AI研究者と社会学者の議論が不可欠

――そのような不安を乗り越えるためには「どうすれば進化を続けるAIの暴走リスクを排除できるのか」について、AIの専門家に議論してもらって、何らかの解決策を提示してもらいたいのですが?

中島:いつも思うのは、社会学の研究者たちは、なぜ、それをやらないんだろう? 「今後、AIをどう使うか」という問題は、明らかに、社会システムに関わってくるんですよね。たとえば、映画『ターミネーター』に出てくる「スカイネット」みたいなものをつくってもいいのか、悪いのかっていう議論は、私たち研究者もやるけど、社会学の専門家や、ほかの分野の人は、なぜやらないんだろう?

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松原:僕もアドバイザーとして参加するんですが、リステックス(RISTEX:JST社会技術研究開発センター)では、一応、そういう議論が始まる予定ですよ。

中島:私たち研究者は、昔から、そのことについて言及してきた。技術の進歩によって、可能性はどんどん広げられる。いろんなことができる。たとえば今、日本では代議員を選んで、その人たちが議論する「間接民主主義」をとっている。でも、インターネットを使えば「直接民主主義」だって技術的にはできる。ところが、今回のイギリスのEU離脱なんかもそうだけど、果たして「直接民主主義にしていいのかどうか」ということは、よくわからない。そのような問題について、社会学の分野の人たちと一緒に議論したいっていうことは、ずっと、もう20年くらい前から言い続けてきた。

松原:そうですね。

中島:AIを活用することで、会社組織だって、株の仕組みだって変えられるし、極論すれば、資本主義だって変えられる。たとえば、アメリカは「フィンテック」を実用化し始めているけれど、どこまでやっていいのか、あるいは、どうやるのが一番いいのかなどの議論や提案について、なぜ、AIの研究者や技術者だけに押し付けられてしまうのか、私には理解できない。

フィンテック(FinTech)
「金融(Finance)」と「テクノロジー(Technology)」を併せた造語。日本語では「金融IT」「金融テクノロジー」等に訳される。代表例は「モバイル決済」。「おサイフケータイ」、「ネットバンク」、自動で家計簿をつくる「クラウド家計簿」などは「フィンテック」の走りとも言える。

松原:たしかにそうですね。

中島:「社会学の人も、私たちと一緒に考えようよ」って思うのだけど、でも、向こうからは来てくれない。社会学の専門家は「今の社会がどうなっているか」という分析はするけれど「これからのAIと社会はどうあるべきか」という議論や提案は、なかなかしてくれない。「AIがあると、こういうリスクがある」などと評論家的な発言をする人はたくさんいるんだけど、これからは「どんな社会システムを構築すれば、AIのメリットを最大限に活かせるか」「AIの暴走のリスクを取り除くためには、新たにどんな社会構造が求められるのか」など、さまざまな課題について、AIの研究者と社会学の専門家が一緒になって議論しなければならない。

【次回予告】
 「本来のシンギュラリティの意味」や「フェイルセーフ」というテーマをもとに進められた今回の対談は、「AIの暴走を止めるためには社会学者との議論が必要」という提言で、ひと区切りつきました。次回は「現時点のAIは、人間の知能に比べて、どれくらい賢くなっているのか」という話題に移ります。そのとき、中島氏と松原氏の口から、一般の人間からすれば、あまりに意外な事実が語られるのでした。