「最近、どうもやる気がわかない、気が滅入ったり憂うつな気分になったりする。精神的に何か問題があるのかもしれない」――。放っておけば心の病につながりそうなこうした兆候や症状を感じても、いきなり精神科や専門クリニックを訪れることに抵抗を感じる人は多いだろう。結果、誰にも相談できず一人で悩みを抱え続けてしまう…。
 そんな人たちを少しでも救うべく開発されたのが「SPARX(スパークス)」というゲームアプリだ。遊ぶだけで感情をコントロールする方法が自然と身に付き、心理ケア(認知行動療法)の専門家からカウンセリングを受けたときとほぼ同等の効果が期待できるという。
 元々はニュージーランドの国家プロジェクトとして開発されたこのSPARXを、日本のユーザー向けに言語の翻訳をはじめ様々な手を加えてリリースしたのが東大発ベンチャーのHIKARI Labだ(前編記事はこちら)。
 同社の清水あやこ代表によれば、SPARX日本版の開発に当たっては、一般的なゲームアプリの移植版開発では通常考えられない「数多くの苦労」があったという。いったいどんな苦労があり、どのように解決してリリースにこぎつけたのか。

2010年上智大学卒業。外資系証券勤務を経て、16年東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。同年、HIKARI Lab設立
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 前編では、HIKARI Lab代表の清水あやこ氏が「心の病で苦しむ人たちのために、心理ケアを日本でもっと普及させたい」という高校生のときから抱いていた夢を実現するために、

・大学卒業後、いったん外資系証券会社に就職して会社設立のための資金を作り
・その後、東京大学大学院に進学して、心理ケアの専門知識を学びながらICT関連のスキルを独学で身に付け
・ICT関連のスキルを生かし、女子ハッカソンを主催するなどの活動を通じて人脈も広げていった

ことを紹介した。

 そんな忙しい学生生活を送っているさなかのある日、親しいエンジニアから紹介されたのが、「認知行動療法」を学べるという海外製のゲームアプリ「SPARX」だった。「こんなアプローチがあったなんて!」と衝撃を受けた清水氏は、SPARXを日本でも広めたいと思い立った。

 日本版の開発および販売許可を受けるために、清水氏はすぐにニュージーランド・オークランド大学のSPARX開発チームにコンタクトをとり、一人で粘り強く数カ月間も交渉を続けた結果、ついにライセンス契約を締結することに成功。

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楽しみながら認知行動療法を学べるゲームアプリ「SPARX日本版」

 後はソースコード(大もとのプログラムコード)をもらい、英語から日本語への翻訳などを含む移植作業をするだけ――。ところが、そんな目論見は脆くも崩れ去った。フタを開けてみれば、「契約を結んでからがスタート」と言わんばかり、様々な困難が待ち受けていた…。

・いくら待ってもソースコードが送られてこない
・ようやく送られてきたソースコードをチェックすると、バグの類やおかしな点が数多く見つかった
・ゲーム中に登場するキャラクターのデザインが、明らかに日本のユーザーの好みに合っていない
………etc。

 この後編では、清水氏がこうした困難をどう乗り越え、SPARX日本版のリリースにこぎつけたのかを探っていく。