名古屋の町工場、愛知ドビーが2016年12月に発売して以来人気となっている炊飯器「バーミキュラ ライスポット」。「世界一、美味しいご飯」を目指して開発されたその裏側を探るこの企画。最終回は、さらに深く愛知ドビーの妥協なきもの作りの姿勢に迫る。

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火加減を「標準化」することで常にベストの味を実現

 自社内に鋳造部門と機械加工部門を持つことを武器に、他社ではリスクが大きくて受けられない困難な部品などの製造を引き受け、父親から継いだ工場を軌道に乗せていった愛知ドビーの土方兄弟。業績が向上してもモチベーションが上がらない社員を元気にさせるために、自分たちが誇りを持てる製品を自ら生み出す「メーカー」になることを目指し、鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を生み出したのが2010年のことだった。

 自信を持って米サンフランシスコや仏パリに乗り込み、現地の消費者やシェフに見せたところ、とても高い評価が得られたと土方智晴副社長は語る。しかし、手間暇をかけて100分の1mmもの精度の密閉性を作り出したバーミキュラは、そのままでは価格競争力が弱いことから、「このままでは戦えない」と判断せざるを得なかった。

 「ルクルーゼなどは海外ではムチャクチャ安くて、1万円程度で売っているんです。僕たちは無水調理で味を良くしようと、密閉性を出すために他ではやらないようなものすごく細かい苦労をしています。でも、『すごくいいし味も良くなるけど、価格が2倍では買えない』って言われるんです。それは見た目が同じ鋳物ホーロー鍋だからなんですよ」(土方智晴副社長)

愛知ドビー代表取締役社長の土方邦裕氏(写真右)と副社長の土方智晴氏(写真左)
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 味は評価されたものの、鋳物ホーロー鍋というカテゴリーの製品では戦えない。そこで生まれたのが、バーミキュラ自体の“素材の味”を生かすという方向性だった。

 「バーミキュラは素材本来の味を引き出すのがコンセプトで、化学調味料を入れるのはタブーです。食材を入れて、ほんの少しの調味料を入れるだけで、いかに味をまとめるかというのが美学としてあります。でも、それをやるためには鍋と調味料と食材しかないので、“役者”が少ないんです。その中で味を引き出すためには火加減がすごく重要になるわけです」(土方智晴副社長)

火加減について語る土方智晴副社長

 無水調理はフタをきっちり閉めてじっくりと火を加えるのだから、火加減が難しい……そう思っている人も多いのではないだろうか。

 「無水調理は弱火が大事です。でもその『弱火』というのは、お湯を一回沸かして蒸気の出具合を見てもらえれば分かるので、決して難しくはありません。蒸気が横にシューッと吹くときは中火で、ゆらゆらと出るくらいが弱火です。次からは、そこに合わせるだけでいいんです」(土方智晴副社長)

 ガスレンジであろうと、IHクッキングヒーターであろうと、一度お湯を沸かしてみれば「弱火」や「中火」の目安がハッキリと分かり、次からは同じ場所につまみやインジケーターを合わせるだけでいいというわけだ。そう言われると、決して難しくはないことは理解できる。ただし、料理に慣れている人なら簡単なことでも、そうでない人にとってはハードルが高いということもある。

 「日本でもそうですが、欧米では『火加減が大事ですよ、弱火ですよ……弱火というのはこれぐらいですよ』と、日本よりももっとコーチングが必要だと感じました。だったら、バーミキュラにとって理想となる熱源を開発すれば、欧米に持っていけるんじゃないか。そんな考えが生まれたのです」(土方智晴副社長)

 「世界最高の鍋」だと自負して彼らが世に送り出したバーミキュラだが、最も重要な火加減の時点で、思うように使われていないと土方智晴副社長は感じた。

 「僕らは世界最高だと思っているけど、この味ってみんなに理解されているんだろうか。こんな苦労して作っているのに、他社と比べてそれほどでもなかったと評価されるんですよ。でも理想の熱源をセットにすれば、僕らが最高だと思っている味を理解してもらえるんじゃないか。そう思ったんです」(土方智晴副社長)

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