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「国内最大240MWで、“直流産業”誘致を」、美作市の萩原市長に聞く

金子憲治=日経BPクリーンテック研究所【2017.2.3】

「メガソーラービジネス」2016年12月26日付の記事より

岡山県美作市(みまさかし)には、国内最大となる出力240MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)の計画が進むなど、将来的に市内に300MWを超える太陽光発電所が集積する見込みだ。同市の萩原誠司市長は、通商産業省(現・経済産業省)出身で衆議院議員も務めるなど産業・エネルギー政策にも詳しい。メガソーラーと地方行政の在り方について聞いた。

300MW越える太陽光が市内に立地

美作市の萩原誠司市長
(出所:日経BP)

――美作市には、パシフィコ・エナジー(東京都港区)が「美作武蔵メガソーラー発電所」(出力約42MW・太陽光パネルベース)を稼働し、さらに出力240MW(パネルベース)の国内最大級のメガソーラーを計画するなど、国内有数の太陽光集積地になります。

萩原 町内にはパシフィコ・エナジーの2サイトに加え、ほかの事業者によるメガソーラーや非住宅用太陽光、そして住宅用も多く、すべて合わせると、将来的に300MWを超える規模になると見ています。1つの市町村に設置される太陽光発電の容量としては全国でも最大規模ではないでしょうか。

 美作市は、「晴れの国」といわれる岡山県の中では相対的に低温です。結晶シリコン系太陽電池は高温になると発電効率が下がってきます。日照量が多い上に気温が低いという、太陽光発電にとって絶好な条件のため、開発計画が相次いでいるのです。

――自治体として、メガソーラーの急増をどのように捉えていますか。

萩原 民有地に建設されるメガソーラーは、地権者の判断で土地の有効活用の一環で計画するものであり、自治体としては、中立の立場で臨んでいます。というのは、地方自治体にとってはメリットとデメリットの両面があるからです。

 利点には大きく2つあります。固定資産税による税収の増加と雇用の創出です。建設期間中、多くの場合、土木工事などが地元事業者に発注されるため、一時的ですが地域経済の活発化につながります。このほか、全国有数もの規模になれば知名度も上がるので、環境問題に熱心に取り組んでいる自治体、というPR効果にもなります。

 デメリットとしては、土地の保水力が低下することによる安全面の問題。そして、20年間、土地を発電事業に占有することで、他の事業の誘致を閉ざしてしまうことです。実は、市長に就任してから、市内への工場誘致に成功した事例も出てきました。工場の国内回帰の兆候もあり、こうした動きにも期待しています。

 メガソーラーでパネルを敷き詰めてしまうと、より雇用創出力のある、ほかの事業の進出を締め出してしまうことになります。これは見えないデメリットに感じています。

償却後のメガソーラーで工場を誘致

――長期的に考えれば、20年後に減価償却の済んだメガソーラーが、極めて安い電力を地域に供給できる可能性を利点に挙げる人もいます。

萩原 実は、減価償却の終わったメガソーラーが、地元自治体にどんな利益になるのかは、今から考えておく必要があります。というのは、減価償却が済み、財務上、資産価値のなくなった発電設備から、当然ながら固定資産税を徴収できません(図1)

図1●稼働した「パシフィコ・エナジー美作武蔵メガソーラー発電所」。減価償却の終わったメガソーラーから固定資産税は徴収できない
(出所:日経BP)
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 そうした段階で、メガソーラーの立地自治体が経済的な恩恵を受ける仕組みとして、大きく2つの可能性があると考えています。

 1つは、電力料金に上乗せして徴収している電源開発促進税を原資とした電源立地地域対策交付金の使途に、メガソーラー立地地域も加えてもらうことです。これまでは主に原発立地地域の産業・生活環境の整備などに使われてきました。

 太陽光発電が国の基幹電源として位置づけられ、実際に国産電源として重要性を増す中、交付対象となることは、制度の趣旨から考えて合理性はあります。

 2つ目が、ご指摘のように地域に低コストの電源を供給することです。減価償却の終わった太陽光発電設備は、もともと燃料が要らないので、極めて安いコストで電力を供給できます。

 かつて、日本のアルミ製錬産業が電力会社の高い電気料金で価格競争力を失う中、自前の水力発電所を持つ企業だけが生き残りました。メガソーラーの安い電力を武器に、電力多消費型の産業を誘致できれば、新たな地域産業を創出できます。国もそうしたビジネスモデルを支援するような仕組みを創設してくれればと思います。

 2つのうち、電源立地交付金については、消費者から見れば電気代が上がるなど、様々な面から批判の多いのも事実です。従って、日本全体として長期的には、メガソーラーの安い電力を活用した新産業の育成を目指していくべきと思っています。

「直流産業」と共存共栄

美作市の萩原誠司市長
(出所:日経BP)

――具体的には、どんな産業が考えられますか。

萩原 太陽電池は、直流を出力するので、効率性を考えれば、交流に変換せずに、直流のまま活用できる産業が有望に思います。私はこれを「直流産業」と呼んでいます。

 例えば、アルミなど、電解工程のある素材や化学産業が典型的ですが、水を電気分解して製造する水素関連産業も含めて考えています。水素は化学原料のほか、燃料電池自動車(FCV)の燃料など、エネルギー媒体としても有望です。また、直流給電システムが導入され始めたデータセンターも、広い意味で「直流産業」と言えるでしょう。

 メガソーラーの安い電源と組み合わせることで、こうした電力多消費型産業の競争力を高めることになれば、メガソーラーと共存共栄できます。

――出力変動の大きい太陽光や風力の電力で、水素を製造することで、電力系統への負荷を軽減する仕組みも提案されています。

萩原 固定価格買取制度(FIT)はメガソーラーの普及にたいへん効果的ですが、電力系統の運営者とは別の事業者が発電事業の効率性だけで立地するので、電力系統への負荷が大きくなりやすいという課題があります。

 特別高圧送電線に連系するような巨大な供給力のある再エネの場合、発電所と一緒にその近くで需要を生み出すような産業政策も必要です。そうすれば、エネルギーを地産地消できるので、系統負荷が抑えられ、送電線の大規模な新増設も回避できます。水素の製造もそうした需要創出策の1つと言えます。

「過積載」による余剰電力で水素製造を

萩原 国内メガソーラーの多くは、連系出力を上回る容量の太陽光パネルを設置する「過積載(積み増し)」が一般的になっています。これも発電ピーク時に系統の受け入れ容量が足りないという系統問題が背景にあります。連系出力を超える比率が大きい場合、昼の晴天時には、発電電力が余ることになります。

 まずは、過積載によって発電ピーク時に売電できない余剰電力で水素を製造し、FCVなどに供給する仕組みが考えられます。こうした水素システムが、現在の固定価格買取制度(FIT)の下で導入可能なのか、現在、経済産業省に確認しています。

――パシフィコ・エナジーが美作市で計画する2サイト目のメガソーラー計画は、太陽光パネル容量が240MWに対して連系出力150MWと、過積載率が大きいのが特徴です。

萩原 メガソーラー事業と並行して、連系出力以上に発電した電力を使って水を電気分解して水素を製造する技術開発に取り組めないか、事業者に提案しようと思っています。水を電気分解すると、水素と酸素が発生します。水素のほか、酸素も何ら形で活用できないか、勉強しているところです。

 美作市の上山地区では、現地NPO法人がトヨタ・モビリティ基金の助成を受け、トヨタ車体の超小型EV(電気自動車)「コムス」を活用し、中山間地域の次世代モビリティを目指した社会実験を実施しています(図2)。メガソーラーによる水素製造が実現すれば、EVにFCVも加え、電気と水素を最適に組みわせた実証事業に発展させることも検討課題です。

図2●トヨタ車体の超小型EVを使った社会実験
(出所:一般社団法人・上山集楽)
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自己信託で撤去費用を自治体が確保も

美作市の萩原誠司市長
(出所:日経BP)

――「美作武蔵メガソーラー発電所」が運転を開始しました。サイトを訪れた感想を教えてください。

萩原 放置されていたゴルフ場跡地が、発電所として生まれ変わったことはたいへん素晴らしいことです。ただ、地方行政の視点から、いくつか課題も見えてきました。

 1つは、発電所として使命を終えた後、設備を撤去するための費用の問題です。もちろんメガソーラー事業者は、事業計画の中に撤去費用を見込み、そのための費用を確保しています。ただ、地方自治体としては事業者が倒産してしまうような最悪のケースも想定する必要があります。

 その場合、膨大な数の太陽光パネルが放置されることになります。地面の崩落などで周辺地域への危険性が高まれば、市は「代執行」によって撤去せざるを得ません。こうした民有地にある建築物の自治体による撤去は、朽ちかけた空き家などで現実化しています。

 代執行のよる撤去費用は、所有者に請求しますが、多くの場合、回収できず、結果的に税金を投入することになります。

 そこで、現在、計画中のメガソーラー事業では、自己信託にして受益者を自治体にするような形で撤去費用を積み立てておく法的なスキームを提案するつもりです。

 もう1つは、表土保護の対策です。雑草対策も兼ねてクローバーを植栽することが多いようですが、やや安易な感じもします。実際に日陰などには根付いていませんし、もっと適した植物などがあるような気がします。

 山間に建設するメガソーラーにおける安全上の最大の課題は、「水」対策です。保水力の低下に対し、植栽する被覆植物の種類も含め、さらなる工夫や技術開発が必要に感じます。

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