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AIの目に「駒が光る」日は来るか(1/5ページ)

中島秀之(東京大学 特任教授)×羽生善治(将棋棋士) Part.6

2016.11.28

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 最終回となる今回の対談では、中島氏が発した「駒が光る」というキーワードをきっかけに、ディープラーニングだけでは限界に至るAIの進歩をさらに進めるために必要なものとは何か、最強の棋士の1人である羽生氏はAIと棋士が対決する「叡王戦」についてどんな考えを持っているのかなど、スリリングな議論が展開されます。

(左:将棋棋士の羽生善治氏、右:東京大学特任教授の中島秀之氏)

(文・構成/佐保 圭、写真/涌井タダシ、協力/松原 仁=公立はこだて未来大学副理事長、高柳 浩=公立はこだて未来大学 客員教授、撮影協力/日本ビジネスシステムズ)

AIの目にも駒が光って見えるか

中島秀之氏(以下、中島):棋士のみなさんは、最善手を見つけたときに「駒が光る」という表現を使われることがありますよね。

羽生善治氏(以下、羽生):それは、かなり感覚的に研ぎ澄まされているときですね。

中島:「駒が光る」という感覚が、どういう仕組みで起こっているのかはよくわからないんですけど、計算機でも、そういう仕組みができるようにならないと、人間並みの知能には、しばらくは到達できないかなぁと思っているんです。現段階では、AIも、将棋の先読みと同じで、いろんな検索をしらみ潰しにやって「これが答えです」というやり方です。そこは、コンピュータが速くなっただけで、本質的に変わっていない。

羽生:省略していくプロセスに関しては、前よりも洗練されてきているのではないですか?

中島:洗練されてきてはいますが、そもそも、人間の思考法は「省略」だけではないじゃないですか。

羽生:大きな思考のジャンプや論理を超えたことですか?

中島:「このあたりは省略していいや」ということを考えもしないで、いきなり「このなかの、これだ!」って、最適解を発見しますよね。あれは、まだ、AIの研究者にとって、理解できないミステリーなんですよ。

羽生:何十年もキャリアのある職人さんがやっておられるような“瞬間的な動き”とか、そういうことですね。

中島:ええ。職人さんがいい例です。人間は、慣れれば、どんどん無駄がなくなるんですよね。たぶん、考えることも同じで、無駄なことは考えなくなるんです。あの仕組みをAIにも採り入れたいと、ずっと思っているんです。具体的な例でいうと、同じ問題を解くときにも、ある場面ではこのことを考えるけれども、別の場面では別のことを考える……人間は、そういうことを平気でやっているんです。

羽生:フレーム問題みたいな話でしょうか。

中島:ええ、まさにフレーム問題です。

フレーム問題
問題として記述するフレーム(枠)を適切に設定できるかという問題。人間同士なら常識があるから言わなくてもわかることが、AIには全部言わなければわからないため、想定外の事態まで考えようとすると、AIにどこまで言わなければならないか、そのフレームをきれいに切ることはできなくなる。

羽生:その問題をブレークスルーする方法は、あるのでしょうか。

中島:たとえば、今、ディープラーニングが非常に注目されていますが、この問題を解決するうえで必要な「探索」ができるわけではないんです。ディープラーニングは、入力を与えると膨大な学習をする。そういう意味では「覚えれば覚えるほど早くなる」ということに近いことはやっているんだけど、あれは、入力側だけですから。もうちょっと上のレベルで、あれと同じようなことができなければいけないわけです。

羽生:問題を設定したり、修正したり、学習も同時に行ったりすることでしょうか。

中島:では、ディープラーニングをつなげればいいかというと、そうではない。むしろ、ディープラーニングを武器にして、今までの演繹推論型のプログラムを組み直すことで、少しは「人間の知能」に近づくのではないか、と考えています。

中島秀之(なかしま・ひでゆき):東京大学大学院情報理工学系研究科 先端人工知能学教育寄付講座特任教授、公立はこだて未来大学名誉学長。1952年、兵庫県生まれ。
1983年、東京大学大学院情報工学専門博士課程を修了後、同年、当時の人工知能研究で日本の最高峰だった電総研(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所)に入所。協調アーキテクチャー計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。
2001年、産総研サイバーアシスト研究センター長。2004年、公立はこだて未来大学の学長となり、教育と後輩の育成、情報処理研究の方法論確立と社会応用に力を注ぐ。2016年3月、公立はこだて未来大学学長を退任後、同年6月、同大学の名誉学長に。

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