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「JAPAN FRUIT」によるインバウンド販促支援(J&J事業創造)

農産物の検疫サポートで外国人旅行者の買い物を手軽に

一般社団法人CSV開発機構・編【2017.4.24】

 J&J事業創造(東京都港区)は、旅行会社のジェイティービーとクレジットカード会社のジェーシービーが共同出資で2006年に設立した企業で、両社の得意領域を掛け合わせた新規事業の開発を推進している。中でも力を入れているのが、訪日外国人旅行者の免税手続きに必要な書類を自動作成できる「J-TaxFreeシステム」だ。旅行中のショッピングをサポートするだけでなく、免税手続きの省力化につながると多くの免税店や商店街などで導入されている。

 そのJ&J事業創造が新たに取り組んでいるのが、訪日外国人旅行者に、いちごやメロンなどのフルーツをおみやげとして持ち帰ってもらうためのサポートビジネス「JAPAN FRUIT」プロジェクトである。

日本のフルーツの美味しさや持ち帰り方などを啓蒙する「JAPAN FRUIT Shopping Guide」のウェブサイト(一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会)
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 日本フルーツの品質が高いことは、海外でも有名になっており、東南アジアではメロンやいちご、りんごなどの日本産のフルーツが高価格で販売されている。また、フルーツの収穫体験ができる観光農園は、近年訪日外国人旅行者に人気の観光スポットとなっている。しかし、農産物の持ち出しには「検疫」というハードルが存在しており、この検疫をいかに円滑に行うかがポイントであった。

検疫代行でインバウンド需要に対応

 農畜産物を海外に持ち出す際の検疫のルールは、国、品種、持ち出し方(携帯品・貨物・郵便)ごとに異なっている。例えば、手荷物(携帯品)として持ち出す場合、台湾ではほとんどの品種は持ち出せないが、逆に香港ではほとんどの品種を検疫せずに持ち出せる。

 しかし、検疫基準が、国ごと、対象品目ごとに異なることは、訪日外国人にも、フルーツを販売する観光農園にも認知が進んでいない。その結果、出国間際の空港カウンターで大急ぎで必要な書類を記入することになったり、あるいは販売する側に「海外に生ものは持ち出せない」という誤った認識があることで積極的な販売が推進されなかったりという問題が起きている。

くだものの検疫基準は、国ごと、対象品目ごとに異なる。「諸外国に植物等を輸出する場合の検疫条件一覧(早見表):携帯品編」(農林水産省)の一部
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 こうした状況を改善するために、J&J事業創造は、事務局を担うジャパンショッピングツーリズム協会とともに農林水産省と連携し、訪日外国人がおみやげとして日本の農畜産物を持ち帰ることを促進するための課題発見、解決に向けた実証実験を行った(農林水産省「おみやげ農産物植物検疫受検円滑化支援事業」)。

 このプロジェクトのスタートは2015年度。検疫代行の実証実験を北海道のメロン(2015年7月~10月)、福岡のいちご(2015年12月~2016年3月)でそれぞれ実施した。

実証実験で試行されたモデル販売のイメージ図(資料:一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会)
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実証実験で使用された案内パンフレット(資料:一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会)

 具体的には、観光農園でおみやげの購入希望があった場合、訪日旅行者の帰国日に合わせて、商品を空港に宅配便で配送するという有償サービスだ。空港側で商品を受け取った事業者が検疫手続きを代行し、受検済の商品を空港の旅行会社カウンターなどの受け取り場所で訪日旅行者に引き渡す。これによって、観光客は検疫の手続きをする必要がなくなるとともに、鮮度のよいフルーツを持ち帰ることができるというメリットがある。観光農園側にとっても、売っていいことがはっきりしている相手にならば、積極的なアプローチが可能になる。

2年後をめどに事業化を目指す

 その後2年間にわたり行われた実証実験は、サービスを利用した観光客、観光農園側双方から高く評価されたが、国ごと品目ごとに異なる検疫の仕組みを訪日旅行者、観光農園の双方に啓発すること、また新鮮なフルーツを引き渡すために必要な空港への冷蔵庫の設置など、本格的なビジネスモデル構築には課題も残る結果となった。

 そうした状況を踏まえて、J&J事業創造は、空港への冷蔵庫の設置など物流面の整備を進め、2年後をめどに実証実験時より多くの場所で、より多くの品目を対象に検疫手続き代行を実現し、訪日旅行者がおみやげとして手軽に持ち帰られるようにするサービスを事業化する計画だ。将来的には、訪日外国人が帰国した後も、継続的に“お取り寄せ”ができる仕組みの構築も視野にいれている。

プロジェクトの歩み
  • 2015年6月~2016年3月
    農林水産省「おみやげ農産物植物検疫受検円滑化支援事業」の実施、関係者および各地方自治体との連携
  • 2016年6月~2017年3月
    農林水産省「おみやげ農畜産物検疫受検円滑化支援事業」の実施、関係者および各地方自治体との連携強化
  • 2017年4月~
    J&J事業創造 自主事業「訪日旅行者向け 観光農園(フルーツ狩り)紹介サイト」(仮称)の構築
現在までの実績・今後の目標
  • 2015年
    検疫円滑化勉強会に参加した人数:約300人(中央省庁および地方自治体、農畜産物販売事業、観光事業者、有識者など、業界・業種・性別・年齢の枠を超えた幅広いネットワークを構築)
  • 2016年
    空港5カ所にて空港で検疫代行スキームの構築
  • 2017年(目標)
    観光農園500カ所を外国人に紹介するサイト構築
  • 2018年(目標)
    検疫代行ビジネスの開始

ここを学びたい
――ビジネス化に必須の「産業エコシステム」構築

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 以前この連載で取り上げた1本5400円の冷飲用ボトリングティ「吟穣茶」は、JR九州のプレミアム観光トレイン「ななつ星」や、高級ホテル、航空機ANAの国際線ファーストクラスなどでの国内提供に採用された。それだけにとどまらず、欧米やASEANでもその美味しさとインパクトが話題をまき始めている。

 鹿児島県の茶舗・下堂園が開発した「吟穣茶」は、JAS認定の地元有機茶葉を、地元の水で抽出する際に、日本の超音波を用いて旨味を引き出している。このように、付加価値の高い日本のテクノロジー、デザイン、クリエイティブの粋を凝らして生産・加工した食農製品は、間違いなくインバウンドや海外マーケットにも訴求する。

 私は、こうした青果物や食品の開発を、「農芸品」という新しい日本のブランドとしてマーケティングを図りたいと提起してきた。工業製品にジャパンバリューの「工芸品」があるなら、食農製品にも「農芸品」があるべきだと考えているからだ。

 北海道のメロン、福岡のいちご、青森のりんごなど、日本の高級フルーツは、長い時間をかけた改良研究が生み出した、日本が誇る「農芸品」である。事実、インバウンドのお土産や、観光農園における集客という形で、そのインパクトはすでに顕在化しているのだ。

 こうした「農芸品」をビジネスにするためのポイントは、そのための「産業エコシステム」を生み出すことである。すなわち、「農芸品」を国際流通させるための「バリューチェーン」を構築することが求められているのだ。

 「農芸品」をインバウンドに売るためには、まず購入者の個人認証と決済処理がいる。J&J事業創造に参画するカード会社・ジェーシービーは、その決済機能を持っている。大手の旅行代理店であるジェイティービーが、パナソニックやNECなどの個人認証技術のシステムをそこに組み入れたことが、今回の「食品検疫システム代行サービス」の一番のポイントである。

 さらに、ヤマト運輸などの物流会社や、大手タクシー会社と連携すれば、インバウンドが指定するホテル、空港、本国の自宅にお土産を配送することができる。そして、ジェイティービーが、海外での「日本の農芸品プロモーション」を戦略的に行えば、このバリューチェーンが持続的に回っていくのだ。

 さらに、全中とその下部組織であるJAのシンクタンク、JC総研がこの事業構想に発展的に協力している。ファーマーズマーケットを営むJAと連携することで、そこをインバウンド販売の拠点化することが可能になる。今回の実証においても、J&J事業創造が検疫代行を組み入れたデリバリーを形にすることで、JAサイドも計画生産・計画配送が可能になると高い評価を受けている。国際線乗り入れの空港を持つ自治体のJAが、インバウンドマーケティングに目覚めることで、生産者の経営意識も間違いなく向上する。ファーマーズマーケットも、単なる青果物や惣菜の物販に留まらず、「農芸品」の戦略的な開発に乗り出す事業体も生まれてくるだろう。「地産地消」から「地産外消」への戦略的バリューチェーンを生み出す可能性を示したことが、今回の「JAPAN FRUIT」プロジェクトの最大の成果だと考えている。

 このビジネスモデルは、言うまでもなく、地域の漁協や漁連と連携した「水産物の国際流通」にも使える。さらに言えば、トランクなどの「インバウンド・バゲージデリバリー」にも簡単に応用できるはずである。

 我が国にはまだ、過去の産業構造や商慣習に基づく、様々な障壁や規制が存在する。それを新しい民間協業によって乗り越え、「ワンストップビジネス」として形にしていくことが、これからの公民連携の大きなフィールドになるものと確信している。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/ppp/atcl/tk/PPP/092400011/041700022/