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麓幸子の「地方を変える女性に会いに行く!」

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引きこもりの若者支援をまちづくりにつなげる

Vol.05 菊池まゆみさん(社会福祉法人藤里町社会福祉協議会会長)

聞き手:麓幸子=日経BPヒット総合研究所・執行役員、取材&文:吉田新一【2016.9.12】

「自分の役割がなければ居場所ではない」という視点の重要性

(写真:鈴木愛子)

――引きこもりの人に対する支援は、社福協の取り組みとしては全国でも画期的です。その前史について、お聞かせください。

菊池:ひきこもり問題というより、少しの失敗やつまずきで普通のラインから外れて戻れないと感じている若者、戻り方が分からずにいる若者が多いように感じていたのです。ケアマネとして家庭訪問をしていると、実感として分かります。私にはその状態を、いわゆる引きこもりというのかどうかよく分かりませんでしたが、詳しく話を聞くと、所属するところがなくて支援をほしがっているということが見えてきました。

 引きこもりの人に対する支援は、精神疾患などの医療的アプローチの範ちゅうにくくられることが常識でしたが、一方で地域社会に出ていくための福祉的な支援が必要な人が現にいたことも事実です。ただ私には、そういう人が引きこもりなのかどうかは分かりませんでした。

――引きこもりの実態調査は詳細かつ丁寧ですね。

菊池:社福協は民間の事業体でありながら、活動は税金が原資です。本当に必要な事業なのか、必要としているのはどのぐらいいるのか、どういう人が必要としているのかを明確にしなければなりません。ニーズに沿わない支援が長続きするはずはありません。調査をしっかりやった上で事業を組んでいくことが基本だと思います。聞き取りも含め、そうした姿勢で取り組んできました。

――菊池さんの近著「『藤里方式』が止まらない」(萌書房)には、引きこもりの人に「頑張って外へ出てみようよ」と声を掛けたのに対し「いったい、どこへ?」と返され、戸惑ったというやりとりがつづられています。

菊池:居場所がない、だったらつくろうというのが「こみっと」設立の原点でしたが、それ以前にはレクリエーションを企画して、参加してもらおうというぐらいにしか考えていませんでした。

 自分の役割がなければそれは居場所ではないという視点は重要だと思います。「いったい、どこへ?」と聞かれ、デイサービスでのボランティアや一人暮らしのお年寄りとの交流会に誘ってみたのですが、何と若い人がぞろぞろと出てきてくれたんです。それどころか、社福協の採用面接にも現れたのです。

 ただ、所属するところがないという状態が5年、10年と続いている人は、引きこもりの期間とそうでない期間を繰り返しているケースが少なくありません。自暴自棄になって家から一歩も出ていない時期もあれば、外に出ようと頑張っている時期もあります。「最近あの人はよく外出している。だからもう大丈夫」と考えるのは危険です。

――福祉の拠点「こみっと」のコンセプトは支援する人もされる人も共に集える居場所づくりですね。開設に当たって、周りの見る目はどうでしたか。

菊池:お手本のない新しい事業でしたから、いろいろ言われたりもしました。「なぜ福祉が引きこもりの人を支援するのか」とか「専門家でもない社福協が本当に支援できるのか」とか。「そもそもこの町には引きこもりの人がいるはずがない」というお叱りも受けましたし、お年寄りの中にはなかなか引きこもりという状態を理解してもらえず、彼らを「救いようのない怠け者」と言う人もいました。ただ、私自身はこの地域で「こみっと」が必要とされる支援事業だという確信がありました。「劣る人」を支援する場は福祉にもありましたが、活躍の場を失ったという人や社会的経験の少ない人を支援する場はありませんでしたから。

 オープンしてからも大変でした。メディアに取り上げられたことで、地元出身の首都圏在住者から「恥ずかしいからやめてくれ」と言われました。ただ途中でやめるわけにはいかないとも思いました。やめてしまったら頑張って外に出てきてくれた彼らに申し訳ない。ひきこもり状態だったことは恥ではないと胸を張ってほしいと、だから踏ん張りました。今では彼らに対する町民のイメージもだいぶ変わりました。

――支援が必要な人はこみっとに登録し、お食事処で働いたり、地域から依頼される仕事を請け負ったり、支援を受けながら様々な役割を担っています。現役登録生にも話を聞きましたが、「単にここがレクリエーションの場だったら来ていないと思う」と口をそろえていました。お金をもらえる仕事や誰かに役に立っているという実感が大切なんですね。

県の旧ダム発電所の跡地と建物を有効利用。600m2の鉄筋コンクリート2階建ての事務所は福祉の拠点「こみっと」に。300m2の木造2階建ては宿泊棟「くまげら館」になった。土地、建物は藤里町が買い取り社福協に貸与。改修費、維持管理費は社福協が持つ(写真:鈴木愛子)
「こみっと」のコンセプトは、支援する人も支援される人も共に集える居場所づくり。お食事処「こみっと」はお客が次々とやってくる。こみっと登録生たちが調理し、食事を運ぶ(写真:鈴木愛子)
「こみっとうどん」や「白神まいたけキッシュ」など名物も誕生した。登録生たちが調理している(写真:鈴木愛子)
企画・運営
  • 日経BP総研


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