トップ > 神野正史のニュースは「世界史」に学べ! > 「乙武問題」を契機に、障害者の歴史を振り返る

神野正史のニュースは「世界史」に学べ!ビジネス

「乙武問題」を契機に、障害者の歴史を振り返る(5/5ページ)

2016.04.20

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

過保護は子をダメにする…イスラームの場合

 ところで、ヨーロッパ世界が歴史的に身障者をどのように扱ってきたのかはすでに見てまいりましたが、では、イスラーム世界では身障者をどのように扱ってきたのでしょうか。

 『クルアーン』をひも解くと、「障害者を社会から疎外してはならない」(24章61節)という主旨の聖句が見つかります。しかし、そうした警句があること自体が、やはりイスラーム社会の中にも「障害者を差別し、疎外しよう」とする考えが脈々と流れていたことを伺わせます。「戒め」は冒す者がいて初めて生まれるからです。

 実際、現在のイスラーム世界でも、ヨルダンなど、地域によっては聖句を恣意的に解釈して、「障害者は無力で社会のお荷物」(75-76章)、「障害はアッラーの罰」(65-67章)と、身障者を社会から排除しようとしている国もあります。そうした国での身障者は、まともな職業にも就けず、物乞いして暮らすしかなくなります。

 ヨーロッパでも見てきたように、その国その社会によって「理由付け」はさまざまですが、その根底には「障害者を排除したい」「差別したい」という人々の思いが滾々(こんこん)と流れており、「理由」などは単なる“後付け”にすぎないことがわかります。

 しかし『クルアーン』には、以下のような聖句があります。

「盲目な者たちに罪はない。足の不自由な者たちに罪はない。アッラーに従う者は誰でも楽園に入ることができる」(48章17節)

 つまり、ムスリム(信者)にとって重要なのは信仰(六信五行)そのものであって、信仰さえ全うしてさえいれば、障害者を差別することを巌に戒めています。それどころか、障害を負いながらもそれを乗り越えて信仰を果たす姿勢は、むしろ高い評価の対象になります。したがって、現在の日本のように「障害者と見れば、何でもかんでも保護し、支援することが正しい」という考え方ではなく、「障害者自身が自立できるよう努力する」ことが求められます。

 殷鑑(いんかん)遠からず。

 イスラームのこうした考え方はたいへん大切なことで、「障害者を差別する」ことは確かに許されないことですし、「保護する」こともある程度は必要なことでしょう。しかし、それが行きすぎて、「過保護にする」「優遇する」「腫れ物に触るように扱う」という今の日本の現状は、筆者には度が過ぎているように思えてなりません。

 そうした行き過ぎた社会が、乙武氏のような「支えられている自分」を自覚できない、“精神的に未熟”な人間をつくりあげたのではないでしょうか。彼もまた、過保護社会の犠牲者なのかもしれません。今回の出来事が、もう少し障害者に対する考え方を見直すきっかけとなることを願うばかりです。

(写真:xiangtao / PIXTA)

(神野 正史=予備校講師、世界史ドットコム主宰)

神野 正史(じんの・まさふみ)
神野 正史(じんの・まさふみ)

予備校世界史トップ講師、世界史ドットコム主宰 歴史エヴァンジェリスト。「スキンヘッド、サングラス、口髭」の風貌に、「黒スーツ、黒Yシャツ、金ネクタイ」という出で立ちで、「神野オリジナル扇子」を振るいながら講義をする。誰にでもわかるように立体的に、世界の歴史を視覚化させる真摯な講義は、毎年受講生から絶賛と感動を巻き起こし、とてつもない支持率。近年はテレビや講演会でも活躍。著書の『世界史劇場』(ベレ出版)はシリーズで大人気。『最強の成功哲学書 世界史』(ダイヤモンド社)、『戦争と革命の世界史』(大和書房)、最新刊『[覇権」で読み解けば世界史がわかる 』(祥伝社)も好評発売中。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【PR】トレンドアイ

  • ログイン
  • マイフォローとは?
nikkei BPnet 会員サービス
トピックを選ぶ!フォローする 自分のメディアを組み立てる! マイフォロー

ランキング一覧を見る

おすすめ情報【PR】

締切間近のセミナー