特集・自治体の施設管理に民間の知恵を

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仕様書作成よりも、事業者との協議に労力を掛けたい

流山市総務部財産活用課ファシリティマネジメント推進室室長 寺沢弘樹氏に聞く

聞き手:黒田 隆明【2015.3.31】

千葉県流山市は、ファシリティマネジメント先進自治体の一つとして知られる。「デザインビルド型小規模ESCO」や「事業者提案制度」といった公共施設管理の新しい手法(解説はこちら)で成果を上げている。一見、手間が掛かって面倒にも見える手法だが、同市ファシリティマネジメント推進室長の寺沢弘樹氏は「仕様書をつくるより楽」だという。

(写真:編集部)

――フィージビリティスタディ(FS)をせず、優先交渉事業者と協議しながら仕様を詰め、その後に契約するという流山市の「デザインビルド型小規模ESCO」(※1)は、どのような経緯から生まれたのですか。

 市として初めてのESCO事業を保健センターで導入しようとしたときに、事業規模が小さいということもあったのですが、FSにお金は掛けられないということになったんです。それで別の方法を考えることになりました。

 ESCO事業は、事業者と協議が整えば契約というプロセスで事業を進めます。それならば、その協議の場でいろいろ教えてもらいながら、FSもしながら事業を組み上げる方法にすればいいのではないか、ということを思い付きました。

 さらに「デザインビルド型小規模バルクESCO」では、規模の大きい図書館・博物館をコア施設として、規模の小さな5つの福祉会館を組み合わせてまとめて発注しています。

 これらの事業では、いろいろな自治体の事例を参考にしています。保険センターのESCO事業では、大阪市、佐倉市、福岡市の手法を、「小規模バルクESCO」ではさらに埼玉県や青森県の手法も参考にして事業を組み上げました。

 公共施設の設備管理の包括施設管理委託業務(※2)にも、「デザインビルド」は非常に有効です。

 包括委託のために、施設ごとの仕様書を真面目につくろうとすると、これが非常に難儀なんです。今まで施設ごとにバラバラに管理をしていたものを、一本の仕様で合わせなくてはならないからです。そこで「今の仕様はみんなバラバラです。理想的にはxxくらいの基準がいいと思っています。どこで折り合いをつけるかは話し合って決めましょう」ということで、事業者と協議を進めて仕様を決めていきました。

随意契約は一般競争入札と並ぶ立派な制度です

――流山市の「FM施策の事業者提案制度」(※3)は、我孫子市(千葉県)の「提案型公共サービス民営化制度」などを参考にしてつくったとお聞きしました。両者の違いはどこにありますか。

 僕の理解では、我孫子市の制度は「市の全事業を公開して、その事業に対して委託・民営化の提案を募る」というものです。それに対して流山市の制度は「うちの持っている資産を使って、何かやってください。何ができますか」という形です。つまり、これまで市がやっていない事業の提案も募集しているのが特徴です。一方で、我孫子市の場合はソフトも含めた全事業が範囲ですが、こちらはファシリティマネジメント(FM)関連施策だけです。

――流山市でも我孫子市でも、実際に民間からの提案が事業化されています。よい制度だと思うのですが、他の自治体にあまり広まっていないように見えます。どうしてだと思いますか。

 取り入れようとしている自治体もいくつか出てきているようですが、一つには「(庁内で)何で職員が自分たちでやらないんだ」と言われてしまう、ということがあるようです。これは僕らも言われました。  

 もちろん、僕たちの頭で考えられることはどんどんやっています。でも、流山市では全部で28万m2もの、ものすごい量の資産を抱えているわけです。これらすべてについて、最小の経費で最大の効果を挙げるにはどうしたらいいのか。僕はそのための手段を選んではいけないし、そのプレーヤーになる人が外にたくさんるのだったら、そういった人たちの力を借りるのは当たり前のことだと思っています。

――提案制度では、採用された提案を事業化するときは随意契約になります。このことが導入のハードルになっているということはないですか。

 随意契約というのは、どんな契約をしたのかを見れば、質も含めて行政の中身がよく見えるんです。もしかしたら、それが嫌な人もいるかもしれませんね。

――提案制度は透明性の高い制度だと思いますが、とはいえ、随契というだけで「業者との癒着」みたいなイメージを持たれてしまうという怖さもありそうです。

 随意契約は、地方自治法の施行令で定められている契約方法ですから、一般競争入札と並ぶ立派な制度です。もちろん制度には一長一短あるので、どう棲み分けるのかというところに、僕ら職員の感性だったり、センスだったりが問われるところではあると思います。

事業者との協議が新しいアイデアを生む

(写真:編集部)

――提案制度にしろ「デザインビルド」にしろ、事業者と協議をして決めていく部分のウエイトが大きいですね。一般競争入札での事業者選定と比べて手間が掛かりませんか。

 僕らがやるべきことは、オーナーとして「日当たりのいい家に住みたいな」とか、「持っている予算は2000万円ですが、これで家を建てられますか」といった要件をきちんと明確することがまず第一です。でも、それを形にできるのは僕らではなくて、設計事務所だったり施工事業者の皆さんですから、そういった人の力をきちんと借りていきましょう、ということです。

 やりたいことがあればそのことは明確にしますが、その後は民間企業と協議しながらつくり上げていく方が、結果的にいいものができるし、欲しいものが手に入るんじゃないかと思っています。僕にとっては、仕様書をつくるよりよっぽど楽かな、という気がしています。

――「楽」ですか?

 今までの役所の発注の仕事というのは、仕様書を作成することが主になっています。仕様書の作成に8割から9割方の労力を掛けて、後は入札の手続きをしたり、契約を交わしたりしていくわけです。

 仕様書の作成というのは、事業者が出してくれたものを鵜呑みにするなら別ですけど、本来はそれぞれの分野で専門的な知識が求められます。例えばエレベーターについて、「いくらの予算の中で、こういう管理をしてほしいんだ」「プラスαのサービスでこういうことをしてほしいんだ」ということを積み上げていくのはすごく難しいんです。なので、自分たちの専門知識のレベルで、よりよいサービスをより安く提供してもらおうとすると、性能発注にならざるを得ないと思っています。

 それに、やっぱり人間って人と話している中からいろいろなアイデアや改善策が生まれたりしますよね。だから僕は、仕様書作成に労力を掛けるなら、事業者との協議に労力を掛けたいなと思っています。協議では、専門性が求められることも(仕様書を一から作成するのに比べれば)少ないですし。

――「高値づかみをさせられる」「ぼられる」といった心配はないですか。

 そのことは他の自治体の人にもよく聞かれます。僕らはこれまでに一般競争入札によらない契約を何十本か結んでいると思いますが、「ぼられた」といったことは一度もありません。これまでが幸運だっただけかもしれませんが、そこは工夫次第かなと思っています。

 そもそも、僕らの募集要項はペラペラで大体7、8ページしかありません。民間企業がこれを見て企画提案書をつくるためには、おそらく入札のための内訳をつくるよりはるかに労力が掛かるはずなんです。そうしたプロセスがあるので、あまりおかしな事業者はきっと出てこられないと思いますし、プロポーザルで何社かが並んだ中では、(おかしな事業者がいれば)きっと見えるはずです。もちろん、それを「見る力」は必要ですが。

――事前協議をしていくのは、民間事業者にとって負担が大きい面もあるのではないでしょうか。そこまで手間を掛けて割に合うのか、という疑問もあります。

 今までに2つ、公募を出して不調になったケースもあります。やはり条件が合わなければ民間企業は来てくれません。逆に、事業化に直接結び付かなくても、流山市民総合体育館(2016年4月開館予定)のサウンディング型市場調査(事業者公募前の意向調査)では、20グループに説明会に参加していただき、8グループから提案をいただきました(※4)。事業化に直接つながらなくても、これだけの数の企業に参加してもらえるわけです。

 ですので、企業に参加してもらえるかどうかというのは、これはもう、どうやって魅力的な案件をつくっていくかという、そこに懸かってるのかなという気がしています。

寺沢弘樹(てらさわ・ひろき)
流山市総務部財産活用課ファシリティマネジメント推進室室長
1975年生まれ。東京理科大学理工学研究科修了。2001年流山市入庁。建築行政・企画・教育委員会・都市計画部門を経て2012年度から総務部財産活用課でFM業務に従事。2014年4月、同課ファシリティマネジメント推進室発足と同時に室長に就任。認定ファシリティマネージャー、一級建築士、JFMA公共施設FM研究部会副部会長

脚注――事業者との協議を重視する流山市のFM施策例

※1 デザインビルドとは、一般的には施設の設計・施工の一括発注を指すが、流山市では、優先交渉権者との協議によって事業を組み立てていく手法のことをデザインビルドと呼んでいる。

 流山市では、保健センター(2310m2)で初めてESCO事業を実施した。フィージビリティスタディを行うのではなく、まず、簡易プロポーザルにより優先交渉権者を選定する。そして、省エネルギーセンターの無料省エネ診断のデータと、施設や設備の情報などをもとに、優先交渉権者と市が協議をしながら詳細を決定していくという「デザインビルド型小規模ESCO」の手法を用いた。2010年11月に公募、12年4月1日から事業実施。12年度は200万円以上の光熱費を削減できた。

 その後実施した「デザインビルド型小規模バルクESCO」は、規模の大きな図書館・博物館をコア施設として、規模の小さな5つの福祉会館を組み合わせ発注することで、小規模施設の省エネ性能を向上させることができた。13年4月に事業を開始。年間2000万円の光熱費を削減できる見込みだ。

デザインビルド型小規模ESCO事業のイメージ。規模が小さくても事業が成立するよう、「小規模補正」として設備更新に要するイニシャルコストの一部を流山市が負担している(資料:流山市)
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流山市では、大阪市、佐倉市、福岡市、埼玉県、青森県の制度をベースにデザインビルド型小規模ESCO事業の手法を進化させていった(資料:流山市)
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※2 デザインビルド型包括施設管理業務委託とは、市の複数の公共施設の設備などの保守管理、点検、法定検査、維持管理などを包括的に業務委託するというもの。流山市では46施設を依頼している。スケールメリットなどによって削減したコスト分で、設備点検だけでなく毎月1回の対象施設の巡回点検、巡回点検時のパッキンの交換や簡易な建具調整、短期修繕計画書の提案などのサービスも事業者が併せて実施する。
※3 「FM施策の事業者提案制度」とは、テーマ(対象施設・事業概要など)を定めず、民間事業者から「流山市のファシリティ」でできることを自由に提案してもらう制度。市に新たな財政負担が生じないことが条件となる(予算の付け替え、広告収入や補助金活用などによる相殺も可)。採用された案件は、流山市との協議(デザインビルド)により事業化を図る。事業化決定時の契約は随意契約となる。流山市では現在、第3回FM施策の事業者提案制度の応募事業者を募集中だ。2015年7月3日まで、事前相談・質問を受け付けている。
FM施策の事業者提案制度のイメージ。(資料:流山市)
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※4 老朽化した総合体育館の建て替え事業。2016年年4月に開館予定。以前の総合体育館が延べ面積約4000m2だったのに対し、建て替え後の新体育館は約1万m2となる。流山市ではここまで大きな規模の体育館を運営した経験がなく、「だったら、どんな運営ができるのかを民間の皆さんに聞いてみよう」(寺沢室長)ということで、「サウンディング型市場調査」を2014年5月に実施。さらにヒアリングによる調査も実施した。
建て替え後の総合体育館西側エントランスのイメージ ▼延べ面積:1万0648.04m2 ▼構造・階数:鉄筋コンクリート造、鉄骨造、地上3階建て、高さ:19.05m ▼主な施設:メインアリーナ:2100m2(バスケットボールコート時2面、バレーボールコート時3面)、観覧席:2階固定席1488席、ランニングコース(2階観覧席外周)、サブアリーナ:985平方メートル(バスケットボールコート時1面、バレーボールコート時2面)、武道場、弓道場、会議室、フィットネス用スタジオ、防災備蓄倉庫など(資料:流山市)
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・流山市のファシリティマネジメント(同市のサイト)
http://www.city.nagareyama.chiba.jp/information/81/427/index.html

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