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革新性をもたらす洞察は、現場の「実践知」に根差す【前編】――日本企業の強みを活かす帰納的飛躍を起こそう(4/4ページ)

2014.02.17

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フロネシス(実践知)は個人の経験の積み重ねから得られる

――フロネシス(実践知)が、どういうものであるか、もう少し詳しくご説明いただけますか。

野中 アリストテレスが提唱した3つの知識の概念の位置づけを把握すれば、フロネシス(実践知)の本質が理解できるかもしれません。アリストテレスの3つの知識とは、エピステーメ「Know Why(なぜ実行するか)」、テクネ「Know How(どのように実行するか)」、フロネシス「Know What(何を実行するか)」です。「何を実行するか」には「共通善」という目的をどう考えるか、という問いが不可分にくっついています。

 例えば、自動車メーカーを考えてみましょう。最近、トヨタでは「いいクルマ」というビジョンを提唱しています。しかし、何がいいクルマなのかは時代とともに変わってきます。人々の価値観や嗜好は経済状況や市場動向によって異なり、「いいクルマ」に唯一最善の普遍的な意味はありません。ですので、エピステーメ(Know Why)では「何がいいクルマか?」という問いには答えられません。自動車メーカーでのテクネ(Know How)は、どうすればクルマを高品質で効率的に生産できるかを知っていることです。これも、先の問いには答えられません。

 一方、フロネシス(Know What)は、「共通善」の実現に向けてその時々の経済状況や市場動向を読んで「いいクルマとは何か」「どうすれば、それを作れるのか」の両方を答える知恵や知識のことです。そこで出てくる答えは、企業の共通善の価値観と、その時々の状況や文脈によって異なるわけですから唯一最善の解があるわけではありません。重要なのは、共通善の高い志を持ち、衆知を結集してよりよい解を持続的に実践することです。たとえば、製薬企業のエーザイでは、「hhc(ヒューマンヘルスケア)」を共通善として掲げています。この価値観にコミットするかぎり、必ず何らかの「回答」を即座に答えることができます。それを可能にするのがフロネシス、すなわち実践知です。

 実践知は机上の学習だけで得られるものではありません。共通善に向けた思いとその人の過去の経験を通して構築された知識の集積から得られるものなのです。

――実践知があると、SECIモデルの中で暗黙知と形式知が相互に変換されやすくなるわけですか。

野中郁次郎 一橋大学 名誉教授

野中 現場に根ざす暗黙知を形式知に変換するには、まず、暗黙知を豊かにするための第一歩を踏み出すことです。志のある人々で「場」を共有して共に経験を積み、様々な対話を行うことで、共振、共感、共鳴が起こります。そして、対話と実践とを反復することが、知の創造に結びついてきます。GEは、社内で数々の改革プロジェクトを進めていますが、CEO(最高経営責任者)のジェフリー・イメルトさんと話をすると「楽しいのは、俺も入っている社長直轄プロジェクト」と言っていますね。ホンダでは、新商品開発のプロジェクトチームが立ち上がると、3日3晩をかけて合宿をして知を出し合う「ワイガヤ」をします。場を共有して対話をすることでお互いを受け容れ合うようになり、発想の飛躍が期待できるのです。

後編に続く)



【次回予告】
 インタビュー後編となる次回は、企業経営における「実践知」の役割や、イノベーションを起こす手法などを語っていただきます。野中氏は、フラクタルな組織構造の中に実践知を埋め込むことが重要だと指摘しています。ご期待ください。
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