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羽生善治三冠、AIの進歩と実用化を阻害するものとは(5/5ページ)

中島秀之(東京大学 特任教授)×羽生善治(将棋棋士) Part.4

2016.11.14

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「あってはならない」の弊害

羽生:以前、松原先生とお話ししたとき、仮に、すべての車に自動運転が導入されたら、事故で亡くなる人が、一桁どころか、もしかしたら二桁のレベルで減るかもしれないと伺いました。ただし、自動運転にして、万一、何か不慮の事態があったときには、とんでもないことが起こるかもしれないっていうリスクも否定できないというお話でしたので、そのことも、すべての車に自動運転を導入する際の課題があるのかなと思いました。

中島:自動運転に限って言うと、人間が運転している場合でも、人混みの中に突っ込んでいく人もいるわけで、AIで自動運転したからといって、それよりひどいことは、まずないだろうと考えています。

羽生:ただ、たとえば渋滞を解消するために、すべてを自動運転で分散制御して、それこそ30センチ間隔で走れるような段階になったところで、そのAIを制御する通信が途絶えてしまったりしたら……。

中島:ああ、システム全体のクラッシュですね。

羽生:ええ、システム全体がクラッシュしたとき、すぐにオートに切り替えるようなシステムになっていれば問題ないかもしれないですけど……。

中島:技術者としては、絶対、そういうシステムにすると思いますよ。通信が途絶えた瞬間に、すべての車が止まるとか。そうでないと、たぶん、社会では実用にできないと思います。

羽生:そういうのって、どうなんでしょうか。自動運転について、今、テレビのCMなどでやっていますが、一般の人たちが安心して「そういう時代がやってくるんだ」と受け入れられるようになるのって、何年後くらいだと思いますか?

中島:日本では、まだ難しいかなという気がしています。日本では、技術的な議論においても「あってはならない事故」という表現が出てきます。そうなると、自動運転の場合は「交通事故をゼロ、死亡事故をゼロにしなさい」と言われてしまう。「ゼロ」というのは、いくら自動運転でも無理なわけですよ。

羽生:そうですね。

中島:欧米では「事故の起こる確率が一桁減るなら、導入を検討する価値はある」となりますが、日本では「事故を現状よりも一桁減らせるから、検討しよう」という議論が、なかなか受け入れられないんです。社会的な面から言って、かなり難しいと思います。でも、本当は、そのような議論や検討ができるようにならないと……たとえば、ひと昔前に「原子力災害用ロボット」というのが、つくられたことがあるんです。

羽生:あ、そうなんですか。

中島:でも、「原子力発電所の事故はあってはならないので、災害は起こらないから、必要ない」ということで、お蔵入りにしてしまったんです。

羽生:破棄されてしまったんですか?

中島:必要になったときには、もう使えなくなっていたそうです。

羽生:何とも残念な話ですね。

中島:いわゆる「あってはならない」「事故はない」という神話にとらわれてしまった結果、いざというときのための備えをさせてくれなかった例と言えるでしょうね。

【次回予告】
 AIを活用した現在のロボット開発が直面する「不気味の谷」問題や、AIを含めた科学技術の社会活用における日本特有の「あってはならない神話」の弊害について論及した中島氏と羽生氏は、次回、アメリカで実際に犯罪防止に利用されているAIの例や、日本の遠隔医療での実用の可能性について語り合ったあと、いよいよ、今回の対談の最重要課題の1つに踏み込んでいくことになります。

中島 秀之(なかしま・ひでゆき)
中島 秀之(なかしま・ひでゆき)

東京大学大学院情報理工学系研究科 先端人工知能学教育寄付講座特任教授、公立はこだて未来大学名誉学長。1952年、兵庫県生まれ。1983年、東京大学大学院情報工学専門博士課程を修了後、同年、当時の人工知能研究で日本の最高峰だった電総研(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所)に入所。協調アーキテクチャ計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。2001年、産総研サイバーアシスト研究センター長。2004年、公立はこだて未来大学の学長となり、教育と後輩の育成、情報処理研究の方法論確立と社会応用に力を注ぐ。2016年3月、公立はこだて未来大学学長を退任後、同年6月、同大学の名誉学長に。

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