シティブランド・ランキング2016

記事一覧

街のブランドイメージは狙い通り、課題は雇用

札幌市長 秋元克広氏に聞く

聞き手:麓幸子=日経BPヒット総合研究所長、取材&文=北室かず子【2016.11.22】

全国の自治体が地方創生の様々な施策を実施している中、北海道札幌市が「シティブランド・ランキング -住んでみたい自治体編-」(調査:日経BP総合研究所「新・公民連携最前線」)で、全国1741市区町村の1位に輝いた。京都市、那覇市といった人気観光都市を上回る支持を集めた札幌市の暮らしぶりはどのようなものなのか。生活環境、インフラ整備、雇用、子育て支援などの取り組みを、秋元克広市長に聞く。

(写真:田渕立幸)
[画像のクリックで拡大表示]

――東京23区、名古屋市、大阪市、福岡市、札幌市の市民(5150サンプル)への調査で「シティブランド・ランキング -住んでみたい自治体編-」の1位になりました。その理由として「豊かな自然環境」「観光、仕事などで訪れた際の好印象」「新鮮な食材」が挙げられていますが、それらは札幌市のまちづくりの方針と一致していますか。

 私たちが街のブランドとして考えてきたのは「都市と自然の調和」、「食」、「観光」ですので、合致しています。例えば、都心の大空間である大通公園は、明治時代の都市計画で防火線として設けられたものですが、そこから大倉山などが見え、自然を身近に感じられます。先人の財産が評価されたものでもあり、ありがたいですね。「食」は、農業の盛んな周辺市町村はもちろん北海道全域の食の魅力があってこその評価だと思います。

――実際の人の動きはどうなっているのでしょう。

 調査結果の通り、観光や出張の際にいい街だと感じてくださる方は多いようです。また、札幌市民へのアンケート調査では約95%もの方々が住み続けたいと希望しています。ただ、実際に移住となると、働く場の問題が出てきます。実は札幌市は年間約8000人、転出より転入が多くなっています。ところが、道外との関係では、首都圏を中心に4000人ほどの転出超過で、とりわけ20代の転出が目立ちます。この中には、住み続けたいけれど転出せざるを得ないという方もいらっしゃると思います。

 私は夕張市の生まれで、炭鉱の閉山によって地元に残りたくても仕事がなくなり多くの人たちが去っていく姿を見てきました。そうした経験からも、雇用の確保が第一だと考えています。

――では、札幌で働くメリットとはどのようなことでしょうか。

 まず、満員電車や長時間通勤といった通勤ストレスが少ないことです。仕事を終えて30分以内に家に帰り着きますので、ワークライフバランスが保てます。休日は、車で小一時間も走れば子どもを遊ばせたりキャンプしたりできる山や海があります。午前中にゴルフをして午後は買い物というのも可能です。冬場は中心部から20分でスキー場に行けます。転勤して来られて、利便性の高い都市機能の享受とゆったりしたライフスタイルの両方があることに魅力を感じる方が多いです。

企業誘致、起業支援で雇用創出を図る

2016年4月、JR東京駅近くに「札幌UIターン就職センター」を開設した。札幌の状況に詳しいキャリアカウンセラーによる就職相談、市内企業に対する学生などとの面談用ブースの提供などを行う(写真:札幌市)
[画像のクリックで拡大表示]
アフラックは本社のITシステム開発機能の一部を東京都府中市から札幌市に移転。札幌システム開発オフィスを2016年4月に開設した(写真:札幌市)
[画像のクリックで拡大表示]

――U・I・Jターンを促進するために、どのような施策を取っていますか。

 道内企業ではいろいろな業種で人手が足りません。そこで2016年4月、東京駅近くに人材確保の窓口(札幌UIターン就職センター)を設けました。札幌の企業の情報などを首都圏の大学生や札幌への移住に関心があるビジネスパーソンに知っていただくことを目的としており、設置から半年で多くの問い合わせをいただいています。

――企業誘致についてはどうでしょうか。また起業環境として優位な点はありますか。

 既にいくつもの大手企業のコールセンターを誘致しています。さらに近年は地震や台風の災害リスクが低いということで、複数の大手生命保険会社の本社機能の移転がありました。システム開発を行う部門が移転しているケースです。企業誘致には札幌の魅力のPRや補助金などの対応をしています。

 札幌はIT関係の起業が多い土地柄です。ITやバイオなど比較的少人数で業を起こせる分野では、大学をはじめとする研究機関との連携が重要ですが、産学連携が盛んに行われていることもその要因だと思います。札幌は150年前に日本中から集まってきた人たちでできた街ですので、古いしきたりやしがらみに束縛されない良さもあると思います。ぜひ、起業家の方々にも移住していただきたいですね。

平日に8万人が行き来する中心部の地下歩行空間

――けれども、やはり雪と寒さが心配です。

 その不安感は強いと思いますが、集合住宅で暮らせば雪かきの心配はありませんし、建物は断熱がしっかりした北国仕様ですから、室内は東京よりも暖かいくらいですよ。そして市内中心部には地下街と地下歩行空間の地下ネットワークが広がっていて、地下鉄駅の近くにお住まいになれば、ほとんど雪を意識しないで通勤や買い物ができます。便利な場所に手ごろな価格で住まいを確保できるのも札幌の魅力です。

 札幌駅と地下鉄大通駅を結ぶ直線距離520mほどの地下歩行空間は「チ・カ・ホ」として市民にすっかり定着しました。平日は地上と地下で約8万人が行き来しています。地下空間をウォーキングしている方もおられます。

[画像のクリックで拡大表示]
札幌駅と地下鉄大通駅を結び平日8万人が行き来するチ・カ・ホの風景とマップ。広場も設置されており、指定管理者の札幌駅前通まちづくり株式会社が運営し、賑わいを創出している(写真・資料:札幌市)
[画像のクリックで拡大表示]

――8万人ですか。1つの商圏といってもいい規模ですね。

 以前の地上通行量は約3万人でしたから、ずいぶん多くの人が行き来するようになりました。札幌駅周辺と大通地区の商業ゾーンが地下でつながったことで回遊性が高まり、賑わいも増しました。さらに幅20mの通路の両側それぞれ4mにワゴンでの販売や展示などができる帯状のスペースを設けています。収穫シーズンには直販野菜も並びますよ。より利便性が増すよう、沿道ビルの建て替えの際には地下との接続を官民連携で進めています。

育児ストレスを軽減する常設の「子育てサロン」が市内約90カ所

――若年層の移住となると、子育て環境も気になる点です。子育てしやすい街への取り組みを聞かせてください。

 これまでの7年で保育所等の入所定員を約1万人増やしており、さらに拡充したいと考えています。また保育・子育て支援センターや児童会館を会場にした常設の「子育てサロン」が市内約90カ所で運営されています。これは、乳幼児を連れたお母さん、お父さんが集まり、育児相談などしながらコミュニケーションできる場所です。孤立などからくる子育てストレスを軽減し、子育てしやすい環境づくりを推進しています。先に申し上げた通勤圏がコンパクトである点も、子育てに適した環境といえるでしょう。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
札幌市内には常設の子育てサロンが90カ所以上ある。上3点は2016年8月にオープンした「まちなかキッズサロンおおどりんこ」 の写真。オープニングイベントには秋元市長も参加した(写真:札幌市)

――市長は、16年に新たに「まちづくり政策局」を設置しましたが、その目的をお聞かせください。

 1972年の冬季オリンピック札幌大会で進んだ札幌の基盤整備が更新時期を迎えています。新しい時代に対応するには、基盤整備のハード面と住みやすさというソフト面の組み合わせが重要ですが、行政はどうしても縦割りになりがちです。そこに横串を通すことを目的に設置しました。たとえば環境、雇用などがキーワードになるでしょう。また、北海道新幹線の延伸に向けて北海道の玄関口としての札幌駅再整備も官民連携で進めていきます。

ショーケースとして北海道全体を牽引する

2017冬季アジア札幌大会の公式サイト。開催まで100日を切った(画像は11月14日のもの)
[画像のクリックで拡大表示]
オータムフェスタの様子。2016年で9回目を迎え、過去最高の237万2000人が集まった(写真:札幌市)
[画像のクリックで拡大表示]

――17年2月には「2017冬季アジア札幌大会」が迫っています。アジア、世界の中でのポジショニングについてはどうお考えですか。

 温暖な地域が多いアジアにおいて、冷涼な北海道には日本の他地域とは異なるブランド性があります。第1回冬季アジア大会は1986年に札幌で行われたのですが、参加者は7カ国430人。今回は31の国と地域から2000人が参加予定です。

 アジアの所得水準が上がってウインタースポーツへの関心は、今後、どんどん高まるでしょう。北海道の雪質は評価が高くインバウンド増大が期待できます。こうした視点で見ると、今大会はウインタースポーツ・イベントをアジアに発信できる絶好の機会です。冬季オリンピックは2018年に韓国・平昌、2022年に中国・北京とアジア開催が続きます。大会運営を通して札幌によい印象を持っていただき、2026年以後の冬季オリンピック・パラリンピック招致へつなげたいですね。

――今回の調査で北海道内の函館市、小樽市、富良野市も上位30位に入りました。これらの都市はライバルですか。

 重要なのは、北海道の各地が発展していかないと札幌の魅力は維持できないということです。毎秋、大通公園で開催しているオータムフェストは、道内各市町村の「食」が大通公園に一堂に会するもので「さっぽろ雪まつり」に次ぐ240万人近い集客があります。このように札幌はネームバリューで人を呼び、ショーケースとして情報発信の出入り口となる機能も担えると思います。

 歴史的魅力のある小樽や函館との相乗効果もあり、海外への見本市や観光物産市に連携して取り組むことで、より力を発揮できるでしょう。具体的な連携では、16年、スポーツ大会や合宿を北海道全体で誘致するスポーツコミッションを立ち上げたところです。

――市長は「世界都市」という言葉をよく使用しますが、改めて「世界都市」とは何でしょうか。そして札幌はいかにして「世界都市」を目指しますか。

 「世界都市」とは、グローバルに人が動き、世界から注目される都市という意味です。利便性を保ちつつ環境への負荷の少ないエコロジカルなライフスタイルが実現でき、心の豊かさを保てる街として注目されたいと願っています。

 心の豊かさには文化創造が欠かせません。2014年には札幌初の国際的アートフェスティバルである「札幌国際芸術祭」が開催され、2017年に2回目を迎えます。また、16年10月には、過去10年にわたって開催してきた札幌国際短編映画祭の運営基盤をもとに「No Maps」(ノーマップス)というイベントを開催しました。これは「映像」、「音楽」に加え、ITやAIなどの「インタラクティブ」の3分野からなる国際ビジネスコンベンションとして、市民文化の醸成と合わせて、地域活性化につなげていこうというものです。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
2016年10月10日~16日までの7日間開催された国際ビジネスコンベンション「No Maps」の模様(写真:札幌市)

 こういった取り組みを通じ、人々が元気に活躍できる環境を整えていくことで、“人を大事にしたまちづくり”を目指しているのです。

秋元克広(あきもと・かつひろ)
札幌市長
秋元克広(あきもと・かつひろ) 1956年生まれ。北海道大学法学部卒業。1979年札幌市採用。2004年札幌市企画調整局情報化推進部長。2005年札幌市市民まちづくり局企画部長。2008年札幌市南区長。2009年札幌市市長政策室長。2012年札幌副市長。2014年札幌市副市長退任。2015年から現職(写真:田渕立幸)


■訂正履歴
初出時、2ページ目で「保険商品の企画開発を行う部門」と記していましたが正しくは「システム開発を行う部門」です。3ページ目で子育てサロンの数を「90カ所以上」と記していましたが正しくは「約90カ所」です。また、「保健センター」は正しくは「保育・子育て支援センター」です。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。 [2016/11/25 19:15]

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/ppp/atcl/tk/PPP/101100049/111400007/