地域を元気にするCSV

記事一覧

「台風発電を可能とする次世代風力発電サービス」の開発(日本ユニシス、チャレナジー)

一般社団法人CSV開発機構・編【2016.11.14】

実証実験で使用している垂直軸型マグナス式風力発電機(写真:チャレナジー)
[画像のクリックで拡大表示]
マグナス力解説図:野球のカーブボールが曲がるのもマグナス力によるもの(資料:チャレナジー)
[画像のクリックで拡大表示]

 日本ユニシスとチャレナジーは、「次世代風力発電サービス」の提供を目指して共同事業を開始し、2016年8月から沖縄県南城市にてフィールドテストを展開している。

 チャレナジーが開発した世界初の「垂直軸型マグナス式風力発電機」と、発電機の異常検知や予兆把握を可能とする日本ユニシスの「IoT遠隔監視システム」を組み合わせ、台風も含め、様々な風況下での安定的な電力供給実現を目指している。

 風力発電は、環境負荷が小さい点や他の再生可能エネルギーと比して発電施設の建設コストが抑えられる点などから、太陽光発電とともに大きな期待が寄せられている分野である。しかし、プロペラ式の風力発電機は、騒音の問題やバードストライクの危険があるほか、台風などの強風下では設備が損壊してしまうリスクがあるため、巨大なエネルギーを持つ台風の接近時には稼働を停止させなければならないという皮肉な現象が起きる。

 チャレナジーは東京都墨田区に2014年に設立されたいわゆる「下町ベンチャー」で、同社が開発した「垂直軸型マグナス式風力発電機」は、プロペラではなく円筒を気流中で自転させた時に発生する「マグナス力」により動作する。垂直軸型にマグナス式を組み合わせた方式で風力発電のフィールドテストを行うのは世界初の試みだ。風向や風の強弱の影響を受け難く、耐久性・安全性も高いという特徴を持つ。円筒の回転数を制御することで、台風などの強風下でも稼働させ、発電することが可能となるため、従来の風力発電の概念を覆す可能性を秘めており、2014年度に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実施する「研究開発型ベンチャー支援事業」において公募された「起業家候補(スタートアップイノベーター)」に採択されたことを追い風に、同社は開発を進めてきた。

 一方、日本ユニシスは中期経営計画で「デジタル/ライフイノベーション領域の拡大」を掲げ、ベンチャー企業とのイノベーション事業を展開することによる「常識を変える革新技術」に積極的にチャレンジしている。本コラム第2回で紹介した「EVステーション」のインフラ整備にもITの分野で大きく貢献している。

 今回日本ユニシスが提供する「IoT遠隔監視システム」は、風力発電設備に取り付けたセンサーデバイスからデータを収集して、人工知能(AI)技術を取り入れたビッグデータ解析・機械学習を行うことで、発電設備の安全な稼働をモニタリングする仕組み。注目が高まっている「IoT(Internet of Things)の領域で同社が展開すべく開発を進めてきた「IoTビジネスプラットフォーム」(センサーデバイス、ネットワーク、データ収集・解析、機械学習などを垂直統合的にワンストップで提供するサービス)の第1号プロジェクトとなる。

 世界初の実証実験に地元の期待も高まっている。もともと沖縄県は、エネルギー自給率が低く、島しょ地域であると同時に台風被害が多いため、「災害に強く、低炭素な地域づくり」が重要な課題となっている。「次世代風力発電サービス」が最も力を発揮するエリアの1つである。

遠隔監視システム モデル図(資料:日本ユニシス)
[画像のクリックで拡大表示]
8月7日に行われた実験設備の落成式には、南城市の古謝景春(こじゃ けいしゅん)市長も出席、「台風の多い沖縄で、新エネルギー分野が花開くことに期待している」と祝辞を述べた(写真:チャレナジー)
[画像のクリックで拡大表示]

 現状のエネルギーインフラでは、電気、ガスなどのエネルギーを得るための支出は、当然のように域外(他地域・国外)に流出しており、特に離島や島しょ地域においてはインフラが整備されていないため、相対的により大きな負担を強いられる状況にある。

 しかし、この「次世代型風力発電サービス」が実用化すれば、エネルギー支出は域内で循環し、域外への流出が止まる。それだけではなく、そこに新しい雇用や経済流通が生まれる。沖縄と同じように台風被害の多い東南アジア諸国への技術移転も含め、ビジネスチャンスは大きく広がる。社会課題の解決と経済価値が両立するCSVビジネスのモデルケースのような事業だといえる。

 現在、実験機は順調に稼働しており、9月6日の台風13号での発電および遠隔監視に成功。さらに、10月4日の台風18号では停止実験にも成功。台風下における安定稼働、安定停止の両方を確認。実用化に向け、着実にデータを蓄積している。

■プロジェクトの推移
  • 2014年3月
    株式会社リバネス主催の第1回テックグランプリで「垂直軸型マ グナス式風力発電機」が最優秀賞を受賞
  • 2014年10月
    株式会社チャレナジー設立
  • 2014年10月
    NEDO「研究開発型ベンチャー支援事業」の「SUI」に採択
  • 2015年12月
    日本ユニシスとチャレナジー間で共同事業の検討開始
  • 2016年5月
    新聞紙上にて沖縄県南城市での共同実証実験の発表
  • 2016年6月
    日本ユニシスグループ主催「BITS2016」にて共同事業の発表
  • 2016年7月
    沖縄県南城市に実証実験機の設置
  • 2016年8月7日
    実験機落成式 実証実験の開始
  • 2016年9月6日
    台風13号の風況下での実験(発電)に成功
  • 2016年10月4日
    台風18号の風況下での実験(停止)に成功

●ここを学びたい
――地域特性を活かしたエネルギーの地産地消モデル

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 日本ユニシスと、東京都墨田区のベンチャー企業・チャレナジーが、「台風発電」の実用化を目指した共同事業を開始した。台風下でも発電可能な次世代風力発電サービスの実証は、これが世界で初めての試みとなる。

 ご存じの通り、我が国の一次エネルギーの自給率は、わずか6%で、OECD加盟国34カ国中33位と、先進国の中で二番目に低い水準となっている。日本政府は2030年までに、この一次エネルギーを24.3%までに改善することを目指し、さらなる省エネルギーの推進と併せ、再生可能エネルギーの最大限の導入を、基本方針として打ち出した。

 目標達成に向け、風力発電は、洋上発電13.8億KW、陸上風力1.9億KWと、極めて高い導入ポテンシャルを秘めている。しかし、今年も日本列島が大型台風や爆弾低気圧に見舞われたように、風速20m以上の強風時には発電できないプロペラ式風力発電機では、その有用なポテンシャルを活かせないのだ。

 それに対し、チャレナジーが開発した垂直軸型マグナス式風力発電機は、風の強弱や風向きの影響を受けにくく、安全性、安定性の高い発電環境を構築できるものと期待されているのだ。

 そこに登場したのが、日本ユニシスである。同社は、長年電力業界へのシステム提供で培ってきたノウハウをクラウドサービスに集約。エネルギーの見える化、デマンドレスポンス、ポイント管理などを総合的に内包したエネルギー管理クラウドサービス「Enabilityシリーズ」を開発した。そんな同社がチャレナジーと協業することで、遠隔・多拠点に設置した設備の異常を早期に発見し、発電量低下による経済的損失の回避や、メンテナンス業務の効率化を実現しようという実践である。

 今回のプロジェクトを、CSVビジネスの観点から総括してみたい。

 第一の意義は、公益としての「ベンチャー企業支援」と、ベンチャーとの共創による「イノベーション事業の確立」という事業益を両立させていることだ。同様の実践は、異なる業界の大企業においても可能だろう。

 ここでポイントとなるのが、オープン&クローズ戦略だ。オープン&クローズ戦略とは、イノベーション領域の拡大やスピードアップを図るために自社が保有する特許などの知的財産をコア技術部分と非コア部分に分け、前者を独占(クローズ)しつつ後者については他社と共有(オープン)することを指す。今回両社は「風力発電技術」と「遠隔監視システム」というそれぞれのコア技術領域を尊重しつつ、「次世代風力発電システム」として組み合わせることで、実用化へのスピードを飛躍的に高め、開発コストの低減につなげている。

 第二の意義は、「地域貢献」と「地産地消型エコシステムの確立」という公益と事業益との循環をも形にしていることである。今回実証地として選ばれた、台風銀座の沖縄県南城市にとって、持続可能なエネルギーの地産地消モデルを獲得できるだけでなく、世界初のエネルギーの実証実験は、エコツーリズムなどのビジネス観光誘客にもつながっていくだろう。日本ユニシスにとっては、ここでのノウハウの蓄積を活かし、地理的制約を受ける他の離島や、多拠点化するホテルやビルの屋上へのこの風力発電サービスを展開する大きなスプリングボードとなることは確実である。行政、大企業、ベンチャー企業の「三方良し」を画策することで、CSVビジネスとしてのアピールができるだけでなく、新しいイノベーション事業の創造に結実していくはずである。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/ppp/atcl/tk/PPP/092400011/110600016/