新しい世界観を持ったブランドを生み出したい

 奥山氏が大切にしているというデザイン哲学は、「モダン・シンプル・タイムレス」。これはイタリアでカーデザインの経験を積むなかで学んだことだというが、実は日本の文化が昔から持ち続けてきた価値観と共通しているのだという。

――次の世代まで残るデザインやモノづくりにおいて、欠かせないことを教えてください。

奥山氏

奥山 人は、価値があると納得できるものにはお金を出すものです。フェラーリもクラシックカーになればなるほど値段が上がりますが、いわゆるラグジュアリープロダクツというのは、買ったあとも価値が上がっていくものだと思います。それがラグジュアリー商品であり、ラグジュアリーブランドです。そうじゃないものは使えば使うほど価値が落ちていくような使い捨ての商品になってしまう。つまり、コモディティといわれるものです。人にはそれも必要なのですが、いますごく興味があるのは、その中間になるような商品。例えば、Appleの商品は30%くらい高い値段払ってでも買いたいなと思わせるものがある。僕はそれを「プレミアム・コモディティ」と呼んでいるんですけど、他よりも高くても人が喜んで買うようなコモディティの商品というのは本来日本が得意なところだと思います。だから、そういうものを作っていくと、自然と人も技術もブランドも次の世代に残っていく。価値が残り、高めていけるような世界観やブランドを作っていければと思っています。

 日本には、世界にここだけという職人技がいたるところにあるにもかかわらず、職人は自己満足のためにものを作ることがあります。それらは寸法や値段、パッケージをちょっと変えるだけで、グッと売れるようになったりする。僕のすべきことは、的外れの料理を作っているのをお客様が求める料理に仕立て直してあげるということだとも思っています。

――これほどまでにモノづくりを続けられる原動力になっているものは何ですか?

奥山 ただ好きだというだけですね(笑)。興味があってやっているうちにいつの間にか広がっていて、僕に共鳴してくれるメンバーが集まってこういう会社になった。趣味が仕事みたいなものです。絵を描くことは楽しいですし、そうしているうちに商品が生まれるということの繰り返しです。

モノづくりも街づくりも100年単位で考える

 「フェラーリのデザイナー」というだけではなく、「人の暮らしを助け、豊かにする何かを作った人」として名を残したいという奥山氏。最近は、「社会システムデザイナー」と名乗ることがあるという。

――「社会システムデザイナー」とは聞きなれない言葉です。どんな仕事をイメージすればいいのですか。

奥山 いまは自分がやりたいことがだんだん大きくなってきていて、都市計画や飛行機にも最近は興味を持っているところです。「社会システム」という言い方が正しいかどうかは別として、僕が言いたいのは、トータルで街ができているということです。つまり、最初は地場産業の振興から始まって、人が育ち、売り方までを含めてブランドの使い方やライフスタイルが出来上がってくると、街が潤いますよね。そうなると、今度は商店街の作り方まで関係してくるので、結局は全部繋がっている。そうやってすべてやっていくと、「僕らは産業や人の暮らしを作っているんだ」というところにたどり着きますよね。ただし、問題は日本のいろんな業界や産業が、細かく分かれていることだと思います。

 以前、ルイ・ヴィトン日本法人の社長と話したときに、「うちはカバン屋ではないですよ」とおっしゃっていました。ただ高額なバッグを売るだけではなく技術があり、財布やキーホルダーといったものも同じ職人が同じ技術で作っている。それらに一貫しているのは、「豊かな旅を彩る商品を提供する」ということ。それを聞いてなるほどと思いました。うちはカバン屋だとかクルマ屋だと言ったらそこで終わっちゃうんですよ。つまり、自分たちの哲学や、これまでの歴史、そして職人技といった一本筋が通ったものを組み合わせながら、トータルでひとつのことを表現していくという考え方がすごく大切だなと思っています。

【『100年の価値をデザインする』 奥山清行著(PHPビジネス新書)】

 2013年に出版された奥山氏の近著。世界中を飛び回りながら活動を続ける奥山氏が、日本人のセンスとはどんなもので、それを引き出すためにはどうすればいいのかを説いている。個人が世界で活躍するために、そして日本のものづくり復活のために、数多くの示唆を与えてくれる一冊。

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