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もっと効率よく税金を使うには、公民連携が必要

民間とのワンストップ窓口開設から約1年――桑名市長 伊藤徳宇氏に聞く

聞き手:黒田 隆明 構成:山田 哲也=イデア・ビレッジ【2017.12.27】

三重県桑名市では、公民連携ワンストップ対話窓口「コラボ・ラボ桑名」を2016年10月に開設した。政策経営課公民連携推進係の職員2人が担当する。政令指定都市など大規模な自治体以外でこうした窓口を設ける自治体は珍しい。窓口設置により、どのような変化が起こっているのか。伊藤市長に聞いた。

(写真:大崎 康平)
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――公民連携のワンストップ対話窓口「コラボ・ラボ桑名」を設置した経緯を教えてください。

 私が桑名市長選に出馬した時、「全員参加型の市政」を掲げました。役所だけで物事を解決していける時代ではないですし、いろいろな人たちと連携をして、課題を解決するような市に変えていこうと訴えたのです。

 例えば高齢者の見守りは、市役所の職員や民生委員だけでは限界があります。そこで、新聞販売店と協定を結び、新聞がたまっていることに配達員が気付いたら、すぐに市に連絡をもらえるようになっています。ほかにも宅食サービスや銀行の窓口、スーパー、コンビニ、など、たくさんの企業・団体と協定を結んでいます。犬の散歩を通じて地域の防犯活動に取り組んでいるグループ(自主防犯組織「わんわんパトロール隊『くわな歩ワン官』」)とも、見守りの協定を結びました。犬の散歩をしている時に何か異変があったら教えてもらうというものです。

 民間からの提案もしっかり受け止められるような体制をつくり、税金を効率よく使う姿勢を打ち出したいということから、2015年、政策経営課に行政改革・公民連携推進係(現・公民連携推進係)を創設しました。当初は、市役所の中にデジタルサイネージを置いたり、公共施設でネーミングライツを導入したりといったシンプルな広告事業への提案募集が中心でした。

 民間事業者と話をしていくうちに分かってきたのは、柔軟性に対する温度差です。行政側が書いた仕様書に対し、民間事業者からすると「ここをもう少し柔軟に考えてくれれば提案しやすい」といった声が何件か寄せられました。仕様書を作成する前に対話をすれば、民間が提案しやすい仕様をつくることができ、税金をより効率よく使った課題解決につながります。そこで、より幅広く提案を募るためのワンストップ窓口「コラボ・ラボ桑名」を2016年10月にスタートさせました。

コラボ・ラボを介した公民連携のイメージ(資料:桑名市)
民間提案の流れ(資料:桑名市)
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60年持つ施設を建てる必要があるのか?

――コラボ・ラボ桑名では、民間が自由に提案する「フリー型提案」のほかに、市が抱える課題に対して、民間からの提案を募る「テーマ型提案」も受け付けています。2019年10月には、テーマ型提案としては初めて、桑名駅西側の土地区画整備事業で、中断移転住宅に対する提案の採用が決まりました。このテーマで民間からの提案を募集した経緯を教えてください。

 区画整理事業は、パズルゲームのように「Aさんが移ったところにBさんが移る、Bさんが移ったところにCさんが……」と進めると、非常に時間がかかります。そこで、皆さんに1カ所の仮の住宅に移ってもらって区画整理を進め、また戻っていただくという中断移転を採用すれば早く事業が進みます。中断移転にしないと本当に時間が掛かってしまいます。桑名でも既に40数年掛かっており、このまま中断移転を行わなければ、さらにあと何十年という時間がかかります。

 中断移転という手法までは決めたものの、役所の中だけで考えると、仮の住宅にも関わらず、ものすごく立派な市営住宅を建てようとしてしまいがちです。というのも、行政の建物は非常に頑丈なつくりで、60年持つような施設を建てて、そこにたくさん住んでもらおうというのが基本的なスタンスになるからです。

 しかし、「そこまでの施設をつくる必要が果たしてあるのか。ほかに何かよい方法があるのではないか」ということでテーマ型募集をかけたのです。

 この方法は、市が想定していた手法と比べて、建築コストが下がり、建築期間が短縮されるため区画整理事業がすぐにスタートし、なおかつ、事業終了後は更地になって、その時の課題を解決するための施設を新たにつくることができます。

 中断移転については各地の視察に行きましたが、大抵は60年持つ市営住宅を建てて、そこに移すというやり方でした。そのやり方も間違いではないとは思いますが、長い目で見るとベストではないと思います。

中断移転住宅整備における民間提案内容(資料:桑名市)
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――そのほかに、テーマ型提案を進めている案件はありますか?

 2つのサウンディング調査を実施して民間事業者の意見を聞きました。市役所の駐車場と、長島の交流施設「又木茶屋」の活用方法についてです。

 市役所の駐車場は有料ですが、ほぼ無料に近い形なので、ビジネスとしての視点からすると別の方法があるのではないか。それを探るためのものです。

 長島の交流施設は休館中ですが、維持していくだけで赤字が出ている状況です。壊すという手法もあるが、地域の人の愛着もある。何とかいい形で活用してもらえる事業者はいないのかを探ろうというものです。こちらは現在、調査結果を踏まえ、プロポーザルで事業者の公募を行いました(注:2018年1月中旬に結果公表予定)。

大きな自治体でなくても「ワンストップ窓口」はつくれる

(写真:大崎 康平)
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――桑名市の約14万人という人口規模で、こうしたワンストップ窓口を設置している自治体は少ないと思います。

 確かに、東京圏の大都市などでこうした取り組みが進んでいるのは事実ですし、公民連携に興味を持っている民間事業者も大都市圏の方が多く存在します。我々も、例えば横浜市のような先進事例を参考にしようとしたものの、職員数などの違いから、規模が大きい自治体での取り組みを参考にするのは難しいと感じました。

 しかし、我々と同じような規模の自治体のモデルがなくとも、税金をもっとも効率よく使わなくてはいけないだろうというところから、職員と試行錯誤して進めていきました。

 市長に就任して最初に行ったのは、東洋大学の公民連携専攻の大学院に職員を2年間派遣したことです。そこで手法を学んできてもらいました。また、企業側からも「民間からの提案を受け付ける窓口を作ったらどうだ」という声もあり、徐々に形になってきました。

――公民連携の担当者は何人いるのですか。また、当初と比べて増員したのでしょうか?

 職員の入れ替わりはありましたが、当初から担当者は2人で、増員はしていません。公民連携担当の職員が別の部署に異動することで、公民連携における柔軟な発想が、市役所の中にも広がるというメリットがあります。

――職員の意識は変わってきましたか。

 不安の声はありましたし、それは今でもあります。特に公務員の性質上、100%自分たちの力でやりきりたいという思いは強いものです。先ほど申し上げたように、建物をつくる時、役所の中の建築技師たちは「60年持つ安全なものをつくりたい」と思うわけです。その視点と「これは15年でいいじゃないか」という視点は相反する部分があって、心配する声はもちろんありました。ただ、なぜ15年でいいのかという理屈が分かってくると「ああ、そうなんだ」と、大本に立ち返って考えてくれるようになりました。

 特に若い世代では、意識の変化は顕著です。最近始めたのが、オリジナルの婚姻届と出生届を発行するサービスです。同じようなサービスを、結婚関連のメディア企業に自治体が委託して行っている例を職員が知ったのがきっかけです。桑名市の場合、婚姻届の出し方を説明する書類の裏側に結婚関係のサービスの広告を入れようというアイデアが現場の若い職員から生まれました。この広告収入により、市の支出が約半分で済むようになりました。

 人口減少により税収も減っていく時代ですので、いかに効率よく稼ぐかという視点が行政にも求められます。

――民間事業者の反応は積極的なものでしょうか? それともまだまだという印象ですか?

 最初の頃より様々な提案が集まるようになりましたが、「まだまだ」だと思っています。公民連携事業のノウハウや行政のルールの理解が民間事業者の間で広がれば、もっと多彩な業態の民間事業者に参画してもらえるはずだと考えています。

公民連携には、プラスイメージの共有が大事

――今後、自治体の間で公民連携の動きは広がると思いますか。

 これからは、市役所を縮小していかなくてはならないことに、きちんと向き合う必要があります。市民の暮らしは続いていくので、今よりも税金を使わないで、市民の暮らしを守るためにはどうしたらいいのか。そういった視点で考えれば、おのずと公民連携という手法しかないのではないかと思います。

 PPPが進みにくい背景には、合併特例債という有利な起債方法がありました。桑名市も駅西土地区画整理事業などのために合併特例債による資金調達を行っていました。しかし、そろそろ合併から15年の発行期限を迎えて特例債を発行できない自治体が増えてきました。そうなると、事業をやめるか、違う方法を考えるかを選択せざるをえません。そうした中で、日本中が公民連携と言い始めるのではないかと予測しています。

――公民連携を推進していくうえで、留意していることはありますか。

 プラスのイメージを、みんなに共有してもらえるようにすることです。

 桑名市でも公共施設の総合管理計画を立て、民間活力を活用しながら50年間で延べ床面積を33%減らすという計画を立て多機能複合化を目指しています。延べ床面積が減ることはマイナスのイメージで捉えられがちですが、プラスのイメージになるように、私はスマートフォンを例に説明しています。

 「昔、旅行する時はいろんなものを持って行っていきましたよね。カメラやビデオカメラ、ガイドブックなどを全部持ち歩いていたものが、今はスマホ1つになって便利になりました。それと同じです」と。

 我々は、小中一貫モデル校の整備(多度地区小中一貫校多機能複合化事業)において、役所のサービスや公民館のサービスを学校の中で行う多機能複合化を検討していますが、「みんな一緒にしてスマホをつくるんですよ」と説明すると、「なるほど」と前向きなイメージを持ってもらえます。

 公共施設マネジメントを推進している首長たちは、このプラスのイメージをつくり出すのにものすごく苦労しているはずです。おじいちゃんとおばあちゃんが子どもと一緒にいたら元気になるというプラスのことを前に出しながら、さらに3つの施設を1つにすれば維持管理費も安価になるということを伝えます。このプラスのイメージをいかにみんなに分かってもらえるかが肝になるでしょう。

伊藤 徳宇(いとう・なるたか)
桑名市長
伊藤 徳宇(いとう・なるたか) 桑名市長 1976年三重県多度町(現・桑名市)生まれ。2000年 3月、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。フジテレビジョン、桑名市議会議員などを経て、2012年12月より現職。
(写真:大崎 康平)

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