旅行体験共有会というインバウンド・プロモーションの手法をご存知だろうか。

 一言でいえば、ネット上でつながるファンを集めて実際に現地を旅した人が旅行体験を語り合うイベントだ。世界各国で中国人の観光ビザの要件が緩和されるなか、中国にあるフランスやスペインなどの観光局がアーリーアダプター(新しいサービスや商品を早い段階で受容する人たち)向けに有効なコミュニケーション手法として採用している。

 2016年の訪日外国人数が2403万人となり、市場の規模は着実に拡大している。だが、インバウンド市場は、京都のように多くの外国人観光客が押し寄せ、混雑することが問題になっている地域がある一方、まったく訪問客のいない地域も多い。こうした海外からの知名度がない地域や個別の商業施設、観光スポットの場合、誘客のためのプロモーションを何から始めたらいいのだろうか。そのひとつの答えとなるのが、旅行体験共有会である。

 前回に続き、岐阜県の中国向けプロモーションの取り組みの事例を紹介したい。この手法は、中国に限らず、どの国向けでも使えるうえ、地元が十分受け入れ可能で、本当に来てほしい層を呼び込むのに有効なSTPマーケティング(セグメント、ターゲティング、ポジショニングを設定した手法)の実践といえる。

最初から個人客を狙う

 岐阜県が中国向けインバウンド・プロモーションを本格的に開始したのは、2010年の上海万博の頃だった。きっかけは日本館内のイベントスペースで岐阜県を紹介するイベントを実施するにあたり、そもそも岐阜県を知っている人がいなければ、展示をしても意味がないのではないかという懸念があったことだ。昨年、中国での日本映画の歴代興業収入の新記録を樹立した大ヒット映画『君の名は。』の舞台として「聖地巡礼」がにわかに中国でも注目される岐阜県だが、当時、観光交流推進局に在籍していた北村和弘(現・飛騨県事務所振興防災課)氏は、イベント前から同県の認知度向上を進める必要性を感じていた。

 北村氏は「最初から団体客を相手にせず、個人客をターゲットと考えていた」という。その頃、東京・大阪ゴールデンルートに集中していた中国客は、岐阜県を素通りしていた。「(最寄りの乗り入れ)空港がなく、都市部から時間がかかるというアクセスの悪さ」という弱みを抱えた岐阜県はそれに甘んじるしかなかったが、知名度のない地域はもともと外国客の受け入れ態勢が十分でないため、一度に大量に来るより、少しずつ来てもらうことのほうが理想的だ。それに、実際に来てほしいのは質のいい客層であって、数の規模でインバウンドの成果を図るのはおかしいと考えていたからだ。

 数ある海外市場で最初に中国向けの取り組みを始めたのは、ちょうど2009年から個人観光ビザの解禁が始まったからでもあった。まずは岐阜県を知ってもらわなければならない。しかも、それを広く一般ではなく、潜在的に訪日の可能性のある個人に向けて情報を届けるにはどうしたらいいのだろうか。普通に考えたら、雲をつかむような話である。

 その頃、北村氏が出会ったのが、羅徳共拓公関顧問(上海)有限公司(RF KYODO)深澤和博氏だった。中国の訪日旅行市場に精通していた彼と北村氏による二人三脚のインバウンド・プロモーションはそこから始まった。

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