ビジネスデザインを考えるのがプロデューサーとしての役割

 数々の要望を取り入れていったことで当初の予算をかなり上回った部分もあるそうだが、この問題をクリアするには奥山氏ならではの秘策もあったという。

――「四季島」をプロデュースするにあたり、どのようなアイデアがあったのでしょうか?

南部鉄瓶 ティーポット「ORIGAMI(岩鋳)」
四季島車内で使用されており、KEN OKUYAMA WEB SHOPで購入できる。(画像提供:KEN OKUYAMA DESIGN)価格 1万2420円(税込) お問い合わせ先:03-5466-2860/オンラインショップ:http://www.kenokuyamacasa.com

奥山 僕が一番興味あったのは、どうやってこの開発費を回収するかということでした。34人の乗客の方にかなりの額を払って頂いたとしても、駅員や係員もそのサービスに見合う陣容が必要ですし、どう計算しても運賃だけで収益を上げることは困難です。そこで考えたのは、四季島で採用された商品は、「四季島ブランド」を使ってこの旅以外でも売れるような形を作ること。そうすれば、優秀な技術を持った職人や企業がたくさん集まるようなビジネスモデルになると提案しました。

 それはヤンマーのトラクターなども同じことで、僕は「ビジネスデザイン」と呼んでいますが、参加される方がみんな潤って、持ち帰るものがあること、そしてそれを見ていた新しい方がまた業界に入ってくるという正の循環パターンを作りたかったんです。

 JR東日本さんにしてみると、その売り上げだけでは限界があると思われていたんですが、四季島が観光資源となり、お客様が各地を再訪することで様々な売上がトータルで上がるということも含めて皆で議論しました。もちろん、僕はデザインにおいても常に全品検査して、納得がいくまで何度でも手直しもしますけど、それよりもトータルプロデュースという形でビジネスデザインをすることの方が大きくて、そこまで考えるのが僕の一番の役目だったと思います。

――鉄道をプロデュースする際に、大切にしていることは何ですか?

奥山氏

奥山 どこでも走るクルマと違って、鉄道の特徴は地域に根付いたものであるということ。例えば、秋田新幹線であれば東京と秋田の間をずっと行き来するので、「秋田のための新幹線を作りましょう」と提案しました。というのも、ビジネスパーソンでもレジャーユースでも分け隔てなく使っていただくというのがこれまでの鉄道マーケティングの考え方でした。でも、僕は田舎の出身で、山形に初めて新幹線が来た時の感激というのはいまでも覚えていますけど、あれは地元にとっては特別な存在なんです。新幹線というのはものすごく経済効果もありますし、象徴的なものなんですよ。秋田新幹線はそうした思いを込めてデザインしましたが、それを評価していただき、何よりも地元の方に認めてもらえたのが一番うれしかったですね。

 クルマをデザインするにはクルマとしての意味があるし、列車をデザインするなら列車としての意味がある。それは僕がデザインしたトラクターも同じです。あれはわざとガンダムっぽいデザインにしましたが、子どもたちに愛着を持ってもらいたいという気持ちもありました。というのも、農業に転職したいという人たちの一番の反対者は家族が多いので、そんなときに「こういうトラクターに乗れるならお父さん農業やってもいいよ」と子ども達を味方につけられるといいなと思ったんです。僕は農家の孫ですが、一般の人にトラクターを通して農業の面白さや可能性というのをわかっていただきたくて、「コンセプトトラクター」というのを世界で初めて作りました。そういう手法というのは、トラクターでも有田焼でも四季島でも全部同じです。

【ヤンマー コンセプトトラクター】

 2013年に発表されたヤンマーの「YTシリーズ」は、奥山氏が率いるKEN OKUYAMA DESIGNがデザインしたコンセプトトラクター。日本各地の農場で活躍させるべく、革新的なデザインに包まれたボディには最新の技術と、農家の人たちの声に耳を傾けてこだわった快適性を追求。製品そのものだけではなく業界や産業のあり方をデザインしている。鮮やかなプレミアムレッドのボディは人気が高く、ミニカーでもトラクターとしては異例の大ヒット商品となった。


ヤンマーのコンセプトトラクター「YT3」
(画像提供:ヤンマー)

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