地域を元気にするCSV

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地方創生ファンド(フューチャーベンチャーキャピタル)

「もりおか起業ファンド」のケースを中心に

一般社団法人CSV開発機構・編【2017.3.16】

 京都市に本社を置くフューチャーベンチャーキャピタル(FVC)の「地方創生ファンド」は、全国の地域金融機関ととともにファンドを組成し、創業間もないそれぞれの地域の地元企業にリスクマネー(資本金)を提供、地域経済の活性化に金融という側面からの貢献を目指している。投資後も株主として経営に関与しながら企業価値の向上・事業の拡大を支援する手法が特徴だ。FVCは既に全国10カ所でこうした「地方創生ファンド」を組成・運用しており、各地域で成長企業を育てようとしている。

「地方創生ファンド」では、地域の創業率を向上する「創業」、地域の廃業率を減少させる「事業承継」、地域課題の解決に取組む「CSV」を地方創生ポートフォリオとし、最適解を提案する。また、これらのファンドを適用した事業、ビジネスモデルには、様々なハンズオンプランを用意し、事業の永続化、バリューアップを目指す(資料:FVC)
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ファンド組成にとどまらないFVCのベンチャー支援

 ベンチャーキャピタルといえば、成長が期待できる創業期の企業に対して投資を行い、企業価値を向上させたうえで、株式上場などの機会で保有する株式を売却し、投資を回収するというビジネスモデルが一般的だ。これに対してFVCのビジネスモデルは、地域金融機関や自治体との連携により、必ずしもIPOを目指さない企業に対しても資金を投入し、必要な経営支援を行いながら企業を成長させ、ある程度安定成長期に入った段階で、経営者や取引先などに株式を売却することで投資を回収するというものだ。

 選りすぐりの一社を上場させて大きな利益を狙うのではなく、少しでも多くの企業を成長企業に育てて地域経済を活性化させることで利益の拡大を目指しているのである。

 また、これらのファンドでは、投資委員会による審査を経た出資先について、FVCが月1回から四半期に1回会社を訪問して事業活動をモニタリングし、必要なサポートを逐次提供する体制が敷かれている。単なる資金提供ではなく、事業を成功に導くための経営支援が実務レベルで提供される仕組みとなっているのだ。

 地方創生を推進していくうえで、地方における創業支援の中核的存在として機能することが期待されているのが、地方銀行や信用金庫、信用組合などの地域金融機関である。地域金融機関は元来、地域の中小事業者のメインバンクとして、経済の支援・活性化の推進役として機能を求められてきた。しかし、人口減少による市場の縮小、低金利政策による収益の圧迫など、厳しい経営環境が続く中、金融資産保全を優先し「担保」や「保証」を重視した低金利融資中心の事業運営が主軸となり、担保や保証が十分に用意できない将来性のある中小企業への資本投入などリスクマネーの提供が進まない現状がある。FVCの「地方創生ファンド」は、こうした地域金融機関の課題解決に向けても貢献しているといえる。

盛岡市では市の産業支援センターの運営も担う

 こうしたFVCの取り組みの典型ともいえるのが盛岡市で展開する「もりおか起業ファンド」だ。

 FVCは、2012年8月、盛岡信用金庫、盛岡市、岩手県滝沢村(現:滝沢市)と共同で「もりおか起業投資事業有限責任組合(もりおか起業ファンド)」を組成。その後、2013年5月に岩手県矢巾町、紫波町が参加し、出資総額が1億円となった。1社当たりの投資額は300万円~500万円。投資対象は盛岡信用金庫営業エリアに本社を置く企業(盛岡市など岩手県内19市町村)で、原則として会社設立予定または設立から5年以内の企業を支援している。現在、8社への投資を実行済みである(2016年12月時点)

「もりおか起業ファンド」のファンドスキーム(資料:FVC)
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もりおか起業ファンドパンフレット(資料:FVC)

 ファンドの出資、経営支援を受けて大きく成長した企業も存在する。「もりおか起業ファンド」の第1号投資先である浄法寺漆産業だ。2015年秋のイベントでトヨタ自動車「アクア」の外装下部と内装に漆塗りを施したコラボで話題となり、2016年には、トヨタの高級車ブランド・レクサスが地域の特色を生かして新しいモノづくりに取り組む若き職人、工芸家、デザイナーを発掘・サポートする「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」のに選出された。そのほか、スイスの高級万年筆メーカー、カランダッシュ社とのコラボレーションなども行い、全国的に注目を集める存在になっている。

浄法寺漆産業の松沢社長(上段左から3番目)は、2016年度「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」の「匠」52人のうちの1人として選出された(LEXUS NEW TAKUMI PROJECTのウェブサイトより)
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 浄法寺漆産業は、もともと岩手県の職員だった松沢卓生社長が、伝統工芸である「浄法寺漆」の魅力に惹かれて独立、個人事業主として2009年創業したベンチャーで、2012年にこのファンドの出資を受けるために株式会社化した企業である。FVCから提供される経営ノウハウや販路拡大に向けたアドバイスやネットワークの紹介などもあり着実に販路を拡大している。

 FVCの盛岡地区でのベンチャー支援の展開はファンド組成だけにとどまらない。2016年4月からは、盛岡市の産業振興やスタートアップの拠点である盛岡市産業支援センターの運営にも、指定管理者として携わっている。盛岡市の公募に応募した4社の中から、ファンド組成・運用による地域企業の育成と産業の活性化の実績を評価されて選ばれた。同センターは、起業や事業の相談に応じたり、ビジネスマッチングのコーディネートなどを通じて地元経済活性化の推進役を担う存在として期待されている。

プロジェクトの歩み(もりおか起業ファンド組成以降の主な地方創生ファンドの動き)
  • 2012年8月 盛岡信用金庫・地元自治体からの出資を受け、盛岡広域地域の起業家を支援する「もりおか起業ファンド」を組成
  • 2014年9月 大阪信用金庫からの出資を受け、大阪の起業家を支援する「おおさか創業ファンド」を組成
  • 2015年1月 阪神淡路大震災20年事業として、神戸信用金庫と共同で防災関連事業、成長関連事業を支援する「こうべしんきん地域再興ファンド」を組成
  • 2015年10月 秋田信用金庫・地元自治体からの出資を受け、秋田広域都市圏の創業活発化を目的として「あきた創業ファンド」を組成
  • 2015年10月 秋田県信用組合(けんしん元気創生)と共同で秋田市に所在する特定企業への投資を目的に「秋田元気創生ファンドファンド」を組成
  • 2015年10月 いわき信用組合(いわしんRITAパートナーズ)と共同で磐城地域の起業家を支援する「磐城国地域振興ファンド」を組成
  • 2015年12月 第一勧業信用組合(恒信サービス)と共同で東京都の起業家を支援する「かんしん未来ファンド」を組成
  • 2016年4月 京都市内のスタートアップ段階の企業へのサポートを目的に「京都市スタートアップ支援ファンド」を組成
  • 2016年6月 福島信用金庫と共同で産業の振興を通して福島の地域創生を支援するファンド「ふくしま夢の懸け橋ファンド」を組成
  • 2016年7月 神戸信用金庫と共同で新分野への挑戦や事業の拡大で雇用創出が見込める企業への支援を目的に「こうべしんきんステップアップファンド」を組成
現在までの実績
  • 地方創生ファンド組成数:10ファンド
  • 組成総額:18億円
  • 累計投資金額:4,6億円
  • 累計投資先数:53社

ここを学びたい
――自治体は、プロデュース力を持つエンゼルと協業せよ!!

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 信用も実績もない創業期の企業にとって、ベンチャーファンドが提供するリスクマネーは、言うまでもなく事業を育てていく上で、このうえなく貴重である。しかし、多くのエンゼルのビジネスモデルは、選りすぐりの一社に対して、投資、企業価値の向上、株式上場を短期間に実現させ、保有する株式を売却して投資回収を行うというものである。このビジネスを農林水産業に例えれば、養殖漁業や施設園芸のモデルに近い。

 一方、今回取り上げたFVCは、自治体や地域金融機関との連携により、複数の地場企業を成長させて地域経済を活性化させ、利益の拡大を図ってきた。そこでは、投資した企業に対し、事業の定期的なモニタリングを実施し、事業を成功させるための経営支援体制を実務レベルで提供するというビジネスモデルを確立している。

 同社の美質は、経営管理ノウハウの提供にとどまらず、販路の紹介やパートナー企業とのマッチング、そして事業コラボレーションのプロデュースまでを、手間暇を掛けて取り組んできたことにある。地域のBtoB企業を、BtoC企業と協業させ、付加価値の高い商品開発などを数多く形にしてきた。盛岡における漆ビジネスなどが、その分かりやすい成果である。

 すなわち、プロジェクトのプロデュース力を持っていることが、同社の大きな強みでもあるのだ。企業経営者にとって、お金も大切だが、もっと大切なのは、経営のサポート体制だからだ。

 このように見ていくと、同社の実践は、育林、造林、間伐、林道整備、製材、建材開発、住宅供給をワンストップで行う、先進林業のビジネスモデルに近いことが分かる。

 こうした同社のファンドが、なかなかうまく機能していない補助金や助成金と決定的に違うのは、投資先が成長してくれなければ、自分たちのビジネスが成り立たないということだ。だから、一緒に成長しようと必死になるし、経営のPDCAサイクルをしっかり回すことができる。同社のようなエンゼルを呼び込むことで、自治体は、地域産業活性のエンジンを手に入れることができるのだ。

 また、投資を受けた企業にとっても、国内外の企業との協業行うことで、その新しい商流を利用できたり、協業先の商品開発力やデザイン力を学び取ったりすることもできる。

 同社の実践で特筆したいことは、盛岡市産業支援センターに、指定管理者として関わっていることである。スタートアップの相談や、ビジネスマッチングのコーディネートのノウハウをこうしたセンターが持つことは、これからの自治体にとって、一つの新しい経営モデルになる。全国のテクノパークやデザインセンターは、こうした盛岡市の選択から、多くのものを学ぶべきである。

 そして、今回はご紹介できなかったが、同社は地域の大学に対しても、定期的な「ベンチャー・スタートアップセミナー」を実施し、学生たちに事業開発や起業についてのレクチャーやアドバイスを行っている。地域の大学にとっても、同社のようなエンジンを呼び込むことで、新しい大学経営の活路を見出すことができるように思う。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/ppp/atcl/tk/PPP/092400011/030200021/