前回紹介した「旅行体験共有会」のプロモーション手法が、それまで中国において無名だった岐阜県の知名度向上にどのようにつながっていったのか、さらに検証したい。

 この事例の成功の背景には、2010年頃から始まった中国の海外旅行市場の団体から個人への移行と、2012年頃から急速に進んだスマートフォンの普及が重なったことがある。その好機をうまく捉えた地道な取り組みは、現地事情に精通した関係者の協力なくしては実現できないものだ。個人旅行の時代において、SNSをいかに具体的に活用できるかがプロモーションのキモとなるのである。

SNS上の「朋友圏」で見せびらかし

 岐阜県の中国向けプロモーションに携わった羅徳共拓公関顧問(上海)有限公司(RF KYODO)の深澤和博氏によると、「SNSの最大の利点はエンドユーザーと直接つながること」だという。

 「中国語公式サイトの開設は基本だが、これだけではアクセス履歴は取れても、それ以上の個人情報はわからない。一方SNSの場合、それまで出会えなかった、そして顔が見えなかった個人ユーザーにつながることができる。閲覧数などの数字(PV数)がわかるので、投稿したそれぞれの書き込みのPV数をチェックすることで、何を書いたらどのくらいの反応があるか、特定のテーマについてどのKOL(キーオピニオンリーダー)の影響力が強いかなどが見えてくる。これはウェブニュースや紙媒体による一方的な情報発信では得られないことなので、発信者側がPDCA(計画→実行→評価→改善)を進めるうえで大いに役立つはずだ」

 こうした考え方は基本的に日本のデジタルマーケティングにおいても同じことだろうが、ここで知っておかなければならないのは、中国特有の事情から発展した現地のSNSの特性を理解することだ。一見日本と同じことが起きているように見えても、その運用は必ずしも同じとはいえないことが多いからだ。

 今日、中国で最もアクティブな旅行者である都市在住の20〜30代の世代にとって、休みに自分がどこへ旅行に行ってきたかについて、中国SNSの微信(Wechat)上の「モーメンツ(朋友圏)」で見せびらかしをするのは普通のことだ。お互いどこへ行ってきたかを見せ合いながら、なるべく人のやらないこと、行かないところへ行ってきたことが自慢になる。彼らが「いいね」を押し、コメントをしてくれることが旅行者側の大きなやりがいになっている。とりわけ重要なのは、フォトジェニックな素材をいかに魅力的に提供できるかだ。

 「評価されるのは中国には存在しない、絶対に見ることのできないもの。岐阜県でいえば、白川郷や飛騨高山の風景だろう。それをスマホで撮ってSNSにアップする際、いかに人に自慢できるかがポイントになる。面白いのは、これらの写真が単なる記念撮影という意味を超えていることだ。中国から年間600万人以上が訪日する現状において、東京や大阪に行っても自慢にならない。周りの友人が行っていない場所で、誰も食べたことがない料理を食べる。それをアップした後のSNSを通じた反応を楽しむのだ」と深澤氏はいう。

銀座の歩行者天国でお姫様抱っこの中国客。日本人からみると、やりすぎ感をおぼえる大胆なポージングは、彼らの自己顕示欲をストレートに満たすようだ

 今日の中国のSNSほど、面子にこだわる中国人らしさが表出される世界はないかもしれない。それはあからさまに「リア充」を見せつけることを控えようとする恥じらいの心理やひとひねりのセンスが加味されがちな日本のSNS事情とはかなり様相が違うといえるだろう。

Next:「中国で口コミの核になる人たちを集める意味」