川の水がそのまま公園内部に引き込まれた親水空間を形成している(写真:大井 智子)
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 都会と違って、人口流出が止まらない地方都市では、少し居心地が良かったり、格好が良かったりするだけの公共空間をつくっても、なかなか人は集まってはくれません。圧倒的なアート空間として、ある種、異物のものをつくる──。そうすることで徳島にわざわざ足を運びたくなるような、体験の場をつくっていけるのではないかと考えたのです。

チームラボの作品「リバーサイドクリスタルツリー」(写真:生田 将人)
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フェスティバル期間中の「リバーサイドクリスタルツリー」。夜間点灯を待つ(写真:大井 智子)
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川や街を巨大なアート空間へと変える

阿波銀行本店のエントランスに常設展示されているチームラボの作品「Flowers in the Sandfall-Tokushima」(阿波銀行協賛出展作品)。徐々に花が咲き、そこに砂が滝のように落ちてくる様子をLEDの光などで表現したデジタルアート作品。人が近寄るとセンサーが反応して砂の滝が割れていく(写真:生田 将人)
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――最後に、土木構造物を装飾することについて、猪子さんの考えをお聞かせください。

 既に出来上がっている土木構造物を後から改修して装飾しようとすると、大きな手間やコストがかかります。僕らは、土木構造物の備える合理的な機能を損なうことなく、光や音、センサーなどの非物理的なものを加えて、圧倒的な異次元空間をつくり上げます。何か物質的な変更を加えるのではなく、外からプロジェクターを当てたり、川に球体を浮かべたり──。

 人は誰しも、非現実的な世界に包まれて日常を忘れたいと思うことがあります。圧倒的に美しいものに包まれたいし、そこに没入してみたい。僕らは、その場をデジタライズすることで、ユーザーが新しい体験をできる空間に変えていく。それによって、訪れた人たちは非現実的な体験をする。さらにセンサーを使うので、その空間が人々の存在によって変化していくのです。

 デジタル技術を活用すれば、川や公園、樹木に物理的な手を加えずに、自然を破壊せず、街を物理的に変化させることもありません。自然や街をそのままに、巨大なアート空間に変えることができれば、それそのものが観光資源になり、人々が集まってくると考えたのです。

 これまで、そうしたアート空間と土木構造物は分離されていたと思います。しかし、デジタル技術によって、アートと土木がより共存しやすくなったのではないでしょうか。

チームラボの猪子寿之代表(写真:生田 将人)
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