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麓幸子の「ダイバーシティ&働き方改革最前線」ビジネス

えるぼし三つ星を取得。重要なのは制度より意識改革――清水建設井上社長(2/2ページ)

2017.01.04

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2015年から「イクボスアワード」を開催し、意識改革を進める

――女性だけではなく全体にいい影響をもたらす施策が、本当に重要なものだと私は思います。今の安全帯の話はまさにその好事例で、プロセスイノベーションが起きたということですね。さて、改めて伺います。そもそも、なぜ女性の活躍が清水建設にとって重要なのでしょう。

井上 女性活躍とは、ダイバーシティ経営と言われるものの中の一つであると認識しています。

 かつて我々が育った高度経済成長期には、「男性で、体力があって、どこでも何時まででも制限なしで働ける」というように、一つの同質な労働力だけが求められていました。

 しかし世の中が変わり、ましてこれだけ少子高齢化が進み、男性だけの労働力を求めていては建設産業の就業者数が減少する一方です。会社として社会の多様な要請に応えつつ、十分な社員数を確保していくためにも、人口の半数を占める女性の活躍が必要です。そのための制度がようやく整い、これから突っ走る段階だと思っています。

――ダイバーシティ推進について、具体的にはどのようなことをお考えでしょうか。

井上 産休や育休の制度をもっと充実させなければいけないし、女性に限らず、フレックスやテレワークの制度も必要です。研究職や設計者はおそらく在宅勤務も可能でしょう。会社側の論理だけで進めるのではなく、組合の意見も聞きつつ、できれば2、3年のうちに一つの答えを出したいと考えています。

 制度以上に重要なのは意識改革です。女性活躍やダイバーシティにブレーキをかけるものがあるとすれば、社内における既存の概念や従来の慣習みたいなもの。これを変えていくことにおそらくゴールはなく、何年もかけて少しずつレベルアップしていくことになるのかと思います。

――2015年からは「イクボスアワード」を開催していますね。

井上 部下の私生活とキャリアを応援し、自らもワーク・ライフ・バランスを実践し、かつ生産性向上・業務効率化による働き方改革を実践している役職者を表彰する「金ボス賞」などの表彰制度を設けているのですが、一番の狙いはまさに意識改革なんです。

 昔のように、「朝から晩まで働け」という雰囲気の人が実権を握っていては、職場環境はよくなりません。会社が望んでいるのはこういう人たちなんだというメッセージを、アワードやセミナーを通じて社員に対してきちんと出す。その結果、イクボスのような人物が1人でも増えれば職場が明るく働きやすくなり、ひいては生産性も上がります。

 うちはものづくりの会社ですから、まずはものづくりの会社で働いているということに対して誰よりも誇りをもって日々の仕事に取り組んでもらいたい。そして、そういうマインドを持った上で、支えてくれる周囲の家族や同僚などに対して配慮できる人であってほしいです。

2015年から実施している「イクボスアワード」の狙いは意識改革。「金ボス賞」の受賞者と

――労働時間削減のために奏功している施策を教えてください。

井上 職場環境を改善してみんなが協力し、知恵を絞れば、働く時間を短くしても10やっていた仕事が9や8に減るのではなく、11にすることができます。

 生産性向上の一環として、2016年4月から現場の全社員にタブレットを配布しました。施工管理の仕事では、指示を出すために工事中のビルの10階まで階段で上がってから必要な図面を忘れたことに気づき、事務所に取りに戻らなくてはいけない……なんていうことが時にはあります。それがタブレット1台あれば、分厚い図面などの必要なデータにいつでもアクセスできる。感覚的には同じことをやるための時間が1、2時間短くなっていると思います。

 また、毎週水曜日はノー残業デーで、直近では80%を超えているところですが、現場も含めてこの数字を100%に近づけたい。

 昨年から本社で年1回「家族の日」というイベントをやっていて、先日も社員の家族を300人近く招きました。そのとき、赤ちゃんを抱えたあるお母さんに「最近、主人が早く帰ってきて子どもをお風呂に入れてくれるようになりました」とお礼を言われて。非常にいい話だなと思いました。

――最後に、女性活躍についての今後の目標をお聞かせください。

井上 採用比率では目標を達成していますが、女性社員比率は全体でまだ14%くらいなので、もう少し伸ばしたいと思っています。

 ただ、なんでも数字目標を立てればよいということではありません。今回お話ししたような取り組みをきちんとやった結果として数字がついてくることであって、数字だけを追うと肝心なものを見失ってしまいます。

 2008年から本格的に総合職で女性を採用するようになったので、第1期の人たちがいま30歳くらいです。うちでは女性の現場所長がまだいないので、早く誕生させたいですね。

 そして、いつの日か「女性活躍推進」ということを言わなくてもいい時代が一日も早く来ることを願っています。

<最後に>
2016年11月30日に経団連が開催した、「男性の育児休業取得促進セミナー」のパネルディスカッションにコーディネーターとして登壇した。育児休業を取得した男性4人のパネラーとご一緒したが、その1人が清水建設の主任の方だった。妻の職場復帰のために3カ月の育休取得を決意し、上司に相談したところ、快く認めてくれたという。聞けばその上司は5児の父親で、男性の育児参画に理解があったそうだ。その上司は16年に「金ボス賞」を受賞した(上の写真参照)。男性社会と思われがちが建設業界にも昔からイクボスがいて、イクボスがイクボスをつくる理想的な連鎖が生まれていることが分かった。その企業風土があるからこそ、えるぼし三つ星につながったのだろう。(麓幸子=日経BPヒット総合研究所長)
『女性活躍の教科書』

女性活躍推進法や女性活躍推進のために企業がすべきことをわかりやすく解説。2015年版「日経WOMAN女性が活躍する会社ベスト100」の各業界トップの20社の戦略と詳細な人事施策も紹介している

著者 : 麓幸子、日経ヒット総合研究所編
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税込み)

麓 幸子(ふもと・さちこ)
日経BP社 執行役員
麓 幸子(ふもと・さちこ)

1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。2006年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。日経ウーマン、日経ヘルスなど3媒体の発行人となる。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。2014年法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府、林野庁、経団連・21世紀政策研究所研究委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書等に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。

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