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創業支援センターTAMA――多摩地域の創業支援プラットフォーム化プロジェクト(多摩信用金庫)

一般社団法人CSV開発機構・編【2017.9.28】

 東京都立川市に本店を置く多摩信用金庫は、立川市、八王子市、武蔵野市を中心とした東京都の多摩地域を地盤とする地域金融機関で、「お客さまの幸せづくり」を経営理念として掲げ、地域課題の解決に向けて、ユニークな施策を展開している。

 中でも地域の産業活性化に大きく貢献しているのが、創業支援のプラットフォーム「創業支援センターTAMA」のプロジェクト運営である。

創業支援センター TAMAのウェブサイト

 このプロジェクトは、2013年度に東京都が募集を開始した「インキュベーションHUB推進プロジェクト事業」に多摩信用金庫の提案が採択されたことからスタートする。

 東京都のこの事業は、高い支援能力・ノウハウを有するインキュベータを中心に複数のインキュベータの連携体(=インキュベーションHUB)を構築し、それぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長促進までの支援を一体的に行う取組を、東京都が後押しするもので、産業の新たな担い手である創業者を生み出し、産業の集積を維持・発展させることを目的としている。

インキュベーションHUB推進事業のイメージ(資料:東京都産業労働局)

 多摩信金の提案は、多摩信金自身や自治体・関係機関をはじめ様々なプレーヤーがそれぞれに展開している創業支援活動を広域でネットワーク化して連携を強め、各々の強みを生かしつつも、多摩地域で創業を目指す方々にとってわかりやすく、継続的に利用しやすいプラットフォームを構築するというもの。2017年8月現在、多摩地域の7市・42団体と覚書を締結している。

 このプロジェクトでは、まず、インターネット上に、多摩地域にある創業支援機関の情報を集約した「創業支援センターTAMA」のホームページを構築し、それぞれの拠点についての情報を掲載するとともに、開催される創業塾や創業セミナー、交流会の情報をタイムリーに提供できるインフラを整えた。

 例えば、創業塾や創業セミナーについては、女性やシニアの創業に特化したものや、ITや一次産業、コンサルタントなど業種に特化したものなど様々な切り口で開催し、2013年11月のセンター開設以降2016年3月までの開催回数は107回を数え、参加者数も1,600名を超えている。

創業塾の様子(提供:マネジメントブレーン〔創業支援センターTAMA連携機関〕)

 各自治体が実施する創業に関する個別相談会には、多摩信金から起業・創業に関する経験・ノウハウを有する「インキュベーションマネージャー」を派遣し、創業にあたっての事業計画書の策定のほか、資金調達や販路開拓など様々な相談ごとに対応できるよう支援を行っている。

創業個別相談会の様子(写真提供:多摩信用金庫)

 創業間もない方をスピーカーとして経験談を学ぶ「ミニブルーム交流カフェ」は2011年度に多摩信用金庫の独自施策として開始され、開催する自治体・創業支援機関が共催や後援として名を連ねる形で、各地で年間20回程度開催されている。

ミニブルーム交流カフェの様子(写真提供:多摩信用金庫)

年間500件を超える創業関連の相談が

たま工業交流展に出展する株式会社ブリクセンブースと石田社長(写真提供:ブリクセン)

 こうした創業支援に積極的にかかわることで、金融機関としての本業である創業関連資金の相談についても自然に機会が増える。創業支援センターTAMAの取り組みが浸透するにつれ相談件数も着実に増加し、2016年度は年間500件を超える相談を受けるに至っている。地域の発展とともに自社の業績にも大きく貢献する結果となっているわけだ。

 具体的な事例も増えてきている。例えばイメージセンサや映像信号処理の技術を活かしたカメラシステムやモジュールの開発、組込ソフトウエアやサーバーネットワークシステムなどの構築を行う「株式会社ブリクセン」は、創業支援センターTAMAの連携機関でもあるビジネススクエア多摩(多摩信用金庫、多摩大学、多摩市による共同運営)が主催する創業塾を卒業するとともに、同所にオフィスを構えて2015年3月に創業。創業後も多摩信金から融資や展示会出展のサポート、取引先の紹介などのフォローアップを受け、着実に業績を伸ばしている。

 また、支援機関や自治体の創業支援担当者を集めた情報交換会を通じて、創業支援の先進事例・ノウハウの共有や広域連携の取り組みを推進し、支援機関同士の連携も強化し、多摩地域全体での創業機運を高めている。

■プロジェクトの歩み
  • 2013年11月 創業支援センターTAMA開設
  • 2014年1月 連携機関情報交換会の開催
  • 2014年2月~3月 連携機関による創業塾・セミナー等の実施(H25年度事業)
  • 2014年5月 TAMA創業支援シンポジウムの開催
  • 2014年12月 TAMA創業支援機関情報交換会の開催
  • 2015年3月 創業支援センターTAMA連携機関ミーティングの開催
  • 2014年4月~ 連携機関による創業塾・セミナー等の実施(H26年度事業)
  • 2015年6月 SOHOリレーフォーラム in 立川の開催
  • 2016年2月 創業支援センターTAMA情報交換会の開催
  • 2015年4月~ 連携機関による創業塾・セミナー等の実施(H27年度事業)
  • 2016年3月
    東京都インキュベーションHUB推進プロジェクト事業 終了(創業支援センターTAMAは継続)
  • 2016年6月 Next Step Meeting 2016の開催
  • 2017年6月 Next Step Meeting 2017の開催
■達成した数字
  • 約50 創業支援センターTAMAに関連した覚書を締結した支援機関数
    様々な強みを持つ支援機関と覚書を締結し、創業塾・セミナーなどを実施。創業者のニーズに対して、幅広く対応できる体制を整備した。
  • 107回・1680人 創業塾・セミナーの開催数および参加者数
    各支援機関の特徴を活かした創業支援事業を展開。女性起業支援、シニア起業支援他、業種特化型の起業支援も行い、多くの創業希望者に支援メニューを提供した。
  • 1944人 創業者数(当金庫独自算出)
    2013~2015年度にて1000人の創業者の輩出を目標に取り組んできたが、結果として、法人・個人含め、上記数値を達成した。

ここを学びたい
――国策、行政施策を、地域の身の丈ビジネスのために翻訳する!!

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 地域企業を育成・活性化することで地域金融機関も発展していく――。多摩信用金庫のCSVビジネスを解説する前に、都市銀行、地方銀行と、「信用金庫」の違いについてまず説明しておく必要があるだろう。信用金庫とは、「協同組織金融機関」と呼ばれる、営業地域が限定されている金融機関である。株式会社である銀行が株主の利益を優先するのに対し、地域の人々が利用者・会員となって互いに地域の繁栄を図る「相互扶助」を目的とするため、自ずと地域課題の解決を行っていくことが事業の主軸となっている。

  もう1つ、人口420万人を擁する多摩地域のポテンシャルについても触れておきたい。その面積は、23区の2倍、そこに30の市町村と、7つの商工会議所、21の商工会が存在している。その規模を、47都道府県と比べると、それは北海道、福岡、静岡に比肩し、海外で例えるなら、人口460万人のニュージーランドとほぼ同じ規模である。この地域のメインバンクシェアのトップが、多摩信用金庫なのである。取引先の事業規模は、中小・中堅事業者が中心だ。

 一方、課題もある。東京都庁は新宿にあり、同じ都内でも多摩地域には政策的な支援が行き届いていない現実がある。全国規模でいくと、各市町村3.8%くらいある産業振興予算が、多摩地域の市町村では、およそ0.5~0.8%の規模。ベットタウンとしての歴史が長いため、民生費や社会福祉に多くの予算が使われてしまっているのだ。

  こうした背景を踏まえた上で、改めて多摩信用金庫のCSVビジネスについて考えてみたい。まず、同信金は、こうした自治体との職員相互派遣を形にしてきた。この人事交流が、国策や地域課題、地域住民の創業意向の共有化につながり、市役所などとの戦略的連携協定に発展してきた。「RESAS(地域経済分析システム)」や創業支援、空き家対策など、様々なテーマで、自治体向け勉強会を積極的に開催し、関連部署の自治体職員が多数参加している。また、自治体とNPO団体との接点を作ったりするなど、官民が連携しての取り組みも積極的に行っている。

  地域事業者のリアルな交流学習の場も開設している。「ミニブルーム交流カフェ」だ。事業計画が作りきれていない創業希望者が、お互いに交流したり、起業セミナーを受講することができる。年間300~400人がそこに参加し、その2~3割が地域ならではのコミュニティビジネス、身の丈ビジネスなどの起業を実現してきたのである。

  また、広域で地域情報を発信するために、30の市町村をまたいでいる「広報たまちいき」という地域情報紙を発行し、現在6万5000部が多摩信金本店や地域の図書館・美術館など約500か所に設置されている。行政区と生活圏が一致しないため、各市が発信する情報では、住民にとって本当に必要な地域情報が掲載されていない、という不便さを解消したメディアだ。制作にあたっては、新聞社の地域支局を退職した人々に仕事を依頼し、雇用までも創出しているのである。

  今回、本文でご紹介した創業支援のプラットフォーム「創業支援センターTAMA」は、こうしたCSV活動の一つの集大成として形になったものなのだ。センターの最大の特徴は、行政区や管轄部局、官民の垣根を越え、創業前のノウハウ提供、拠点に関する情報提供、創業前後の資金調達支援、ネットワークを活用した支援機関に関する情報提供といった、創業予備軍に必要な機能をワンストップで実現できていることである。

  複数の行政や創業支援機関が、点で行ってきた活動を、線に結び、面に拡げる役割を、多摩信用金庫は実践してきたのである。

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