地域を元気にするCSV

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舟橋村総合戦略とその実践(富山県舟橋村+富山大学・日本能率協会総合研究所ほか)

子育て関連のCSVビジネスを自治体が支援

一般社団法人CSV開発機構・編【2016.12.28】

(舟橋村総合戦略より)
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 今回紹介するプロジェクトの主役は富山県舟橋村だ。ご存知のように、CSV(共有価値の創造)とは、社会問題解決と競争力強化を両立する企業経営コンセプトである。にもかかわらず、なぜ自治体が主役なのか。

 その答えは、舟橋村の総合戦略をひも解けば、すぐに見つけることができる。「子育て共助」を掲げる総合戦略の中で舟橋村は、自治体の立場から民間企業のCSVを支援する姿勢をはっきりと示しているのだ。

 「主に富山県内の民間企業と連携しながら、魅力的な子育て環境づくりを進めることで、子育ての視点からの新商品・サービス創出や企業の競争力強化など、CSV 事業の浸透を支援する」――舟橋村の総合戦略からの引用だ。地域の子育て環境は、行政だけで整備するものではない。舟橋村では、「魅力的な子育て環境づくり」に民間企業も参画することで、新しいビジネスの芽を生み育てることを目指しているのだ。そして、このプランの立案や実現に向けて協力しているのが、戦略パートナーである富山大学地域連携推進機構および日本能率協会総合研究所チームである。

 舟橋村は、富山県のほぼ中央部に位置し、面積が3.47km2の日本一面積の小さい自治体である。主要産業は農業で、事業所はほとんどないが、県都富山市から至近のベッドタウンとして人口は一定レベルを維持している。2015年国勢調査によると、総人口こそ2982人と少ないが、15歳未満の人口比率は20.2%と全国平均の12.9%、富山県の12.6%を大きく上回っている。また、県内で唯一、前回の国勢調査時から人口が増えた自治体でもある。しかし、高校卒業・大学進学のタイミングである10代後半の転出超過が加速し、他地域同様「少子高齢」が懸念される状況となり、子育て世代の転入をテーマとして地方創生プランが策定されることとなった。

 そこに加わったのが、富山大学の地域連携戦略室だ。地域連携戦略室は、地域振興のためには地元企業の活性化が不可欠であるという認識のもと、若手経営者の育成などをテーマに活動を展開してきた。舟橋村と富山大学は、2007年に「地域づくり包括連携協定」を締結し、「協働型まちづくり」を推進している。

 両者は、舟橋村の地方創生の総合戦略で掲げる「子育て共助」のまちづくりを実現するため、協働作業を進め、地元企業がビジネスを通じて子育て世代の移住促進という課題に取り組めるプランをデザインした。そこでは、子育て支援産業の創出を「CSV 経営の浸透」と位置付け、村として民間の事業活動を支援していくことが示されている。

 「子育て共助」のまちづくりにおける目標は、コミュニティ活性化を通じた「子育て世代の転入」と「出生率の向上」である。空間と人で構成される「子育てに適したコミュニティ」を築き、そこに子育て世代を呼び込む。そこでは安心して子育てができるファシリティとサービスが提供されており、その安心感が子育て世代の「住んでみたい」「もう一人子供を産みたい」という好循環につながる。そんなビジョンが描かれている。

舟橋村が目指す地方創生のイメージ(資料:舟橋村)
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地元企業のCSV事業創出マインドを高めるには

 「CSVによる」という意味では、その空間づくりとして「子育てコミュニティ賃貸住宅の供給」や「公園の再開発・運営」という具体的な事業が計画され、人づくりとして「リーダー育成」や「パークマネジメント」、ICTを活用した子育て支援ビジネスの創造などのビジネスチャンスがあり、そこに地元企業を中心としつつ、首都圏企業の事業活動による参画を目論んでいる。

 しかし、現実問題として、県内の地元企業の多くは、そうした課題解決型の事業を創出するための経験や知識が十分ではなく、「子育て共助のコミュニティづくり」と聞いても、ピンとこない。だが、域外の事業者にその仕事を発注したのでは、地域経済の活性につながらない。

 そこで、地元企業にCSV事業創出のマインドを高めてもらうため、シンクタンクである日本能率協会総合研究所がチームに加わった。このチームにおいての日本能率協会総合研究所の役割は、関係する法規制や最新の政策の動向や他地域での成功事例、先進的な企業の事例を収集し、地元企業を対象とした勉強会という形でノウハウを提供し、事業創出力の強化につなげることである。

 2016年11月からスタートした全6回の地元造園業者向け勉強会では、国土交通省や専門家、民間企業等のゲストスピーカーを招いての政策研究や事例研究を行ったあと、最終的にはビジネスプランの策定・発表まで行う計画となっており、県内造園業者20社程度がエントリーしている。

<県内造園業者勉強会の計画>
第1回(2016年11月)オリエンテーション~趣旨・カリキュラム・ゴールの共有化、現地視察
第2回(2017年1月中旬)政策研究~新たな時代の都市公園のあり方
第3回(同・1月下旬)先進事例研究~パークマネジメントの国内外事例
第4回(同・2月上旬)先進事例研究~コミュニティを強みとする賃貸住宅
第5回(同・2月中旬)ケーススタディ検討~京坪川河川公園周辺整備地区の活用
第6回(同・3月下旬) ビジネスプランの発表

 また県内ハウスメーカー向けの勉強会や、舟橋村・富山大学と連携協定を締結したNTT西日本・NTTアドバンステクノロジと進めるICTを活用した子育て支援サービス実験やビックデータを使ったコミュニティ活性化の研究、これらの取組を紹介する出版計画など、様々な民間企業とともに進める事業が準備されている。

 現段階ではCSVビジネスを生む土壌を整備しているという段階ではあるが、地元事業者を活性化させたいというクライアント(自治体)からの要望に応えるビジネスを成功させることができれば、日本能率協会総合研究所にとっても大きな成果となる。このアプローチが体系化されれば、競合するシンクタンクやコンサルティング会社に対する優位性の創出にもつながるからだ。「CSVによるCSVビジネスづくり」として、地元事業者が課題を解決していく地域活性のモデルケースとなるかもしれない。

■設定された数値目標(舟橋村総合戦略)
  • 子育て世代の転入世帯数 40世帯/5年間
    現状(H25):6世帯/年
    目標(H27~31):8世帯/年(40世帯/5年間)
  • 出生数 149人/5年間
    現状(H22~26):29人/年(147人/5年間)
    目標(H27~31):30人/年(149人/5年間)
  • 子育て支援のCSV事業を実践した団体数 1団体
    現状(H27):0団体
    目標(H27~31):1団体

■プロジェクトの推移
  • 2008年3月
    「富山大学・舟橋村における地域づくり包括連携協定」締結
  • 2013年4月~
    職員研修プロジェクト~村の人口構造上の問題を解明
  • 2014年3月
    舟橋村環境総合整備計画策定
  • 2014年10月
    舟橋型宅地造成ビジョン検討会開催
  • 2014年12月
    国「まち・ひと・しごと創生総合戦略」等公表
  • 2015年6月
    舟橋村創生プロジェクト総合推進会議スタート、子育て共助のまちづくりモデル事業の実践
  • 2015年10月
    舟橋村人口ビジョン、舟橋村総合戦略の公表
  • 2016年4月
    地方創生加速化交付金を活用して「子育て共助のまちづくりモデル事業」更に加速化

ここを学びたい
――マイルストーンに基づいた計画的な地元企業支援

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 地元事業者に、そこにビジネスチャンスがあることを気付かせること。本当の意味での地方創生は、すべてここから始まる。首都圏の企業に企画立案を任せた事業を、その企業が主体となって実施することになれば、結果的には首都圏に、情報も、お金も集中してしまう。首都圏の企業と協業するにしても、地元の課題を、地元の事業者がビジネスを通じて解決していくことができない限り、「地域が元気になるCSV」を形にするのは難しい。

 しかし、現実問題として、地元事業者の多くは、今までの商売のやり方、成功体験の延長線上にしか事業を考えられないため、そこにある課題解決とビジネスを結びつけることができない。

 そこで、舟橋村では、「子育て共助のコミュティをつくる」という戦略絵図を描き、そこに関わる地元事業者として想定される造園業者や地域ビルダーなどを対象に、勉強会を開催することにした。CSV実践企業の先導的な事例や、技術やノウハウ、知恵と気づきを提供することで、具体的なビジネスを創出させようと動き出したのだ。

 つまり、CSVビジネスが生まれるための土壌づくりのために、首都圏の大手企業をメンターとして活用するのだ。今回、そのための重要な役割を果たしているのが、日本能率協会総合研究所だ。同社は、単に役所の仕事を受注する方策を伝えるだけでなく、仕事のつくり方、考え方を教えながら、仕事を創り出す学びの場を提供しているのだ。

 舟橋村は、富山県内ではベッドタウンとしての立地条件から、人口を増やしているが、これから日本の人口減少が加速化していくなかで、ベットタウンだけが生き残るなどということはあり得ない。「富山県が元気になってはじめて、ベットタウン・舟橋村も元気になる」。この地勢学的な構想力が、本プロジェクトの第二の美質である。域内の事業者だけに眼を向けず、村をフィールドとして県内事業者に提供する。次に、県内の造園業者や工務店を組織化し、民間企業の仕事づくりをアシストする。それが、結果として、少子化という村の課題を解決する。こうしたマイルストーンに基づき進められている計画的なCSV支援なのである。

 欧米では今、非人間的な住環境の再生、再編を形にする、「ニューアーバニズム」に基づくまちづくりが台頭している。そこでは、民設・民営の基盤整備や公共空間づくりが主流で、それが結果としての多様なコミュニティ機能を育み、集客や賑わいを生み出している。舟橋村の取り組みも、目指す方向性はこの考え方に近いといえる。

 最後に、今後に向けたアドバイスだが、まちづくりには、明確なテーマとともに、心と五感に訴求する「感性価値」を持つデザインが不可欠である。クリエーターやデザイナー、アーティストの参画も大きなまちづくりのエンジンとなることを付言しておきたい。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/092400011/121900018/