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革新性をもたらす洞察は、現場の「実践知」に根差す【前編】――日本企業の強みを活かす帰納的飛躍を起こそう(1/4ページ)

2014.02.17

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 世界的に経営・経済環境が激変する中、日本企業は何を目指すべきか、どうあるべきか。この問いに対して、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏は「コトづくりのイノベーションを持続的に生み出す」ことを目指し、それを実現する共同体を創ることが必要だと答える。そして、その鍵は「実践知」だと主張する。知識創造経営の生みの親として知られる野中氏に、今後の日本企業の経営に求められるものは何かを聞いた。

持続的にコトづくりのイノベーションを生み出せ

――アベノミクスで日本経済が上向きになってきていますが、恩恵を受けているのは一部の大企業だけで、大半の企業はいまだ苦境から脱し切れていないのが現実です。経済・経営環境が激変している中で、これから日本の企業は何を目指し、どう変わっていけばよいとお考えですか。

野中郁次郎 一橋大学 名誉教授

野中郁次郎 一橋大学名誉教授(以下、野中) かつて、日本企業は様々な分野でイノベーションを起こし、世界を席巻していました。しかし、苦境にあえぐ家電業界に象徴されるように、現在は多くの大企業がそのような状況にはありません。その理由は、イノベーションが単独のモノづくりに留まり、多様な関係性を巻き込むコトづくりに至っていないためだと考えられます。今後は、コトづくりのイノベーションを持続的に生み出すことを目指し、それができる組織を創るべきでしょう。

 モノづくりのイノベーションは、日本企業の強みです。それが現場でのコトづくりに結びついていない原因のひとつは、経営手法の変化にあります。近年の日本企業における一番の問題は、オーバーアナリシス(過剰な論理分析)、オーバープランニング(過剰な経営計画)、オーバーコンプライアンス(過剰な法令順守)に陥っていることです。いずれも米国流の経営手法に対して過剰に適応し、人間の創造性を劣化させてしまった結果です。

 一例をあげれば、私が会社に所属していた時代には、仕事が勢いに乗れば時間を忘れて一心不乱に仕事に取り組んだわけですが、今は残業規制という理由で仕事を中断してしまう。確かにコンプライアンスは大事ですが、状況を無視して一律に残業を禁じるなど、人間の潜在能力の勢いを止めてしまう可能性もあります。

 さらに、日本企業の現場では従来、何か課題があれば、トップの高邁なビジョンに挑戦するミドルが中心となって、主体的にその場でアクションを起こし、周りを巻き込んでいました。しかし、これもなくなりつつある。分析や計画が先行し、現場が「動きながら考える」リアリズムを否定するコーポレートスタッフ主導の分析的な経営は、観念論で行動が伴っていません。いわば「脳」と「身体」を分離してしまったようなものです。そのうえ、セクショナリズムや官僚的で硬直した人事制度によって、組織はサイロ化し、知が閉鎖的になりました。このような組織からは、組織内外の境界を超えて知をつむぐコトづくりのイノベーションは生まれてきません。

 イノベーションは単なる技術革新という研究開発部門の成果ではなく、組織内外の人々が互いに関係する中から創造するものです。それぞれの現場の状況や文脈の中で、そこに集う人々の価値観が共感・共鳴・共振する中から生まれてくるのです。したがって、「世のため人のため」という共通善に向かう価値観が重要になります。つまり、イノベーションは人の生き方そのものだと言うこともできます。ネットで検索すればすぐに出てくるようなすでにある知識を組み合せればできるものでなく、何をしたいか、どうしたいか、という個人の主観や信念が先なのです。言い換えれば、イノベーションは、聖書にあるように始めに「言葉(Word)」ありきではなく、「思い(Belief)」ありきなのです。

野中 郁次郎(のなか・いくじろう)
一橋大学 名誉教授
米クレアモント大学大学院 ドラッカー・スクール 名誉スカラー
早稲田大学 特命教授
1935年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造(現・富士電機)を経て、米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院で博士号を取得。南山大学、防衛大学校、北陸先端科学技術大学院大学、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の教授を経て、2006年4月に一橋大学 名誉教授となる。早稲田大学特命教授を併任。2002年、学術研究や芸術・文化などの分野で顕著な功績のあった人に贈られる紫綬褒章を受章。2008年5月Wall Street Journal紙「最も影響力あるビジネス思想家トップ20」にアジアから唯一ランクイン。2010年秋、瑞宝中綬章を受章。2013年11月に最も影響のある経営思想家50人を選ぶThinkers50のLifetime Achievement Award(生涯業績賞、功労賞)を受賞。現在も精力的にグローバルな視野で研究を行っている。
 『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社)『アメリカ海兵隊』(中公新書)『知識創造企業』(共著、東洋経済新報社)『イノベーションの本質』(共著、日経BP社)『イノベーションの知恵』(共著、日経BP社)『流れを経営する』(共著、東洋経済新報社)など著書多数。
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