前回見てきたとおり、中国人観光客の「爆買い」は“強制終了”されてしまった。

 正直なところ、こんなに急速に終了してしまうとは筆者も考えていなかった。昨年からその布石が中国側で着々と打たれていたことも、つい軽く受け流してしまった面がある。そこで、自省もこめて、なぜそんな判断ミスを犯してしまったのか、今回も検証を続けたい。 

 そのためにも、ここであらためて「爆買い」とは何だったのかについて確認しておきたい。

「爆買い」は華人の本能

 その問いに明快に答えてくれるのは、台湾出身の日本薬粧研究家の鄭世彬氏だ。彼が今春上梓した日本での初の著書『爆買いの正体』(飛鳥新社)によると、「爆買い」の背景には以下の3つのポイントがある。

(1)華人にとって買いだめは本能
(2)面子、血縁を大切にする文化的特質
(3)誰もが転売業者のような買い方をする

 鄭氏によると、歴史的に変動の大きな社会を生きてきた中華圏の人たちは買いだめが本能だという。つまり、買えるときにたくさん買っておきたいという消費心理が身についているというのだ。旅行に行くと、お土産を広く配る習慣が残っているのは、人間関係を重視する社会ゆえだ。さらに、根っからの商売人気質ゆえに、誰もが転売業者のような買い方をする。それがネットやSNSによって想像を超えた拡散効果と購買の連鎖を生んだのが「爆買い」の正体だった。

【参考記事】「爆買いの仕掛け人」に聞く【前編】 元祖「爆買い」は90年代の台湾人

 この指摘が興味深いのは、日本のメディアを通じて我々が思い描いていた「爆買い」に対する理解は、少し的外れだったことに気づかされるからだ。たとえば、「爆買い」をしていたのは必ずしも「富裕層」などではない。彼らは自分のためだけにお土産を買っていたのでもなかった。代償としての金銭を受け取るかどうかはともかく、帰国後、購入した商品が多くの人の手に広く渡っていくことが前提だったのである。だからあれほど大量に、転売業者のような買い方をしたのだ。

 さらに、観光客以外にも多くの「爆買い」の担い手がいたことは知られている。それは日本に住む華人の代購(代理購入)業者だった。一部の企業では観光客の買い物額より代購による売り上げが大きかったとの指摘もある。あるトイレタリー・メーカーの関係者も「売り上げのピークは2015年10月。その多くは代購によるものだった」と証言している。

 このなかには、百貨店の免税店のみならず、全国のリユースショップでブランドバッグや高級時計を転売目的で仕入れていた中国人もいたし、戦前から日本に流れてきた明清時代の陶器や書などを買い集めた骨董業者(彼らも目的は転売。贈答品として利用される)なども含まれる。彼らがこの期に一斉に手を引いたのだった。

 海外の輸入商品が安く買えるという触れ込みで昨年から動き出した中国の越境EC(電子商取引)の影響もあるだろう。所詮ブローカーにすぎない彼らは、すでに昨年の時点で、もう利益が見込めないとみて商売替えしてしまっていたのだ。

「出勤中に買って、出社時に受け取り、その日に使える」。中国越境ECサイトの「T-mall(天猫超市)」の地下鉄広告(上海)


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