藤里町は秋田県北部に位置する人口3600人余、高齢化率42%強の過疎の町である。その町のひきこもり支援の取り組み(引きこもり者及び長期不就労者及び在宅障害者等支援事業)が大きな成果を上げ、注目されている。けん引しているのは藤里町社会福祉協議会会長の菊池まゆみさんだ。5年がかりで福祉の拠点「こみっと」を開設、若者の居場所と社会復帰の足掛かりをつくった。現在、支援を受けた若者の多くが自立して町を支える存在となっている。高齢化する過疎の町で、この若者パワーは大きい。「支援が必要な人も支援されっぱなしではなく支援する側にもなれる。その可能性を生かすことが地域づくりにもつながる」と語る菊池さんが掲げるのは、「福祉のまちづくり」ではなく「福祉でまちづくり」だ。

菊池まゆみ(きくち・まゆみ)
1990年藤里町社会福祉協議会入社。2002年同事務局長。14年同常務理事兼上席事務局長。15年同会長兼上席事務局長。社会福祉士、精神保健福祉士、主任介護支援専門員の資格を持つ。藤里町の取り組みをまとめた『ひきこもり町おこしに発つ』(藤里町社会福祉協議会・秋田魁新報社共同編集)が12年に刊行されて話題に。その後、NHK「クローズアップ東北」「おはよう日本」「クローズアップ現代」、日本テレビ「ニュースゼロ」、秋田魁新報、毎日新聞、共同通信、福祉新聞、公明新聞などで、ひきこもり者等支援事業の取り組みが取り上げられている。12年秋田県社会福祉協議会会長表彰。同年全国社会福祉協議会会長表彰。13年日本地域福祉学会地域福祉優秀実践賞。14年エイボン女性年度賞。主な著書『「藤里方式」が止まらない』(萌書房)(写真:鈴木愛子)
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地域で暮らす人を「支援する人・される人」に分けることに違和感

――藤里町社会福祉協議会(以下、社福協)には、どういうご縁で入られたのですか。

菊池:福祉の世界に足を踏み入れたのは、ほとんど偶然でした。東京で普通に専業主婦をしていましたが、父が亡くなったのを機に一家で帰郷し、たまたま社福協で職員を募集しているのを知って応募したのが始まりでした。1990年のことです。福祉に関心があって入ったわけではありませんでした。

 福祉については限りなく素人でしたが、素人ながらに現場で感じていたのは地域で暮らす方々を「支援する人・支援される人」という分けることへの違和感でした。強い人が弱い人を助けるという構図が、私の中ではなじめませんでした。支援される人とカテゴライズされた方々は、地域の中で全てにおいて劣る人ではないのです。例えば、一人暮らし高齢者の方々は、一人暮らしの不便さはあっても365日支援が必要なわけではないだろうとも感じていました。「自分だったら、そんな福祉は受けたくないなあ」と。

――社会福祉の分野にはストレングスモデル(その人が元来持っている強さや力を引き出し、活用していくケースマネジメントの理論・実践=注)という考え方がありますね。それを学んだときにとても新鮮でした。現場ではそれがなかったということでしょうか。

菊池:地域福祉の教本には「サービスは利用者本位です」「福祉は自己実現のために頑張っている人を応援します」とは書いていますが、「弱者をいたわりましょう」という文言はどこに出てきません。

 ところが、現実には、強い人が弱い人を助けましょう、弱い人をいたわりましょうという構図になっている。その人が本来持っている力を引き出すストレングスモデルは理想ですとされながら、現場に定着していないと感じていました。福祉は美談で語られることが多いけれど、美談で福祉を実践しても長続きしないということは、現場でずっと感じていました。

注:ソーシャルワークの実践モデルの1つ。「ストレングスモデル」とはクライエント(サービスや援助を受ける利用者)の主体性を重視し、その人の持つ強さや能力に焦点を当てようとするモデルであり、80年代後半から提唱されている。そのほか、クライエントを(問題を抱える)対象としてとらえ、クライエントが抱える問題や課題、病気に焦点を当てる「治療モデル」や、人と環境の相互作用に焦点を当てて環境や関係性を重視する「生活モデル」などがある。

――社福協の基本姿勢について教えてください。

菊池:事務局長になった翌年の2003年、町民1000人を対象に意識調査を行いました。当時、社福協が展開していた50の事業すべてに点数を付けてもらうという趣旨です。同時に30人ほどを抽出して聞き取り調査も実施しました。反応はおおむね薄かったんですが、「あなたが地域活動をしている中で社福協が応援できることはありますか」と尋ねた途端に目がパッと輝くんです。「町内運動会の役員をやっているが、何か手伝ってくれるのか」とか。

 そこで気付いたのは、自分たちに関係のない事業には反対も賛成もしないけれど、少しでも関係のある事業には関心を寄せてくれるという当たり前のことでした。社福協は自社事業を充実させることではなく、地域のために頑張っている人を応援するということを第一義に考えるべきだと思うようになりました。