古い慣習やしがらみを打ち破り、業界や社会に大きなインパクトを与える――。そんな「変革を生み出す力」を知るうえで役立つ記事を、日経BPネットの過去の連載からピックアップして紹介するこのコラム。今回も、前回に引き続き人気連載『バルミューダ・寺尾玄「“脱常識”家電メーカーのつくり方」』から記事を取り上げる。
 「家電とは、電気を使う現代の道具である」と話す寺尾社長。何千年もの伝統があるハサミなどの道具に対して、たかだか100年ほどしかない家電は道具としてまだ未熟。その“不自然さ”を自然な姿にしよう――。このような哲学に基づき変革に取り組んでいる。
 「世界一のトースター」として売り出した「バルミューダ ザ・トースター」にももちろん、そうした哲学のもと開発された。その舞台裏を知ることで、「製品やサービスで人を動かすための力の源」に近づくことができるはずだ。

記事中で登場する人名や肩書き、数字などはすべて掲載当時の情報です。

 バルミューダの寺尾玄社長は、今回発売した「バルミューダ ザ・トースター」は、これまで同社が発売してきた空調機器とは全く違うものだと話す。同じ「家電」なのに何が違うのか? 製品が生み出す価値と、それが及ぼす影響の範囲が決定的に違うようなのだ。

 「家電」とは何でしょう? 私なら「電気を使う現代の道具である」と答えます。それは同時にバルミューダで共有されている概念でもあります。

 たとえばハサミは6000年前から使われていますが、家電はたかだか100年ほど。そのため道具として未熟で、人類もまだそれに慣れきっていない。不自然さが残る道具です。それを自然な姿にしようというのがバルミューダの試みなんです。

 だいたい「家電」っていう響きがダサいじゃないですか。家電と聞いて、頭の中にかっこいいものが思い浮かぶことはないでしょう? MacやiPhoneはかっこいいかもしれないけど、あれはパソコンやスマホじゃなくて、Mac、iPhoneとしか言いようのないものです。その違いが何なのか、私たちはよくよく考えないといけません。

 iPhoneは世界的に売れていますが、ほかのスマホと比べて性能が突出しているかというとそうではない。ということは今の時代、追求すべきは機能や性能ではないということです。

 バルミューダでは自社製品の機能や性能を声高に訴えることはありません。伝えるべきは「気持ちよさ」「心地よさ」だと思っているからです。扇風機なら風速の数字より、風の心地よさのほうが大事でしょう? 単純にそういうことなんです。

 使ったときの心地よさはもちろんですが、見た目の心地よさも大事です。私たちは一つの製品を立ち上げるまでにだいたい2000案のスケッチを起こします。尋常な数ではありませんが、部屋に置いたときに好ましく感じられるか、扱いやすそうだと感じさせる「操作感」が見た目でも表せているか。それらなくしては市場に出せる商品にならないからです。

Next数値化できない「おいしさ」を実現する