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麓幸子の「地方を変える女性に会いに行く!」

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引きこもりの若者支援をまちづくりにつなげる

Vol.05 菊池まゆみさん(社会福祉法人藤里町社会福祉協議会会長)

聞き手:麓幸子=日経BPヒット総合研究所・執行役員、取材&文:吉田新一【2016.9.12】

弱者でも担える地方創生を

――地方創生加速化交付金の配分対象に、社福協が主導する「町民すべてが生涯現役を目指せるシステムづくり事業」が選ばれました。

菊池:老いも若きも、障害があってもなくても、まちづくりに取り組もうという意思さえあれば誰でも参加できるという仕組みです。

 柱の一つは、住民に就労や地域活動の機会を提供することを目的にした登録制の「プラチナバンク」の創設です。収入、就業時間、やる気、経験をそれぞれ5段階に区分し、希望に沿った働き方を提示します。高齢化が進み、人口減少にも歯止めが掛からない町の現状を考えますと、高齢者をどうやって支えていくかという発想では立ち行きません。「生涯現役」を希望するすべての人が活躍していける環境づくりを目指しています。仕事づくりの拠点は、改修中の町の農村環境改善センター。町有地でのワラビ栽培など、農産物の特産化を図って売り出していくことも考えています。

 若者支援事業については、若い人が住みやすいと思えるまちづくりを基本に据えています。正直、まだ方向性は見えていませんが、職業訓練の機会として3年前から町内の若者を対象に「藤里体験プログラム」を事業化しています。町内でご商売をしている理容師さんや居酒屋の店主さん、葬儀屋さん、印刷会社の社長さんたちに講師役をお願いし、講義・演習・実習をしています。今年4月からは対象を町外にも広げました。「自分探し」をしているような県外の若者が、以前からこみっとにちらほらと来ていましたので、そういう人たちを一度にまとめて受け入れようという内容です。

 「藤里での体験を生かし、故郷で仕切り直す」とか「自信を持つことができた」と言って帰ってくれます。藤里町を少しでも県外にPRする機会にできればと考えています。

 地方創生の主体は力のある人であり、その恩恵をあずかる立場にあるのが力のない人――という考え方に疑問を感じていました。弱者であっても担える地方創生の形はあるはずです。事業の柱は人づくり、仕事づくり、若者支援の3本。「仕事づくり」など、一見社福協の事業とは無縁と思われるかもしれませんが、弱者と呼ばれる人たちでも地方創生の担い手になれるための支援事業と位置付ければ、必要な事業です。

――地域福祉の秘める可能性は大きいということですね。

菊池:私たちだからこそできることもあると思います。福祉がちょっと手を差し伸べることで、例えばデイサービスを利用している認知症のお年寄りに、活躍の場を提供できることもあるんです。私の知り合いの85歳の認知症女性は、ボランティアとして社会参加したいという意欲にあふれていますが、そういう人に「諦めてください」とは言いたくありません。参加したい、社会の役に立ちたいという意欲のある人に対し応援していくのが福祉の役割だと思っています。

――あらためて「藤里方式」とは何でしょうか。

菊池:特殊なことでもなければ、新しい理論・実践でもないと思います。繰り返しになりますが、ご本人がやりたいと思うことを応援するということに尽きます。福祉職が陥りがちなことですが、相談を受けてそれに応じていると、何か自分が救ってやったような錯覚を覚えることがよくあります。相談に応えた自分だけが気持ちいい、でもそれは給料をもらっているプロの仕事ではなく、ボランティアのやることです。ご本人の自己実現のため、今の生活をより良くしていくため、ありとあらゆる社会資源を提示する、必要な社会資源がなければ頑張って新しい資源をつくる。それが基本ではないでしょうか。

 藤里町がほかの地域と違うとしたら、それはもしかしたら「本気度」かもしれません。地域の方のお役に立ちたいという思いで、まじめに仕事をしていれば、しっかり積み重なっていきます。ある大学が将来にどんな不安を感じているかを藤里町の住民に尋ねたところ「社福協があるから心配していない」と答えた人が結構いたというのです。「皆さんが暮らしやすいように、生きやすいようにお手伝いする。それが社福協です」という基本姿勢を守っていれば、そういうふうに言ってもらえるんですね。それって、本当にうれしいことですよ。

「町民すべてが生涯現役を目指せるシステムづくり事業」の拠点となる改修中の農村環境改善センター。右は社福協事務局長の菊地孝子さん(写真:鈴木愛子)
[画像のクリックで拡大表示]
<インタビューを終えて>
 こみっとで働く登録生おふたりにも話を伺いました。共に引きこもりと言われる時期は長いけれど、こみっとで役割を担い働いています。「単にここがレクリエーションの場だったら来ていないと思う。そば打ちの仕事を通じ、自分が必要とされることに価値を感じている」と福田忠さん。小玉栄さんは、こみっとが縁で今は社福協でパートの仕事をしています。「ここに来る人の来歴や生き方は様々だが、何かしら仕事をさせてほしいと願っている。『町民すべてが生涯現役』という事業を進めているが、ぜひ成功させたい」と抱負を語ります。おふたりの話を聞いて、「支援が必要な人も支援されっぱなしではく支援する側にもなれる。その可能性を生かすことが地域づくりにもつながる」という菊池さんの言葉が実感として迫ってきました。地方は人材不足、人手不足と言われていますが、適切な支援をすることで地域を担うことができる力を持った人たちの存在を見過ごしているだけではないのかとも思いました。
 次なる菊池さんの目標は「生涯現役」。よく聞くフレーズですが、菊池さんは本気で成し遂げようとしています。まさに「藤里方式」は止まりません。
麓幸子
麓 幸子(ふもと・さちこ)
日経BPヒット総合研究所長・執行役員
麓 幸子(ふもと・さちこ) 1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。06年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。日経ウーマン、日経ヘルスなど3媒体の発行人となる。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。16年現職。2014年法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府、林野庁、経団連・21世紀政策研究所研究委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書等に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。
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