今回はAI(人工知能)のお話です。AIといえば、最近ではコンピュータと囲碁や将棋の高位有段者との対決がよく話題になっています。また、「AIを使ってインターネット上のビッグデータを解析すると、これまでは知られていなかった“ルール”を見つけることができ、それがビジネスや生活の中で活用できる」といった話もよく耳にします。
 しかし、実際にはまだまだ普通の生活の中にまでAIは普及していません。AIを活用することで何ができるのか? 何が変わるのか? ピンとこないという人も多いでしょう。そこで今回は、AIの活用がグッと身近になっていると考えられる202X年を想像し、「もしかしたらこんなことになるかもしれない」というストーリーを考えてみました。
 舞台となるのは、甲子園出場を目指す、とある高校の野球部。高校野球とAIがいったいどのように結び付くのでしょうか。好評の近未来仮想ストーリー「ちょっと先の未来」第4話スタートです!

「ちょっと先の未来」 第4話

 カキーン!


 ある初夏の昼下がり、県立H高校のグラウンドに金属バット特有の鋭い打球音が響いていた。


 「Y君、かなり当たりが良くなってきたわね」。そうつぶやくのは、H高校野球部の女子マネージャーN美だ。マウンド上にいる投手はエースのT君、打席に立つY君は背番号4番の主砲、ともに3年生でチームを支える柱である。


 そう、今はH高校野球部がレギュラー争いを兼ねた紅白戦を行っている最中なのだ。


(写真:PIXTA)
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 H高校は、県内有数の進学校とあって、野球部はお世辞にも強くはない。毎年、全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)の予選(地方大会)も、2回戦まで行けばいい方だ。しかし、今年は違う。科学的な分析と厳しい指導により、万年弱小チームをきっと甲子園に導いてくれるであろう“あの監督”がいるからだ。


 実は、今年のH高校の野球部は監督が不在だ。昨年までチームを率いていた監督が定年退職で引退。一応、後任として選ばれた名義上の監督はいるが、他の部活と掛け持ちで、野球に関してはずぶの素人。だから公式戦以外、監督が出てくることは少ない。


(写真:PIXTA)
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 では、誰が選手を指導しているのか。答えは「AI(Artificial Intelligence)」、そう、人工知能を使った「高校球児育成サービス」だ。某大学が世界的IT企業とタッグを組んで現在開発中のクラウドサービスで、過去の高校野球の名監督が行ってきた球児達への指導をナレッジ化し蓄積したものをベースとし、AIがそのチームに最適な指導方法や戦術をアドバイスする。


 例えば、投手の指導ならば、固定カメラやスマートグラス(眼鏡)などのウエアラブルデバイスで撮影したピッチングフォームをリアルタイムでAIが解析。問題点や改善点を、具体的なアドバイスとしてすぐに返してくれる。今、マウンドで投げているT君の耳にも、イヤホンからAI監督、通称「鬼監督」からの合成音声が届いている。


(写真:PIXTA)
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 実はこの「高校球児育成サービス」、一般にはまだ提供されていない実証実験中のサービスである。いかにAIを活用した最先端のサービスといえども、人間の監督の代わりにすべての作業をしてくれるわけではない。例えば、ウエアラブルデバイスなどを使って必要なデータを適切な方法で取得したり、集めたデータをクラウドにアップロードしたりする必要がある。


 このため、このサービスはITに関するスキルが高くないと使えこなせない代物となっている。昨年、開発元では別の高校に同サービスを提供して実証実験を行ったが、部員のITスキルが低くて、使いこなせなかった。そこで今回、実験先として選んだのが進学校のH高校だった。


 日本では、2020年から義務教育で「プログラミング教育」が必須科目になっており、N美の世代も、高校の正規カリキュラムの中で、IT基礎やプログラミング実習、データ分析・活用演習などIT系の授業科目が多数ある。受験制度もこれに合わせてITの利活用スキルを重視するようになっており、昭和の受験システムを引きずっていた2010年代とは様変わりしていた。


 H高校は、進学校であるがゆえにその辺りにも強く、「高校球児育成サービス」の実験台としては、最適だったのだ。

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