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庁舎の真上に分譲住宅、借金ゼロで地域再生促す

としまエコミューゼタウン(東京都豊島区)

宮沢 洋=日経アーキテクチュア【2015.8.3】

※「日経アーキテクチュア」2015年6月10日号の記事を一部転載

全国初の「本庁舎・分譲マンションの上下合築」として注目されていた豊島区庁舎が開庁した。区有地の権利変換と旧庁舎の跡地利用により、「借金ゼロ」で建て替えを実現。周辺の人の流れを変え、地域整備の起爆剤となることが期待されている。

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低層部を南西から見る。前庭に並ぶ樹木の新緑が、庁舎の外装(エコヴェール)に点々とつながっていくように見える。その上にはペンシル状の超高層マンションがそびえ立つ(写真:浅田 美浩)

 東京・南池袋の再開発事業である「としまエコミューゼタウン」が今春、完成し、低層部の豊島区庁舎が5月7日に開庁した。住宅部を含めた総事業費は約434億円。庁舎と民間マンションを一体開発した例は過去にもあるが、上下の本格的な合築は全国初だ。合築もさることながら、緑を立体的に配した足元まわりのデザインも庁舎とは思えない大胆さだ。

 設計は日本設計が担当した。同社は首都圏不燃建築公社とともに初期段階から再開発の検討に関わっており、09年に公募プロポーザルで改めて設計者に選ばれた。その際、隈研吾建築都市設計事務所とランドスケープ・プラスが設計協力者として加わった。

 設計チームは庁舎とマンションを「1本の大きな木」とみなし、設計を進めた。外観のデザイン監修を担当した隈研吾氏は、「普通につくると庁舎はタワーの『基壇』のような硬い存在になってしまう。それを避けるため、外部をエコヴェールで柔らかく覆った」と語る。

 エコヴェールは、外壁の外側にフレームを立て、約1m×6mのパネルを市松状に取り付けたもの。緑化パネル、太陽光発電パネル、再生木ルーバー、ガラスで構成される。単一素材で構成しなかったのは、「都市にはノイズがあったほうがいい。将来、パネルを部分的に取り替えることもしやすい」(隈氏)と考えたからだ。

区が合築案を推す

 建設前の敷地は、南側の約半分が区有地である旧日出小学校と旧南池袋児童館の跡地、北側の約半分が住宅街だった〔図1〕。再開発のきっかけは東側を走る環状5の1号線、いわゆる「明治通りバイパス」が事業化されたこと〔写真1〕。それに伴い04年、バイパスを挟む南池袋2丁目地区5.3ヘクタールが街並み再生地区(東京のしゃれた街並みづくり推進条例に基づく)に指定された。敷地は第一種住居地域だが、大きな容積ボーナスが期待できる。

〔図1〕区有地と既存住宅街を一体で再開発
建て替え前の敷地状況と権利変換の模式図。南側の約半分が区有地(旧日出小学校と旧南池袋児童館)で、北側の約半分が住宅街だった。権利変換の詳細は図2参照(資料:日本設計)
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〔写真1〕明治通りバイパスが再開発を後押し
北東方向から見た全景。敷地の東側には明治通りバイパス(環状5の1号線)が整備中。19年度完成を目指す。現在の明治通りは池袋駅東口の目の前を通っている(写真右方向)(写真:浅田 美浩)
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 区がこの地区の再開発に参加して民間の施設と合築すれば、区の費用負担が少なくて済むうえ、周辺の再整備を後押しすることにもなる。区は06年に再開発準備組合に加入した。

 区が取得する庁舎の床面積は2万5573m2。区有地との権利変換(約85億円)だけでは足りない。不足分の約136億円は、旧本庁舎とそれに隣接する公会堂・分庁舎の敷地に定期借地権を設定して民間に貸し付け、その地代で支払う〔図2〕。

〔図2〕区は借金ゼロで床を取得
街並み再生地区に指定された地域内で、地域貢献メニュー(壁面位置の調整や空地など)を取り入れた地区計画をかけることにより、容積率が300%から800%に緩和された(南池袋2丁目A地区地区計画)。総延べ面積9万4681m2のうち、区が取得したのは2万5573m2。区有地との権利変換により、1万741m2分の床を取得。不足する1万4832m2を約136億円で購入した。これは旧本庁舎とそれに隣接する公会堂・分庁舎の敷地の活用地代から支払う(資料:豊島区の資料をもとに日経アーキテクチュアが作成)
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 議論の過程では、合築案ではなく別棟案もあった。敷地南側に住宅棟を建てて地権者を移した後、北側に庁舎棟を建てる案だ。地権者の多くは別棟案を推したが、区は「庁舎のワンフロアが狭くなって行政サービスの質が低下する」(豊島区施設管理部の小池章一庁舎建設室長)ことや「2棟が近接しすぎて周辺の再整備の範とならない」(同室長)ことから合築を推した。最終的には地上49階を上下で分け合う形となった〔写真2、3〕。

〔写真2〕吹き抜けとつながった執務フロア
庁舎4階。庁舎執務室(3~9階)は吹き抜けとエレベーターコアを囲むロの字平面で、窓口がある部署は基本的に吹き抜け(写真左側)との間に間仕切りのない開放的なつくりとなっている(写真:浅田 美浩)
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〔写真3〕吹き抜けで自然換気を促す
庁舎中央を貫く吹き抜け越しに各階の執務室を見る。「エコヴォイド」と名付けた吹き抜けは、煙突効果により自然換気を促す。シースルーのエレベーターが上下する(写真:浅田 美浩)
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川が流れる階段状テラス

 庁舎南側のエコヴェールの内側は、グリーンテラスと呼ぶ階段状の庭園となっている。庁舎の最上階に当たる10階の屋上庭園から水を流し、8階、6階、4階のテラスにせせらぎをつくった〔写真4~6〕。ランドスケープ・プラスの平賀達也代表は、「階段状のテラスのレベル差が豊島区の高低差とほぼ同じであることに気付き、単なる庭ではなく、子どもたちに地域の自然を学んでもらう場にした〔図3、4〕」(平賀代表)と話す。

〔写真4〕庁舎屋上には「豊島の森」
10階南側の屋上庭園「豊島の森」。武蔵野の雑木林とその下の草花、小川を再現した。屋上には庁舎のエレベーターで10階に上がるか、4階のグリーンテラスから屋外階段で上る。土日も入ることができる。10階屋上は、所有区分上は非住宅共用部だが、使用権を庁舎の専用としている。北側の11階以上は住宅(写真左上)で、このフロアには免震層がある(写真:浅田 美浩)
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〔写真5〕階ごとに異なる植生
4階南側のグリーンテラス。6階、8階にも同様のテラスがある。10階屋上庭園を流れた水がドレーンで下階に落ち、せせらぎとなって南側(写真右)を流れる。せせらぎの脇に植えた植物は、階によって変えた(写真:浅田 美浩)
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〔写真6〕庁舎の窓は網戸付き
グリーンテラスに面した6階南西側の執務室。庁舎外周の開口部は、開けた状態で使いやすいように網戸が付いている(写真:浅田 美浩)
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〔図3〕豊島区の高低差をテラスに再現
庁舎の建つ台地と、豊島区で最も低い神田川の高低差は約30mで、グリーンテラスのある4階から10階までとほぼ同じ高低差。10階庭園から下階テラスへと流れ落ちた水は、地下でためた後に浄化して10階に循環させる(資料:ランドスケープ・プラス)
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〔図4〕外装とテラスに費用をかけ、外壁は塗装のみ
グリーンテラス断面図
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 庁舎の上のマンションは、全432戸のうち、地権者分を除く322戸が分譲に充てられた〔写真7〕。この建物は庁舎が入るため、全体として耐震安全性I類(通常基準の1.5倍)が求められる。そのため、10階に免震層を挟んで中間免震とした。分譲住戸は13年7月の販売受付開始から約7週間で全戸が完売した。

〔写真7〕耐震性が評価され322戸が完売
分譲部「ブリリアタワー池袋」の住戸内部。70m2、80m2台が中心で最多価格帯は7800万円台。東京建物が首都圏不燃建築公社とともに売り主となった。約7週間で322戸が完売。東京建物住宅プロジェクト開発部事業推進グループの堀信介課長代理は、「東日本大震災後の販売だったこともあって、耐震性能の高さが評価された。庁舎と合築であることの不安の声はほとんど聞かれなかった」と話す(写真:東京建物)
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 全体計画の中心になった日本設計の黒木正郎執行役員フェローは、「周辺地域の今後の再生をリードするという意気込みで設計した〔写真8〕。コンパクトシティの流れのなかで、新たな方向性を示すものになったのではないか」と語る。

〔写真8〕駅からの人の流れを拡散する
池袋駅東口からグリーン大通りを南東に徒歩8分ほどの位置にある。これまでは、池袋駅東口を出た人の約8割がサンシャインシティ(写真右方向)に向かうといわれていた。その人の流れを南に向かわせることが期待されている。豊島区は、国家戦略特区の認定を目指して、グリーン大通りの歩道上でオープンカフェの社会実験などを行っている(写真:浅田 美浩)
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としまエコミューゼタウン

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  • 所在地:東京都豊島区南池袋2-45
  • 主用途:庁舎、共同住宅、事務所、店舗、駐車場ほか
  • 地域・地区:防火地域、南池袋2丁目A地区地区計画
  • 建蔽率:63.9%(許容80%)
  • 容積率:790.6%(許容800%)
  • 前面道路:東30m、西・南・北8m
  • 駐車台数:285台
  • 敷地面積:8324.91m2
  • 建築面積:5319.74m2
  • 延べ面積:9万4681.84m2(うち容積率不算入部分2万8862.39m2)
  • 構造:鉄筋コンクリート造・鉄骨造・一部鉄骨鉄筋コンクリート造、中間階免震構造
  • 階数:地下3階・地上49階
  • 基礎・杭:場所打ちコンクリート拡底杭
  • 高さ:最高高さ189m、軒高179.24m、階高4.5m(非住宅)・3.3m(住宅)、天井高2.8m(非住宅)・2.6m(住宅)
  • 主なスパン:6.4m×15.0m(非住宅)、6.4m×9.2m(住宅)
  • 発注者:南池袋2丁目A地区市街地再開発組合
  • 設計・監理者:日本設計
  • 設計協力者:隈研吾建築都市設計事務所(外観および一部内観デザイン監修)、ランドスケープ・プラス(ランドスケープデザイン)、大成建設(構造)
  • 施工者:大成建設
  • 施工協力者:新菱冷熱工業(空調)、斎久工業(空調衛生)、九電工、六興電気(以上、電気)、東芝エレベータ、日立製作所(以上、昇降機)
  • 設計期間:2009年9月~12年1月
  • 施工期間:2012年2月~15年3月
  • 開庁日:2015年5月7日
  • 総事業費(再開発組合支出):約434億円
  • 設計・監理費:非公表
  • 総工費:非公表
設計者:黒木 正郎(くろき まさお)
設計者:黒木 正郎(くろき まさお) 1959年東京都生まれ。82年東京大学建築学科卒業、日本設計事務所(現・日本設計)入社。15年4月から日本設計執行役員フェロー。主な担当作に「日本橋三井タワー」「霞が関ビル増築および改修計画」など。15年11月竣工予定の「JPタワー名古屋」も担当

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