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エコカートによる次世代交通対策事業(輪島商工会議所、ヤマハ発動機)

一般社団法人CSV開発機構・編【2017.1.30】

公道を走行する「エコカート」。電動式ゴルフカーを改良した(写真提供:輪島商工会議所)
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 朝市と輪島塗で有名な石川県輪島市は、能登半島の北西に位置し、豊かな緑と海に囲まれたまち。北陸新幹線の開通もあって、全国から多くの観光客が訪れる地方都市である。

 しかし、人口減少・少子高齢化などによる利用者減により、バスなどの公共交通機関が衰退。移動手段を持たない高齢者の生活の足の確保が、地域の活性化における大きな課題となっていた。また、観光地としての輪島市は、朝市などの観光スポットがエリア内のあちこちに点在していることから、これらを回遊する観光の足も必要とされていた。

 こうした課題の解決のため、輪島商工会議所が中心となり、「エコカート」で市街地内を回遊させる次世代交通手段の導入を推進してきた。ヤマハ発動機の協力を得て、電動式ゴルフカーをベースとした「エコカート」による新交通システムの構築に取り組んでいるのだ。

エコカート外観と主要スペック(写真・資料提供:輪島商工会議所)
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 「エコカート」は、ゴルフ場で使用される電動カーをベースに、公道を走行できるように改良したものだ。排気ガスを出さないため環境に優しいだけではなく、低床構造で高齢者や子どもでも乗り降りしやすい、維持運営コストが低く抑えられるといった特徴がある。

 また、ゴルフ場の電動カーのように、「エコカート」にも電磁誘導による自動運転機能を取り入れれば、システムの安全チェックが、人の運転をアシストすることにより、安全性・操作性が向上することとなり、地元を良く知る高齢者を、案内ガイド兼ドライバーとして雇用することが可能となる。交通インフラ整備とともに、新たな雇用創出による地域の活性化、という一挙両得が見込めるのだ。

特区提案は不採用も、粘り強い協議で公道走行を実現

2014年11月12日の公道走行実験出発式の模様(写真提供:輪島商工会議所)
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住民を乗せて輪島市内を走行するエコカート(写真提供:輪島商工会議所)
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 このプロジェクトへのゴルフカーの提供、公道走行向けの改良を手掛けたのは、ゴルフカーメーカーとして国内最大手のヤマハ発動機である。ヤマハ発動機は、国内のみならず、北米を中心としたゴルフ場で豊富な導入実績を持つが、生活圏内での短距離移動用の交通手段としてゴルフカーを活用することができれば、より大きな市場を開拓することができる。

 しかし、ゴルフカーを公道で走行させるためには、道路交通法や道路運送車両法などの規制が存在するため、多くの社会実験は観光施設の敷地内など、非公道で行われてきた。だが、それだけでは低速走行するゴルフカーが他の車両や歩行者に与える影響など、実際の社会実装に向けたデータが取得できないため、本格的な地域交通インフラ整備にたどり着けない。

 そこで輪島商工会議所は、2012年、政府に対して構造改革特区における規制の特例措置の提案を行ったが、採用には至らなかった。しかし、輪島商工会議所を中核としたプロジェクトチームは、非公道での自動走行実験と並行して、公道での走行を可能にするため、経産省・国交省自動走行ビジネス検討会の座長を務める東京大学大学院新領域創成研究科人間環境学専攻の鎌田実教授からの助言を仰ぐなどしながら、国土交通省や警察関係機関との調整をスタート。幾度となくプロジェクトへの理解を得るためのミーティングを重ね、ようやく2014年11月に、ウインカーやバックミラー、ライトなどを備え付けることにより軽自動車ナンバーを取得。翌2015年から市内2コースでの運行サービスを開始し、翌年には、1コース追加して現在3コースで運行を行っている。

 エコカートは、現在までに非公道での実証実験の時期も含めて、延べ5000人程の人々に利用されてきた。2016年11月からは、走路に埋設した磁石によってカートを自動で誘導する「電磁誘導」による公道での自動走行実験を開始。走路上の障害物回避などの際に、有人操作を優先するオーバーライド機能を付加することで、安全対策を向上させた。現在、市街地に8コース程度の自動走行コースの構築を目指して、交通政策に関する関係機関や利用者層である市民関係団体との協議体を組織し、利活用促進策や運行の在り方などについて協議を重ねている。様々なデータを蓄積しながら、新たな交通インフラとして、着々とステップを踏んでいる。

 
■プロジェクトの推移
  • 2010年~2013年
    住民、観光客の交通手段調査の実施。
    市街地内や観光ポイント(非公道)でエコカートの走行実験を実施。
  • 2012年2月
    構造改革特区申請を提出するが、取得ならず。
  • 2013年
    国土交通省及び警察関係機関との調整。
  • 2014年11月
    エコカート2台について軽自動車ナンバーを取得。
    エコカートの公道でのテスト走行を開始。
  • 2016年11月
    エコカートによる公道での自動走行開始。
■達成した数字
  • 2015年度における乗車人数
    2170人
  • 2010年度から2015年度までの累計利用者数
    4932人(2011年度870人、2012年度1300人、2013年度287人、2014年度305人、2015年度2170人)

ここを学びたい
――メーカーとの協業で「地域の足は、地域が創る」

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 人口の都市集中による交通渋滞が恒常化する一方で、少子高齢化や財政難、公共交通機関の削減にさらされている全国の地方都市では、昨今喧伝されている免許返納後の移動手段も未整備で、高齢者や子育て世代などの移動困難者、外出機会低下による不活発病者が増加し、日常の足となる二次交通、三次交通の確保が大きな課題となっている。

 そうしたなかで、ベロタクシー(自転車タクシー)を導入した福井県敦賀市など、路面電車・ライトレールを整備した富山市、人力車を観光の足にしている高山市といった、新しい二次交通システムを導入する自治体が台頭してきた。輪島商工会議所がその構築に取り組んでいる電動式ゴルフカーをベースにした「エコカート」による新交通システムも、こうした先導的事例の1つである。

 輪島市は、「輪島の朝市」に象徴される観光スポットを持ち、北陸新幹線が開通したことから、観光客も増加している。輪島商工会議所はまず、地域住民や観光客の交通手段調査を行い、徒歩と自動車での移動をつなぐ、低速交通システムの必要性に辿り着いたのだ。

 ここに登場するのが、商工会議所が立ち上げた「輪島次世代交通対策協議会」に委員として名を連ねる、ヤマハ発動機である。同社は、「陸・海・空で感動創造」をコンセプトに、モーターサイクル、ビークル、パワープロダクツ、船艇、UMSなどのモビリティ事業を展開しているが、なかでもゴルフカー事業は、北米や日本をマーケットに、17万台といわれる市場規模の約3割のシェアを誇っている。

 今回、実証が進められてきた輪島市のエコカートは、このゴルフカーに、ウインカー、バックミラーなどを備え付け、軽自動車のナンバーを取得したものである。新交通システムとしてのこのエコカートには、いくつものメリットがある。

 第一は、まちを楽しめること。時速6km~20kmのゆっくりとした速度で走行することから、風景を楽しめ、乗り心地も良く、騒音の心配もない。第二は、乗り降りがしやすいこと。低床構造で、高齢者や子どもも乗降しやすいバリアフリービークルであること。そして第三は、電動なので排気ガスも出さず、環境にも優しいこと。さらに、将来的には、自動運転や無人運転も可能で、低コストな交通システムとしての運用も期待されているのだ。

 こうしたユーザーメリットに対し、自治体にとってもいくつものメリットがある。コミュニティバスやオンデマンドバスなどの自治体の費用負担の軽減になるだけでなく、高齢者や観光客への利便性の高い移動手段を提供することにより、地域住民の安心、安全と、観光地としてのブランディングにも確実に貢献するからだ。

 輪島商工会議所では現在、戦略的なエコカートのルート策定に着手しているが、地元のミュージアムを周遊することで、観光地としての魅力度を向上させたり、商業エリアともつながることで、商店街の活性化への貢献も期待できる。

 高齢化が進む将来的な街づくりにおいては、多様な低速交通システムが台頭してくることは確実である。こうした近未来を見越し、モビリティの公道走行実験を行い、様々なデータを蓄積することは、メーカーであるヤマハ発動機にとっても大きな意味を持つ。

 また、技術開発において、社会実装に向けた、こうした実証実験のフィールドを欲している企業は少なくない。自治体は、こうしたフィールドを提供し、企業と共同して将来技術の開発支援を行うことで、企業を誘致し、地域経済を活性化させる、WIN-WINの関係を構築することができるのだ。

 そして、今回のエコカートによる新交通システムの実証実験を、地元の商工会議所が先導して行ったことに、大きな意味がある。アメリカのフロリダ州にある、人口11万5000人のザ・ビレッジスでは、すでに6万5000台のゴルフカーが走っている。ジョージア州のピーチツリーシティでは、1万3000台を超えるゴルフカーが市に登録され、ショッピングモールへの移動や高校生の通学に利用されているのだ。こうした新交通システムを商工会議所が先導し、地域の賑わいをデザインする。地域の足は、地域が創る。輪島商工会議所の実践を、その先進的モデルとして、高く評価したいと思う。

この記事のURL http://www.nikkeibp.co.jp/ppp/atcl/tk/PPP/092400011/011600020/