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まちづくりマスター ~切り拓くものたち~

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桂川憲生氏(岐阜県東白川村地域振興課 課長)

佐保圭=フリーライター【2016.8.19】

光ファイバーが役場と村民をつなぐきっかけに

 村役場が住宅を売るようになったのには前段のストーリーがある。桂川氏が役場に入って20年経った42歳のときのことだ。テレビがアナログ放送から地上デジタル放送への移行が始まった。山間部の東白川村ではデジタル電波の受信が困難で、電話やIT環境の整備も含めて、光ファイバーによるケーブルテレビが導入されることになった。導入後、行政情報の告知を中心とした報道番組を村で制作し、放映するようになった。

 番組をつくるかたわら、2003年、桂川氏はケーブルテレビのホームページのなかで、村の産物をネットで販売する取り組みも始めた。「コケ、木材、石……とにかく、村で取れる素材の写真を撮ってサイトにあげ、問い合わせ先を紹介しました」。村が直接販売するわけではなく、提供者を顧客に紹介するB to Bプラットフォーム「天然素材カタログ」は、名古屋高級料亭が装飾用の枝付きの栗やススキの葉を購入したり、寿司屋が皿代わりの朴葉や檜を取り寄せたりするなど、予想以上の実績を上げた。

 すると、2007年頃、ある工務店が「ネットで家も売って、自分たちの仕事も増やしてほしい」と言ってきた。確かに、村の主要産業の総生産は人口減少とほぼ同じかたちで徐々に減少していたが、建設業だけが激しく下がっていた。

東白川村の主要産業の総生産の推移(平成14年を100とした場合)(岐阜県統計より。作成:東白川村)
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 建築材に東白川村のブランド木材「東濃檜」を使った住宅が売れるようになれば、やはり村の主要産業の1つである林業の再生にもつながる可能性もあった。「工務店を立て直せば、木材の需要も増える。村に雇用が生まれ、お年寄りの子どもや孫が帰って来られるかもしれない。それで、悲しんでいるお年寄りを一人でも減らせるなら、リスクをとってもやる価値はある」。そう考えた桂川氏は、注文住宅のネット販売に挑み始めた。

 桂川氏は、この事業で東白川村の東濃檜がリーズナブルな価格であることを広く知ってもらおうと考えた。「1980年頃、村の東濃檜はブランド性もあり1立方メートルあたり12万円でした。しかし現在は村の檜も1万7000円くらい。とてもいい建築材ですが、決して高くはない」(桂川氏)。

東白川村営の木材さばき場。後ろには東濃檜に覆われた山が見える(写真:佐保圭)
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地元の工務店に競争させる

 村役場がネットで家を売るという前例のない取り組みは、最初、役場内でもまったく相手にされなかった。「村にそんなお金はない」と言われた桂川氏は、2008年度、2009年度の総務省地域ICT利活用モデル構築事業の開発事業費の約5800万円を取り付け、課題をクリアした。

 最も苦労した取り組みは「工務店に競争させること」だった。それまで、村の工務店は、昔ながらの古いやり方で仕事を進めていた。村が家を売り、その建築を任されると聞いたとき、村の工務店の多くが順番に仕事を回してもらえるものと思っていた。ところが、桂川氏は入札を求めた。何軒かの工務店は「役場のくせに、俺たちを仲違いさせるつもりか!」と激怒した。しかし、桂川氏は考えを変えなかった。

 ネット販売の世界では競合企業のサービスの価格を比較するのは常識であり、入札でなければ価格競争力を鍛えることはできなかった。競争力を強化しないかぎり、売れたとしてもいつか都会の大手企業に仕事を独占され、地方の工務店は壊滅すると考えたからだ。最初は3社からしか賛同を得られなかったが、根気強く説明を続け、やがて、村内の11社(現在は10社)すべての工務店が参加を決めた。

 こうして、2009年12月、東白川村が主体となって運営する住宅受注システム「フォレスタイル」がオープンした。その後、受注は順調に伸び、フォレスタイルで建築を請け負った村の工務店は約30億円以上を売り上げ、東白川村の2015年の村民総所得は2009年度に比べて16%程度向上した。これらの成果により、2015年3月、東白川村は地域情報化大賞(総務大臣賞)を受賞した。

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