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スマートウェルネス体感パビリオン(ナイスグループ)

産官学でスマートウェルネス住宅の普及を促進

一般社団法人CSV開発機構・編【2017.6.28】

スマートウェルネス体感パビリオンの概観(写真提供:ナイスグループ)
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 すてきナイスグループ(以下、ナイスグループ)は、木材・建築資材の流通や一戸建住宅・マンションの供給などを手掛けるナイス株式会社を中核とするグループだ。本社がある横浜市を中心に全国で「耐震」「環境」「健康」を柱として住生活に関する事業を展開している企業である。

 2009年に、横浜市脱温暖化モデル住宅推進事業において最優秀提案者に選出され、モデルハウスを建設。2011年には横浜市において日本初となる全棟CASBEEのSランクを取得した分譲地を開発(全8区画)した。2014年には横浜市においてゼロ・エネルギータウンを開発(全19棟)している。

 そして2015年2月、本社のある地元・横浜市との間で、環境と健康に配慮した建築物の普及や木材の利用促進など5項目に関する包括連携協定を締結した。

 この包括連携協定に関する取り組みの1つとして、ナイスグループでは横浜市内で分譲する2階建ての一戸建て住宅については、すべて長期優良住宅の認定取得および、建築物の環境性能を格付けする「CASBEE横浜〔戸建て〕」の届け出を行っている。また、国土交通省が2016年4月から開始した住宅の省エネ性に関するラベリング制度「BELS」についても、同社は制度開始日から導入し、2017年5月末現在の取得件数は397件に上り、申請者として全国1位となっている。

 2015年10月にオープンした「スマートウェルネス体感パビリオン」も、この包括連携協定に基づく取り組みだ。ナイスグループ、横浜市、慶應義塾大学による産官学連携の共同プロジェクトである。3者はここで住まいと健康や環境との関係について普及啓発を行ったり、エビデンスの集積に向けた様々な実証実験を行ったりするなどしている。

 「スマートウェルネス住宅」とは多様な世代が、安全で安心、健康、省エネ、快適に暮らせる住宅であり、健康寿命の延伸に寄与して環境にも貢献するものとして、国土交通省を中心に国が推進している取り組みだ。2014~16年度には断熱改修を実施する住宅を対象とし、改修前後の温湿度や血圧などを測定する「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」が実施された。国の成長戦略「未来投資戦略2017」では戦略分野の1つ目に「健康寿命の延伸」を掲げ、中・短期工程表の中で具体的な施策として「スマートウェルネス住宅の先進モデルの構築・普及促進」を示している。

オープン記念セレモニー:林文子横浜市長(中央)らによるテープカット(写真提供:ナイスグループ)
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無断熱と高断熱の違いを体感できる「くらべルーム」(写真提供:ナイスグループ)
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 このパビリオンでは、「温熱」「空気」「睡眠」「安全・安心」「省エネ・エコ」をキーワードに、健康と住まいの関係性について様々な体感ができるほか、併設されたスマートウェルネス住宅仕様のモデルハウスで実際にその性能を体感することができる。

 また、慶應義塾大学伊香賀俊治研究室と共同で実証実験を実施し、断熱性能と血圧の関係性、内装木質化による睡眠及び知的生産性への影響に関するデータを集積し、日本建築学会などにその結果を発表するなど、健康と住まいの関係性についてのエビデンスの蓄積も行われている。

8000人超が来場、小学校の授業も

 さらには、省エネ・省CO2意識を高めるためのイベントなども横浜市と協力しながら展開。横浜市内の小学校の授業(家庭科・5年)や市民向けの講座、環境未来都市フォーラム関連イベントなどをパビリオンで実施している。

 パビリオンの累計来場者数は、2017年5月末時点で延べ8000人を超えた。英国保健省やJICA(国際協力機構)など、国際的な建築・医療関連行政機関も視察に訪れている。

 パビリオンにおけるこうした「スマートウェルネス住宅」の普及促進活動は、自社事業の競争基盤強化につながることはもとより、健康増進による医療介護支出の抑制や、温室効果ガス排出量の抑制の普及啓発といった、産官学共同事業としての公益的な側面も備えているといえる。

プロジェクトの歩み
  • 2015年2月
    横浜市とナイスグループとで環境と健康に配慮した建築物の普及や木材の利用促進などに関する包括連携協定を締結
  • 2015年10月
    横浜市と慶応義塾大学、ナイスグループとの産官学連携により「スマートウェルネス体感パビリオン」を横浜市鶴見区にオープン
  • 2015年10月~
    同施設にて慶應義塾大学伊香賀俊治研究室が健康と住まいの関係性に関する被験者実験を開始
  • 2016年1月~
    同施設にて横浜市立小学校の授業を実施
  • 2016年6月
    同施設にて横浜市が「よこはまZEH・アカデミー」を開催
  • 2016年10月
    ナイスグループが群馬県高崎市に「スマートウェルネス体感パビリオン」を開設
達成した数字(2017年5月末時点)
  • 累計来場者数
    約8000人:エンドユーザーが約5割、事業者が約4割、行政・学術関係者が約1割。イギリス保健省やJICAなど、国際的な建築・医療関連行政が視察。
  • 実施した実証実験の回数
    7回:慶應義塾大学伊香賀俊治研究室とナイスグループと共同で被験者実験を実施。断熱性能と血圧の関係性、内装木質化による睡眠及び知的生産性への影響に関するデータを集積し、日本建築学会等へ発表。
  • 横浜市によるイベント回数
    14回:横浜市内の小学校の授業(家庭科・5年)の授業や市民向けの講座、環境未来都市フォーラム関連イベントなど、横浜市と協力しながら関連イベントを開催。

ここを学びたい
――行政と共に、行政をリードする価値とルールをつくれ

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 1950年に木材市場運営会社として創立したナイスグループは、住宅資材事業に加え、マンション・戸建住宅の施工・分譲を手掛ける、ハウジングソリューションカンパニーである。特に、東京、神奈川を中心に、新しい間取り発想によるコスト性の高いマンションを供給し、業界を席巻した実績を持っている。戸建住宅事業においては、最新技術の「構造用集成材」や高強度のオリジナル専用金物を使用した木造軸組工法「パワービルド工法」を開発し、建築基準法の1.5倍の耐震強度(耐震等級3に該当)をはじめ、高い住宅性能を標準とする「パワーホーム」などを販売してきた。

 そこでは、LOW-Eペアガラスの樹脂サッシや木質系断熱材などの組み合わせで建物の熱の出入りをできるだけ抑え、「HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術委員会)」が提唱する最高レベルG2の断熱性能も形にし、国が2020年までに50%以上の普及を目指している「ZEHビルダー」として登録されている。「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー住宅)」とは、高い断熱性能や省エネルギー性能に優れた住宅設備で消費エネルギーを減らし、さらに消費した量以上のエネルギーを太陽光発電などで創り出す「スマートハウス」のことである。

 スマートハウスやZEH、そして住宅の性能評価の等級は、住宅選びの際には重要な要素になるはずだが、なかなか一般生活者に馴染みづらい。前段ではあえて専門的な用語も交えながら説明をしたが、ナイスグループが鶴見の本社前に開設した「スマートウェルネス体感パビリオン」は、まさにそれらを”体感”させて理解させる、スマートハウスの教育・周知施設として開設されたものだ。

 パビリオンを訪ねると、共同研究を行っている横浜市や慶応義塾大学による施設の解説映像から始まり、高い断熱・気密を促す建材の実物展示、異なる断熱空間に身を置いた時のバイタルサイン、例えば断熱性の低い居室に入ったときの血圧の変化を、体感を通じて体験できる。

 もちろんそこでは、ビジネスとしての事業益を確保するための仕掛けも形になっており、パビリオンに併設されたモデルハウスツアー、そこにおけるユーザーのモニタリングなども行われている。いわば「事業拠点を活用したCSV施設」なのだ。

 もう一つ、この施設名称で注目してほしいポイントがある。「スマート」の意味については概説したが、そこには「ウェルネス」という言葉が添えられている。国は今、国土交通省を中心に、省エネ、創エネなどのエネルギー合理化を形にしながら、居住者の健康寿命の延伸に寄与する住宅の普及を奨励し始めたのだ。

 ウェルネス建材の代表は、「木材」である。木材は、高い調湿性を持つため、公共施設への導入で様々なエビデンスが明らかになったように、感染症の罹患率が格段に低下することなどが分かっている。また、住空間内の木の活用度によって光環境、照明環境が変わり、睡眠効果や慰安効果をもたらすこともできるのだ。

 このパビリオンの戦略性はここにある。国はいまだ、「スマートウェルネス住宅」の明確な性能評価指標や評価基準を定義していない。それを行政や研究機関と協業しながら、実証実験を繰り返し、そのスタンダードを確立することを目指しているのだ。

 木材問屋としてスタートしたナイスには、木材についての豊富な知見がある。それらを活かしながら行政と協業し、さらには行政に先んじたウェルネス住宅の評価指標や認証ルールを確立することができるはずである。

 こうして国が進める事業の「ルール形成戦略」に民間企業が参画していく。そこには間違いなく、参画した企業の先行利益が約束されている。ナイスグループは今、耐震住宅、省エネ住宅を土台としながら、ヘルス(健康)、ウェルネス(快適)、ウェルビーイング(幸福)な住宅の未来を、スマートウェルネス体感パビリオンから、創発しようとしているのである。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/ppp/atcl/tk/PPP/092400011/061200023/